「セプテンバー5」
2025年2月16日(日)イオンシネマ板橋にて。午後1時40分より鑑賞(スクリーン7/D-9)
~世界で初めてテロ事件を生中継した人々。そこには報道の今に通じる問題がある

先々週はカーリングの日本選手権に連日通ってフォルティウスを応援していたので、今はすっかりカーリング・ロスです。
そして、先週は溜まっていた仕事をしていたので映画館に行けず。ようやく日曜日に映画館へ。観たのは「セプテンバー5」。第82回ゴールデングローブ賞の作品賞(ドラマ部門)にノミネート、第97回アカデミー賞の脚本賞にもノミネートされた映画だ。
1972年のミュンヘンオリンピックでテロ事件が起きた。当時はまだ子供だった私は、事件の概要程度は知っていたものの、詳しいことは覚えていない。それでも黒覆面の犯人の一人の姿は強烈に印象に残っている。
1972年9月5日、ミュンヘンオリンピックの選手村で、パレスチナの武装集団「黒い九月」がイスラエル選手団の2人を殺害、9人を人質に籠城した。事件の発生を知ったアメリカ・ABCテレビのスポーツ中継クルーは、生中継して全世界に発信する。警察とテロリストの交渉は難航し、事態は刻々と変化する。スタッフたちは極限状況の中で、人命にかかわる重大な判断を迫られていく……。
この事件は、今に続くパレスチナとイスラエルの報復合戦(最近ではイスラエルによる虐殺の感があるが)を加速させた。だが、この映画はパレスチナとイスラエルの争いが中心的なテーマではない。
では、何を描くのか。最後のテロップに出てくるが、「テロが世界で初めて全世界の人々に実況中継された事件」という視点から、その実況中継を担当したABCテレビのスポーツ中継クルーを描くのだ。
冒頭は、五輪を中継するABCのPR風の映像。いかにも誇らしい雰囲気が漂う。続いて水泳の中継映像。アメリカ人選手のマーク・スピッツが金メダルを獲得し、これまた高揚した空気が流れる。
そんな中、やがて微かな銃声が聞こえる。何かが起きているようだ。いったい何だろう。そうするうちに次第に情報が入り始める。どうやら人が殺されたらしい。テロが起きたらしい。スタッフたちは次第に緊迫感を抱き、別の意味で気分が高揚し、必死になって動き出す。その熱気あふれる現場を映し出した導入部から、一気に引き込まれた。
舞台となるのは現地の報道センターのみ。限定された場所だ。そこで、スタッフたちがそれぞれの立場で行動する。事態は刻々と変化するから、瞬時の判断を迫られる。現場を統括するアーレッジ(ピーター・サースガード)、プロデューサーのメイソン(ジョン・マガロ)、ドイツ人通訳のゲブハルト(レオニー・ベネシュ)ら個性的な面々がプレッシャーを感じながら、ベストな選択をしようとする。
限定された空間というだけでもポイントが高いが、ティム・フェールバウム監督は手持ちカメラや極端なアップを多用し、躍動する登場人物を追いかける。当時の実際の映像も随時挟み込まれる。そこから半端ではない緊張感、スリルが生まれていく。観ているうちに、まるで自分も現場に放り込まれたかのような気分になってくる。これほどスリリングな映画はそうそうあるものではない。
現場ではいくつかの問題が浮上する。現地にいるのがスポーツ中継をするためのスポーツ局のスタッフであるため、「報道局に任せろ」という本社の声が彼らの耳に届く。だが、アーレッジは「これは私たちの事件だ」と抵抗する。スポーツ局のスタッフによる実況中継がこうして始まる。
次に問題となったのは、衛星回線の問題だ。当時の衛星回線は時間ごとに放送局の割り当てが決まっていた。ABCの時間が終われば他局の時間になる。それでは中継は続けられない。その問題にどう対処するのか。
さらに、犯人たちはタイムリミットを設け、それを過ぎれば人質を殺すと主張している。このまま中継を続ければ、そうした場面を映してしまう可能性もある。それでもいいのだろうか。スタッフたちは苦悩する。
中継を続けるうちに視聴率は急上昇し、もはや中継を止めることはできなくなる。そうするうちに、スタッフたちは衝撃の事実を知る。彼らが中継している映像は、選手村のテレビを通じて犯人側にも見られていたのだ。犯人側は警察の手の内を知ってしまい、人質救出作戦は失敗に終わる。
その衝撃も冷めやらぬまま、スタッフたちは最悪のミスを犯す。犯人と人質たちは、ヘリコプターで空港に移動し、国外脱出を試みる。だが、それを阻止しようとする警察との間で銃撃戦が起きる。そこで、「人質は無事に救出されたらしい」という不確かな情報がもたらされる。メイソンは、「裏を取ってからにしろ」という運営責任者のベイダー(ベン・チャップリン)の反対を押し切り、「噂では」という注釈をつけつつも、「人質全員解放」のニュースを流す。しかし、やがてそれが誤報で、銃撃戦の結果、人質を含む17人が死亡したことがわかる。
というわけで、このドラマは異様な緊迫感に満ちたサスぺンス・ドラマであるのと同時に、視聴率至上主義や過剰報道などメディアや報道を巡る様々な問題も提示しているのである。もちろん、それは今にも通じる問題だ。苦みの残るラストには、作り手側の問いの重さが象徴されているのかもしれない。
俳優陣も好演。ピーター・サースガード、ジョン・マガロ(「パスト ライブス 再会」の抑制的な演技が印象深い)、レオニー・ベネシュ(「ありふれた教室」の演技が秀逸!)らが、それぞれツボを押さえた演技を披露している。
この映画は秀作だが、あくまでも事件の一側面をとらえたものでしかない。そういう意味で、スティーブン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」やドキュメンタリー映画「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実」なども併せて鑑賞すると、より理解が深まるのではないか。
◆「セプテンバー5」(SEPTEMBER 5)
(2024年 アメリカ・ドイツ)(上映時間1時間35分)
監督:ティム・フェールバウム
出演:ピーター・サースガード、ジョン・マガロ、ベン・チャップリン、レオニー・ベネシュ、ジネディーヌ・スアレム、ジョージナ・リッチ、コーリイ・ジョンソン、マーカス・ラザフォード、ダニエル・アデオスン、ベンジャミン・ウォーカー
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