映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「銀河鉄道の父」

銀河鉄道の父」
2023年5月8日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時10分より鑑賞(スクリーン9/D-11)

~放蕩息子の宮沢賢治を見放さない父の愛は偉大なり

父母の愛はとてつもなく大きい。そんな当たり前のことを再確認させてくれる映画が「銀河鉄道の父」である。直木賞を受賞した門井慶喜の小説を「八日目の蝉」「いのちの停車場」「ファミリア」などの成島出監督が映画化した。

タイトルからもわかるように宮沢賢治の父・政次郎を主人公に据えて、彼と賢治、妹のトシ、賢治の母・イチなどとの家族愛を描いたドラマである。

映画の冒頭、岩手県で質屋を営む宮沢政次郎(役所広司)が列車に乗って自宅に戻ろうとしている。長男(賢治)が生まれたという知らせが入ったのだ。そのはしゃぎぶりは滑稽なほどである。いかに彼が息子の誕生を待望していたかがわかる。

その後、賢治が赤痢にかかって入院すると、政次郎は妻のイチ(坂井真紀)を差し置いて、自ら病院に泊まり込んでつきっきりの看病をする。賢治の祖父の喜助(田中泯)が止めるのも聞かない。

こんなふうに息子を溺愛する親バカ父ちゃん、といった様相を呈する政次郎だが、その後は賢治(菅田将暉)とぶつかる。学校を出た賢治に家業の質屋を継がせようとする政次郎だが、賢治はそれを拒む。おまけに彼には商才というものがなかった。

何だかんだと言って、農学校に進学すると、今度は人造宝石を作るなどと大風呂敷を広げる。さらにその後は、日蓮宗に入れあげて家の宗教である浄土真宗を批判する。あげくに信仰のために家を出て東京に行ってしまうのだ。

まあ自分探しと言えば聞こえはいいが、はっきり言って賢治はとんでもない放蕩息子なわけだ。当時なら勘当ものかもしれない。それでも政次郎は時には対立しながらも、彼を見放さずにいるのである。

賢治にとって転機になったのは、愛する妹のトシ(森七菜)が結核にかかったこと。トシを喜ばせようと、物語を書くようになり、それをトシの前で読んでやる。家族も献身的にトシを看病する。まさに家族愛のドラマが展開される。

だが、当時結核は不治の病。トシはやがて亡くなり、賢治はまた迷いの中に入る。それを乗り越えて作家となり、自費出版で本を出すが、評価は高かったもののまったく売れない。そんな賢治を政次郎は励まし、一生懸命に応援する。ところが、今度は賢治が結核にかかってしまう。

というように賢治の生涯をたどりつつ、政次郎を中心とした家族のドラマを展開する。「風の又三郎」「注文の多い料理店」「銀河鉄道の夜」といった賢治の作品も、ソツなくドラマの中に盛り込んでいる。

感動作という呼び声の高い本作。なるほど、坂口理子による脚本はいかにもという感じだが、それでも過剰な演出を排しているのはさすがに成島監督。ユーモアを交えて、自然に無理なく観客を感動に導いている。

成島監督と言えば長回しの映像が特徴だが、今回は手持ちカメラも大活躍。ドラマに臨場感を生み出している。

そして、クライマックスではお得意の長回しの映像が感動を盛り上げる。賢治の死を前に、政次郎が「雨にも負けず」の詩を全文朗読する圧巻の場面を生み出している。

岩手の美しい大自然も、映画の随所に盛り込まれ(まるで美しい絵画のよう)、ドラマに彩を添えている。

ラストは銀河鉄道に引っかけて、冒頭と対になる列車のシーン。余韻の残るエンディングだった。

それにしても、政次郎の賢治に対する溺愛ぶりはすさまじいものがある。これを無上の愛というのだろうか。ふだんなら、どんなに抑制的に描いてもウソ臭さは否めないところだが、父を亡くして1年にもならない身としては何やら素直に受け止めてしまった。賢治と私みたいな雑文書きを同列に扱うのは不遜だが、失礼と思いつつ賢治に自分を重ねて見てしまったのだ。

というわけで、感動させようという製作側の意図に、乗るまい乗るまいと思いつつ、その意図通りに感動してしまったのである。

そんな個人的な思い入れはともかく、斬新さや驚きは皆無の映画。政次郎が自分の父とは違う「明治の新しい父親」になろうとしていた、というような視点もツッコミが浅い。その代わり、誰もが安心して楽しめる映画になっているのは確か。まさに万人受けしそうな感動作だ。

俳優陣ではやはり役所広司菅田将暉の共演が見もの。両者のバトルはなかなか迫力があった。長女・トシ役の森七菜もなかなかいい。ボケてしまった祖父役の田中泯に向かって「きれいに死ね」というところは、ドスがきいていてカッコよかった。

◆「銀河鉄道の父」
(2023年 日本)(上映時間2時間8分)
監督:成島出
出演:役所広司菅田将暉、森七菜、豊田裕大、池谷のぶえ、水澤紳吾、益岡徹、坂井真紀、田中泯
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://ginga-movie.com/

 


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