「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」
2025年2月28日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時30分より鑑賞(スクリーン9/E-11)
~若き日のボブ・ディランを描く。ティモシー・シャラメが見事な演技を披露

世界的なミュージシャンのボブ・ディラン。2016年には歌手として初めてノーベル文学賞を受賞したが、その若き日を描いた音楽伝記映画が「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」だ。1961年からの5年間を描いている。
1961年、ミネソタからニューヨークへやって来た青年ボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)は、ミュージシャンのピート・シーガー(エドワード・ノートン)と出会い、プロのミュージシャンとしての一歩を踏み出す。そんな中、シルヴィ(エル・ファニング)という女性と出会い、恋人同士になる。一方、音楽上では女性フォーク歌手のジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)と親しく交流する。やがて、フォーク歌手として人気を博すディランだが、自分の進む道に悩むようになる……。
映画の冒頭、ニューヨークにやって来た若き日のディランが、尊敬するフォーク歌手のウディ・ガスリーが入院していると知り、病院に見舞いに行く。そこでガスリーと同じくフォーク歌手のピート・シーガーと出会ったディランは、彼らの前で次作の歌を披露する。
それをきっかけに、ピートの導きで人前で歌うようになったディラン。こうして彼のキャリアの第一歩が始まる。
本作は、そんなディランのキャリアを追うとともに、恋人のシルヴィアとの愛と別れを描く。また、音楽的なパートナーのジョーン・バエズとの関係も綴る。さらにディランの歌の背景となったキューバ危機、公民権運動、ベトナム戦争などの時代の空気も映し出す。
ディランは得体の知れない男だ。自分はサーカスにいたと自称するが、本当か嘘かはわからない。ボブ・ディランという名前も本名ではない。女性に対してもけっこうわがままだし、その行動も気まぐれだ。ただし、音楽への情熱と才能は本物で、それが次第に世間に注目されるようになる。
初めのころ彼は、フォークギターをかき鳴らし、「フォーク界のプリンス」と称される。当時のアメリカのフォークは、労働者たちの歌であり反体制的な意味合いを持つ。ディラン自身は政治性を持つ歌手ではないと思うが、時代の空気は彼の歌にも反映される。それが人々を引き付け、彼はスターになっていく。
だが、そんな高まる名声とは裏腹に、彼自身がやりたい音楽と周囲が期待するものとのギャップに悩むようになる。
本作で最も驚嘆すべきは主演のティモシー・シャラメの演技だ。外見もディランのよう。特に上目遣いの表情がクリソツ。おそらく相当に研究を重ねたのだろう。
そして、 歌とギターがこれまたスゴイ。すべての楽曲が吹き替えなし。どこから見てもディランの歌。おまけにうわべをなぞるだけでなく、魂を込めて歌っているから心に響く。「風に吹かれて」「ミスター・タンブリンマン」「戦争の親玉」「時代は変わる」「マギーズ・ファーム」などの名曲の数々が彼の歌によって蘇る。音楽映画と銘打っていても、楽曲はさわりだけ聞かせる映画も多いが、本作はそれとは違う。まるで若き日のディランのステージを見ているかのようなのだ。
歌が上手いと言えば、ピート・シーガー役のエドワード・ノートンと、ジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロの歌も素晴らしい。特にバルバロの高音は美しく、ディランとのデュエットがこれまたピカイチ。
音楽ファンにとっては、細かな音楽ネタがたくさん詰まっているのもうれしいところ。ジョニー・キャッシュら他のミュージシャンとの交流や、「ライク・ア・ローリング・ストーン」のレコーディングでアル・クーパーがオルガンを弾く経緯など興味深いシーンがたくさん出てくる。
監督のジェームズ・マンゴールドは過去に多様な映画を監督しており、ジャニー・キャッシュの伝記映画「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」も監督している。それだけに音楽伝記映画のツボを心得た演出が光る。
スターになったものの、自分の進む道に大いに悩み、恋人のシルヴィアにも去られたディラン。1965年7月25日、ピート・シーガーが主催するニューポート・フォーク・フェスティバルで、彼はついに大きな決断をする。
というわけで、ラスト近く、バックにポール・バターフィールド・ブルース・バンドを従え、フォークギターではなくエレキギターを手に、「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌うディランがひたすらカッコいい。「フォークはこうあらねばならない」というような世間の固定観念にとらわれず、たとえ師匠格のピート・シーガーに反対されても自分のやりたい音楽をやる。これこそロックではないか。観ているうちに思わず体を揺すり、心の中で一緒に歌ってしまった。
文句なしに音楽伝記映画の秀作だ。第97回アカデミー賞で作品賞をはじめ計8部門でノミネートされたのも納得。ボブ・ディランのファンはもちろん、音楽の好きな人にはオススメ。私が観た回は平日ということもあり、観客の年齢層が高かったが、ディランを知らない若い人にも見てほしい。
ちなみに、ピート・シーガーの日本人妻がけっこう重要な役どころを担っているのだが、演じているのは初音映莉子らしい。どういう経緯でキャスティングされたのか知らないが、堂々たる演技だった。
◆「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」(A COMPLETE UNKNOWN)
(2024年 アメリカ)(上映時間2時間20分)
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック、ダン・フォグラー、ノーバート・レオ・バッツ、スクート・マクネイリー
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://www.searchlightpictures.jp/movies/acompleteunknown
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