映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「アット・ザ・ベンチ」

「アット・ザ・ベンチ」
2024年11月18日(月)テアトル新宿にて。午後2時20分より鑑賞(A-11)

~川べりのベンチを舞台に繰り広げられる5編の物語。笑って、ほっこりして、じんわりして

 

兵庫県知事選挙はとんでもない結果になったが、昨今の選挙状況を考えればさもありなん。政策などよりわかりやすい物語を求める大衆を、どうにかして振り向かせないと、今後もこうしたことが起きるだろう。

などと偉そうなことを言ってみたが、そんなことには関係なく今回も新作映画のレビューをお届け。東京・二子玉川の川沿いにある古ぼけたベンチを舞台にしたオムニバス映画「アット・ザ・ベンチ」だ。

映像監督・写真家の奥山由之による自主映画。動画配信プラットフォーム・Vimeoで無料公開された2本の短編に、新たに制作した3本の短編を加えて劇場公開した。自主制作とはいえ、豪華キャストが集結しているのは奥山監督の人脈ゆえなのだろう。

第1話。川沿いの芝生にぽつんとたたずむ小さなベンチに、女(広瀬すず)がやってくる。スーパーの買い物帰りらしい。女は電話で幼なじみの男(仲野太賀)を呼び出す。そこで久々に会った2人がペンチに座って会話を繰り広げる。

これがまあ絶品の会話なのだ。この場所にあったという遊園地の話、近所のスーパーの話、お互いの仕事の話、そしてそれぞれの恋愛事情も……。まるでアドリブのようなごく自然な会話でユーモアもある。思わず引き込まれてしまった。

会話をするうちに、実は2人ともお互いに好意を持っていることがわかる。だが、付き合いが長すぎて、まともにそれを口にできない。その気持ちがちょっとだけ口に出る。好きだなぁ。こういう会話。ほんわかして心地よいエピソードだった。

第2編は同棲しているらしいカップルの話。2人は家庭雑貨(何とか突っ張り棒?)を買った帰りで、ベンチに座る。女(岸井ゆきの)は男(岡山天音)に突然別れ話を切り出す。男は驚く。女は「やっぱりいい」と言う。そこから延々とユーモラスな会話が続く。

女は男に数々の不満がある。バイク乗りでもないのにバイク乗りみたいな格好をしていること、テレビを見て出演者を「あいつ」と呼ぶこと等々。そんな不満を寿司になぞらえた話も面白い。あまりのおかしさにずっと笑いっぱなしだった。

そして、そのおかしさを加速するのが通りすがりのおじさん(荒川良々)だ。ベンチの背後に陣取ったおじさんは2人の会話を無言で聞く。さらに、終盤では2人の会話に加わり爆笑の展開となる。いやぁ~、愉快、愉快。こんなに笑ったのは久しぶり。

第3編は姉妹のドラマ。家出した姉(今田美桜)を追ってきた妹(森七菜)が、姉を連れ戻そうとする。だが、姉は聞く耳を持たない。ベンチのそばでバトルが繰り広げられる。ああ言えば、こう言う。丁々発止の凄まじいバトルだ。その迫力は思わず息をのむほど。

しかし、そのうちに、姉がどうしてこのベンチでホームレス同然の生活をしているかがわかってくる。それを聞いた妹が姉に心を寄せるようになる。その加減が絶妙なのだ。会話の大半は激しいバトルだから、余計に終盤の変化が胸に響く。

ちなみにこのエピソードは、劇作家の根本宗子が脚本を担当。その他の脚本は、第1編・5編が生方美久、第2編が蓮見翔、第4編が奥山監督。

第4編は意表を突いた宇宙人の話だ。ベンチを撤去する計画でその調査をしに来た役所の男性職員(草彅剛)と女性職員(吉岡里帆)が、ベンチを前に珍妙な会話を交わす。方角の話、老化の話、さらにはベンチの計測時のかみ合わない会話。そこにはオフビートな笑いが満載だ。挙句は宇宙語(?)で会話する2人。

そして驚くべきはカットがかかり、それまでの白黒映像がカラーに変わるのだ。それはこの映画の撮影風景だ(といっても実際の撮影風景ではない)。おまけにその後には、なんと宇宙人が登場するのだッ!。いやぁ、このハチャメチャな展開には笑ってしまいました。

最後の第5編は、第1編の続編。その後の2人がベンチに座って会話をする。この場所でまもなく保育園建設の工事が始まること、15年も生きたウサギのことなど。ここでもまたほのぼのとしたユーモラスな会話が繰り広げられる。心に染みる言葉もあったりする。最後に手をつないで帰る2人にほっこりとさせられた。

出演者はいずれも個性を発揮している。さすがにみんな実績のある俳優だけに、会話の勘所をつかんだ演技をしている。

古びたベンチを舞台に、何気ない日常を切り取った映画。笑いながら、ほっこりしたり、じんわりしたり。全く期待していなかっただけに、良い意味で予想を裏切られた。おかげで楽しい82分間を過ごすことができた。

◆「アット・ザ・ベンチ」
(2024年 日本)(上映時間1時間26分)
監督・製作・企画:奥山由之
出演:広瀬すず、仲野太賀、岸井ゆきの岡山天音荒川良々今田美桜、森七菜、草彅剛、吉岡里帆神木隆之介
*テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://www.spoon-inc.co.jp/at-the-bench/

 


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