「クラブゼロ」
2024年12月10日(水)新宿武蔵野館にて。午後2時40分より鑑賞(スクリーン2/B-6)
~教師による洗脳。不気味で不快だが最後まで目を離せないスリラー

ミヒャエル・ハネケ監督といえば、刺激的でアクの強い作品が多いことで知られる。そのハネケ監督に師事したというのがオーストリア出身のジェシカ・ハウスナー監督。こちらも「リトル・ジョー」「ルルドの泉で」などの刺激の強い作品を手がけてきた。
ハウスナー監督の新作「クラブゼロ」も、まさに怪作というにふさわしいドラマだ。
名門エリート校に招かれた新任の栄養学の教師ノヴァク(ミア・ワシコウスカ)は、生徒たちに「意識的な食事」の重要性を説く。少量をゆっくり食べれば、食べる量を減らせるから、健康にもいいし環境負荷も軽くなるというのだ。校長もノヴァクの考えに共鳴し、生徒たちも感化されるようになる。だが、ノヴァクの言動は次第に過激になる。保護者たちは子供の異変に気付き、ノヴァクを警戒するようになるのだが……。
ハウスナー監督は「ハーメルンの笛吹き男」からこのドラマを着想したという。ブラックな笑いも盛り込まれたスリラー映画だ。
映画の冒頭から、ノヴァク節が炸裂する。生徒7人と車座になって、それぞれの生徒の授業に対する志望動機を聞き出す。「環境を考えて」「健康になりたい」「奨学金が欲しい」などと様々な動機を述べる生徒たち。ノヴァクはそれを受けて、「意識的な食事」がいかに有用かを説くのだ。その口調はひたすら優しく、穏やかだ。
続いて、描かれるのが校長との対話シーン。校長はノヴァクを高く評価し、期待していることを告げる。同時に、そこには打算も見え隠れする。同校は寄宿制。「独身なので週末も勤務できる」と言うノヴァクはうってつけの人材だった。ノヴァクは校長にお茶をプレゼントする。それは自身の顔が印刷された「絶食茶」というお茶だ。
そこから先はノヴァクによる生徒への指導風景が描かれる。それはまるでカルト宗教による洗脳だ。生徒たちの多くは、病気、親との不和など様々な問題を抱えている。ノヴァクは親身になってそれに寄り添い、そこにつけ込みながら巧みに自身の思想を生徒たちの頭脳に刷り込む。
ノヴァクは、生徒たちが「意識高い系」であることも利用する。この学校の生徒たちはエコ意識や健康への意識がとても高い。普通の会話で環境問題が話題になったりもする。ノヴァクはそれもうまく利用して、「意識的な食事」を説く。
実はノヴァクを学校に招くアイデアを出したのは、保護者の一人だった。この学校の生徒たちの親は、押しなべて裕福だ。それゆえ、こちらも「意識高い系」が多い。そのうちの一人の親が、インターネットでノヴァクの存在を見つけ、採用を進言したのだ。
いわば、その意識の高さがノヴァクの思想と結びつき、彼女による洗脳を招くことになった。それはあまりにも怖すぎる事実だ。「なるほど、洗脳とはこういうことなのね」と思いながら、観ているうちにこちらも思わず引き込まれそうになる。これほど怖いスリラー映画があるだろうか。
ハウスナー監督は、一歩引いた冷めたタッチでノヴァクと生徒たちのドラマを綴る。静謐な雰囲気の中で、ひたすら静かなドラマが進行する。それが余計に不気味な雰囲気を生み出している。
そして、それを倍加させるのが視覚と聴覚への刺激だ。視覚的にはポップな色彩を強調する。生徒の制服は鮮やかなイエローのポロシャツだし、ノヴァクはオレンジのシャツと赤いパンツ。その他にも室内のインテリアなど、いずれもポップな色彩だ。それがうすら寒いこの物語にそぐわず、さらに不気味な雰囲気を醸し出す。
バックに流れる音楽も独特だ。パーカッションを強調した単調な音楽が、否が応でも不穏さを演出する。途中からは、ノヴァクがハミングするマントラのような宗教的な音楽が加わって、さらに不穏さを加速する。
ドラマの途中では、あまりの過激さに脱落する生徒も現れる。だが、それがますます彼らを過激にする。ノヴァクは「人間は食べなくても生きていける」と言い始める。普通の人なら「そんなことあるわけない」と思うだろうが、洗脳とは恐ろしいもので、残った5人の生徒たちもそれに従うようになる。
やがて保護者の一部がノヴァクに疑問を抱き、校長も次第に彼女を疑うようになり、ノヴァクは解任される。だが、恐ろしいのはそれからだ。生徒たちはノヴァクとともに「クラブゼロ」と呼ばれる謎のクラブの会員となる。
ノヴァクと生徒たちの姿が映る荒野のシーンは宗教画のような美しさだが、それだけになおさら背筋が寒くなる。
そして、ラストシーン。たまたま不在でノヴァクたちと行動を共にしなかった生徒が、保護者に向かった吐いた言葉が、洗脳の怖さと同時に問題の深刻さを物語る。
ハリウッドでも活躍するミア・ワシコウスカの抑制的な演技が、ノヴァク役にぴったりだった。生徒たちもそれぞれに存在感ある演技を披露している。
洗脳の実態がよくわかる映画。不穏で不快だが、最後まで目が離せない。さすがハネケ監督に師事した監督だけのことはある。
◆「クラブゼロ」(CLUB ZERO)
(2023年 オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール)(上映時間1時間50分)
監督:ジェシカ・ハウスナー
出演:ミア・ワシコウスカ、シセ・バベット・クヌッセン、エルザ・ジルベルスタイン、マチュー・ドゥミ、アミール・エル=マスリ、クセニア・デフリーント、ルーク・バーカー、フローレンス・バーカー、サミュエル・D・アンダーソン、グウェン・カラント
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://klockworx-v.com/clubzero/
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