映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「午前4時にパリの夜は明ける」

「午前4時にパリの夜は明ける」
2023年4月27日(木)新宿武蔵野館にて。午後2時50分より鑑賞(スクリーン3/C-6)

シャルロット・ゲンズブール主演。家族の何気ない日常と成長を温かな視線で描く

シャルロット・ゲンズブールといえば、ご存知セルジュ・ゲンズブールジェーン・バーキンの娘。初の主演映画「なまいきシャルロット」(1985年)は今でも強烈に印象に残っている。可愛かったよなぁ~。

そんな可愛い面影を今も残しているシャルロットの最新主演映画が「午前4時にパリの夜は明ける」。監督は無差別テロで大切な姉を失い、遺された7歳の姪を引き取ることになった青年の戸惑いと2人の絆を描いた「アマンダと僕」のミカエル・アース。

1980年代のドラマだ。1981年のパリ。夫と別れ、10代の娘と息子を1人で養うことになったエリザベートシャルロット・ゲンズブール)。仕事を探すうちに、自分が好きだった深夜のラジオ番組のアシスタントの仕事を見つける。ある日、その番組に出演した家出少女のタルラ(ノエ・アビタ)を放っておけずに自宅に連れ帰る。こうしてタルラを加えた4人での新しい生活が始まるのだが……。

大きなことは何も起きないドラマだ。不器用で繊細な母親のエリザベート、政治活動に熱心な長女のジュディット(メーガン・ノータム)と詩人を夢見る長男マチアス(キト・レイヨン=リシュテル)。そして影のある家出少女のタルラ。彼らのささやかな日常が淡々とつづられる。

エリザベートは出産以来、ほとんど働いたことがない。しかし、夫と別れて仕事をせざるを得なくなる。父親が援助を申し出るが、彼とて裕福ではない。そんな中、大好きなラジオ番組の電話受付(聴取者からの電話を生放送につなぐ)という仕事を見つけ、生き生きと働く。

その一方で、年頃の娘や息子には手を焼く。特に息子のマチアスは進路に迷い、母とぶつかることもある。だが、決定的な破綻には至らない。エリザベートは弱さを抱え、何かあればすぐに愚痴ったり泣いたりする。それでも最後には自分や家族を信頼し、彼らをつかず離れず見守る。

途中で、タルラを家に招き入れる際も、エリザベートはごく自然に振る舞う。大上段に「困っている人を助けるのだ」などという義務感や正義感を振りかざすこともない。マチアスやジュディットもそれを受け入れる。2人とも反抗はしていても、母を信頼し愛しているのだ。こうした自然体の関係がとてもよい。

とはいえ、マチアスはタルラの不思議な魅力にやられ、彼女に惹かれていく。そうした恋物語も、彼の成長の大きな要因として描かれている。屋上からパリの街を見ながら、タバコを吸う2人がとても微笑ましい。

ちなみに、この映画では男も女も、老いも若きもタバコをスパスパ吸うが、これは当時の時代によるものだろう。今ならこうはいかないよね。

後半は時間が少し飛んで、エリザベートは昼間は図書館で仕事をしている(深夜ラジオだけでは食べていけないのだ)。そこで、新しい恋人ができる。ジュディットは家を出て、友人たちとシェアハウスに住んでいる。マチアスは仕事をしながら詩人を目指している。そして、行方をくらませていたタルラは再び家族の前に姿を現す。

この後半のパートでは、家族それぞれの成長が描かれている。様々なことを経験し、笑い、涙を流し、それでも前に向かっていく彼らの姿は、とても清々しく見える。そこからは、家族の絆の大切さも伝わってくる。

アース監督は、そんな家族を終始温かく優しい視線で見守っている。聞けば、監督も80年代に思い入れがあるとのこと。このドラマにノスタルジックな風が吹いているのは、そのせいかもしれない。

80年代の様々なアイテムが効果的に使われるのも本作の特徴だ。ミッテラン大統領の登場をはじめとする政治ネタ、エリック・ロメールの「満月の夜」やジャック・リヴェットの「北の橋」などの映画ネタ、キム・ワイルド、テレビジョン、ジョン・ケイルなど当時のヒット曲をはじめとする音楽ネタが満載。特にジョー・ダッサンの「Et si tu n'existais pas(もし君がいなかったら)」という曲は家族にとって大切な曲だ。

終盤で音楽をバックに、家族が輪になってダンスをするシーンも出色。彼らの自然な距離感と絆の強さが伝わってくる(この映画の公式ホームページに、80年代の映画や音楽のことがチラッと書いてあるので、それをチェックしてから観たほうがいいかも)。

また、パリの風景も本作の大きな魅力。明け方までの番組が終わってエリザベートが歩く街の風景や、アパートの部屋の窓から見下ろす風景などが、とてもいい味を出している。

シャルロット・ゲンズブールが主人公を好演。ラジオDJの役で出ているエマニュエル・ベアールも存在感十分だ。2人の子供を演じたキト・レイヨン=リシュテル、メーガン・ノータム、タルラ役のノエ・アビタも見事な演技だった。

ごく普通の家族の悲喜こもごもと彼らの成長が温かな視線で描かれていて、観終わってとても心地の良い映画だった。明け方のパリの街をふらりと歩いてみたくなった。

◆「午前4時にパリの夜は明ける」(LES PASSAGERS DE LA NUIT)
(2022年 フランス)(上映時間1時間51分)
監督:ミカエル・アース
出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、メーガン・ノータム、エマニュエル・ベアール、ティボー・ヴァンソン、ロラン・ポワトルノー、ディディエ・サンドル
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://bitters.co.jp/am4paris/

 


www.youtube.com

にほんブログ村に参加しています。ポチしてね。

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

はてなブログの映画グループに参加しています。こちらもポチしてね。