映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「違国日記」

「違国日記」
2024年6月11日(火)イオンシネマ板橋にて。午後2時30分より鑑賞(スクリーン9/F-11)

~叔母と姪の奇妙な同居生活。わかり合えなくても寄り添うことはできる

 

2回続けてイオンシネマ板橋。今回もサブウェイのサンドイッチを食す。取材のインタビュー後に急いで駆け付けたので時間がなかったのだ。

そして駆け込んだスクリーン9。観たのは「違国日記」。ヤマシタトモコの漫画を「PARKS パークス」「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」「ジオラマボーイ・パノラマガール」の瀬田なつき監督が映画化した。

人見知りで不愛想な小説家と、彼女が勢いで引き取った亡き姉の娘(つまり姪)の共同生活を描いたドラマだ。

映画の冒頭、15歳の朝(早瀬憩)の笑顔が映る。その向こうには同じく笑顔の母(中村優子)がいる。その直後、車が朝の前を横切る。朝は茫然として手にしていたアイスを落とす。目の前で交通事故が起きて、朝の母と父が亡くなったのだ。

その葬式の席で、朝は列席した親戚たちの無神経な言葉にさらされる。その時、叔母で小説家の槙生(新垣結衣)が親戚たちの態度に我慢ができず、勢いで彼女を引き取ると言ってしまう。そこから2人の共同生活が始まる……。

槙生と朝は性格が正反対だ。槙生は不愛想で人見知り。他人と暮らすなんてあり得ないと思っている。一方の朝は、人懐っこくて天真爛漫だ。

おまけに槙生は朝の母、つまり自分の姉のことが大嫌いでずっと疎遠だった。朝がその理由を聞いても、まともに答えてくれない。槙生は「大嫌いな人の子供の朝を好きになれるかどうかわからない」と言い放つ。そんな2人が一緒に生活するのだから、軋轢がないわけがない。最初のうち2人はぎくしゃくする。

この映画では大きな事件は起きない。槙生と朝の日常生活を描くのみだ。しかし、それを丹念に積み上げていくことで、2人の関係性の変化を表現していく。

序盤で感心したのは、朝の感情表現だ。基本的には明るく、キラキラとした青春を送る。しかし、その端々で両親、特に母の死の影響が微妙に顔を出す。友人や先生たちのある行動が朝を激怒させ、中学の卒業式に出席しなかったのはその一例だ。

一方の槙生も勢いで朝を引き取るといったものの、その後のことは何も考えていなかっただけに、色々と戸惑いが大きい。その感情の揺れを巧みに表現する。それでも彼女の言動の端々には誠実さが感じられる。一見不愛想でもそこには優しさがある。

セリフもなかなか面白い。原作に沿っているのかもしれないが、テンポが良く、ウィットに富んでいて、思わずうなってしまうようなセリフが多い。一方で、そうしたセリフにばかり頼るのではなく、それ以外の余白の部分で繊細な感情を表現する。

お互いに相手のことが理解できずに葛藤を繰り返しながら、それでもまっすぐに向き合い少しずつ心を開いていく槙生と朝。そんな2人のかけがえのない日常がスクリーンに映し出される。

脇役の存在も大きい。特に槙生の親友の醍醐(夏帆)、元恋人の笠町(瀬戸康史)が2人の生活に色どりを加える。槙生と朝が醍醐と三人でギョーザを作るシーンは、ほほえましくて観ているだけで心が和む。笠町が槙生に親身になって寄り添う姿もとても温かだ。

本作では、槙生と朝の関係性のドラマだけでなく、朝が入学した高校での生活にもかなりの描写が割かれる。朝が入った軽音楽部での活動、女性差別を受ける同級生、女の子と付き合っているという女子生徒。最初は詰め込みすぎかなと思ったのだが、そうしたエピソードは朝の成長を物語るものとして必要不可欠なのだろう。そして、それは本作のテーマとも密接に関係する。

そのテーマとは、人と人とのつながりだ。他人はもちろん、血がつながっていても人と人はお互いを完全に理解することができない。それぞれ別の人間なのだから当然だろう。それでも、お互いに歩み寄って寄り添うことはできるし、それは大切なことなのだ。そのことを本作は伝えてくれる。

槙生と朝は親子とも、単純な叔母と姪の関係とも違う関係を結ぶ。

ラストは朝がバンドで歌うシーン。友人が生中継している映像を槙生も自分の部屋で見ている。笑顔の朝、笑顔の槙生。こちらの心も晴れやかになった。

欲を言えば、劇中に出てくる朝の母親の日記を、もう少し効果的に使ってもよかったかな。

槙生を演じた新垣結衣が良い演技を見せている。「正欲」に続いて個性的な役柄だが、メリハリの利いた演技が絶品。デビューした頃はアイドル的な扱いだったけれど、本当に良い俳優になったものです。

そして、本作の大きな驚きはオーディションで抜てきされた新人・早瀬憩。ふだんは明るいけれど心の傷がチラチラと時々顔を出す。そんな難しい演技を見事にこなしている。何より存在感がすごいのだ。見た目はフツーの女の子なのに、そこにいるだけでオーラが出ている。恐ろしい新人が出てきたものだ。

夏帆瀬戸康史、小宮山莉渚、中村優子、伊礼姫奈、銀粉蝶などの脇役も、本作に見事にハマっている。

◆「違国日記」
(2024年 日本)(上映時間2時間19分)
監督・脚本・編集:瀬田なつき
出演: 新垣結衣、早瀬憩、夏帆、小宮山莉渚、中村優子、伊礼姫奈、滝澤エリカ、染谷将太銀粉蝶瀬戸康史
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://ikoku-movie.com/

 


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