映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「密輸 1970」

「密輸 1970」
2024年7月23日(火)グランドシネマサンシャインにて。午後1時35分より鑑賞(シアター7/d-8)

~海女さんたちが男どもをぶちのめす。娯楽映画の快作!


韓国映画にハズレはない。まあ、ハズレの映画は日本に入ってこないともいえるが。

昨夏、韓国で500万人以上を動員。2023年・第44回青龍映画賞で最優秀作品賞など4冠に輝いた「密輸 1970」も、とびっきり面白いクライム・アクションだった。男性の活躍が目立つ韓国の活劇で、珍しく女性たちが主人公で、男たちをぶちのめしてしまうのだから痛快極まりない。

1970年代半ばのお話。韓国の漁村クンチョン(架空の村らしい)。地元の海女さんたちは漁で生計を立てていた。だが、化学工場の排水の影響で漁獲量は激減し、生活が立ち行かなくなってしまう。そこでリーダーのジンスク(ヨム・ジョンア)は仲間の生活を守るために、海に沈められた密輸品を引き上げる仕事を請け負うことにする。ところが作業中に税関の摘発に遭い、ジンスクは刑務所送りとなってしまう。その時、ジンスクの親友チュンジャ(キム・ヘス)だけが現場から逃亡。彼女が税関に密告したという噂が立つ。その2年後、ソウルからクンチョンに舞い戻ってきたチュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸のもうけ話を持ちかける……。

冒頭は海女さんたちの漁のシーン。明るく開放感のある海で海女さんたちが生き生きと躍動する。そこで流れるのは韓国の流行歌(今のK-POPとは対極)。それが何ともいい味を出している。ちなみに、その後も流行歌はたびたび流れ、ノスタルジックだったり独特な空気感を作り出している。

海女さんたちは漁が立ち行かず、仕方なく密輸に手を染める。そこで大金を手にする様子をテンポよく、ケレン味たっぷりに、ユーモラスに描いていく。画面を分割するなど細かな工夫も目を引く。

しかし、ある日、密輸仕事中に税関が現れる。そこでジンスクは逮捕されてしまう。しかも、大混乱の中で父を亡くしてしまう。

ジンスクは刑務所に入るが、その季節の移ろいを、窓の外の景色の変化で表す手法が心憎い。ここでも細かな工夫が利いている。

摘発現場からはジンスクの親友チュンジャだけが逃亡していた。彼女が税関に密告したという噂が広がる。当然、ジンスクはチュンジャを恨む。

2年後、そのチュンジャが戻ってくる。彼女は密輸を仕切るクォン(チョ・インソン)と組んで、出所したジンスクにもうけ話を持ちかける。もちろん、チュンジャが裏切ったと信じているジンスクはその話をいったんは断る。しかし、仲間の窮状を救うために背に腹は代えられず誘いに応じる。

このジンスクとチュンジャの対立がドラマの軸だ。人情家のジンスク、苦労人で叩き上げのチュンジャというキャラの違いもわかりやすい。

そこに利権確保を狙う冷徹なクォンと地元の密輸を仕切るドリ、一見正義の男風な税関の係長ジャンチュンなどの思惑が絡んで、後半はだましだまされのゲームが展開する。脇役のキャラも明確だし、事の真相について「実はその前に」と何度が時間を遡って解明される仕掛けも面白い。

終盤はアクションの乱れ打ち。最初はホテルの部屋と廊下を舞台に、クォンと碧眼の部下(どちらもベトナム戦争帰りの元軍人)VSドリ軍団による凄まじい肉弾戦。続いて、ドリたちのアジトで、ドリ軍団VS捜査当局の戦い。そして、その後に用意されたのは海中での戦い。水の中を縦横無尽に泳ぎ回る海女たちVS彼女たちを殺そうとする男たちの華麗な水中戦。さらにはなんと人食いザメまで登場! よくもまあこんなことを考えるものです。

監督は「ベルリンファイル」「ベテラン」「モガディシュ 脱出までの14日間」のリュ・スンワン。なるほどねぇ~。そりゃあ上手いはずだわ。何を撮っても面白くする監督だもの。いろんなお楽しみを詰め込みすぎているし、どこかで見たようなところも多いし、漫画チックなところもあるけど、観ている間はそういうことを意識させないのだからさすがだ。

ラストは大団円。すっきりとカタルシスが味わえます。

エンドロールでも韓国の流行歌が流れ、その後には気の利いた後日談が映るので、それまで席を立たないように。

この当時、韓国では軍事独裁政権下で密輸も盛んに行われていたという。そういう暗い歴史をベースに、シリアスな話を展開するのではなく、徹底してエンタメ路線を追求しているのが本作の魅力だろう。

何よりも、女性たちが権力や暴力に屈することなく、団結して男たちに一撃を食らわせるのがユニーク。細かなことを考えずに楽しめる文句なしの娯楽映画の快作だ。

チュンジャを演じた「国家が破産する日」のキム・ヘスは、何物にも屈しないたくましさを体現。ジンスクを演じた「人生は、美しい」のヨム・ジョンアは、実直なリーダーを好演。それまでめったに笑わなかった彼女が、最後に満面の笑みを浮かべる姿が印象深い。

アクの強い脇役陣も存在感抜群だ。

◆「密輸 1970」(SMUGGLERS)
(2023年 韓国)(上映時間2時間9分)
監督:リュ・スンワン
出演:キム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソンパク・ジョンミン、キム・ジョンス、コ・ミンシ
*新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://mitsuyu1970.jp/

 


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