映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「石門」

「石門」
2025年3月3日(月)シネ・リーブル池袋にて。午後2時40分より鑑賞(シアター2/D-4)

~予期せぬ妊娠がもたらす波乱。女性を取り巻く高い壁を描く

 

前々回の「恋脳Experiment」のレビューでも書いたが、男女格差は以前よりだいぶ解消されたとは言うものの、依然として女性の置かれた状況は厳しい。それを実感させる映画が「石門」である。

この映画は、日本の資本で撮られているので日本映画となっているが、中国を舞台にした中国のドラマだ。夫婦で映画製作を続ける中国湖南省出身のホアン・ジー監督と東京出身の大塚竜治監督による作品である。2人の映画が日本で劇場公開されるのは本作が初めてだという。

2019年、中国湖南省長沙市。アルバイトをしながら、客室乗務員を目指して勉強している20歳のリン(ヤオ・ホングイ)。ある日、予期せぬ妊娠が発覚してしまう。相手は中絶を勧める。リンは、子供を産むことも中絶も望まずに葛藤する。一方、郊外で産婦人科の診療所を営む両親は、死産の責任を追及され賠償金を要求されていた。リンは両親を助けるために、生まれてくる赤ん坊を提供しようと決心するのだが……。

英会話学校のパーティーシーンから映画は幕を開ける。そこの生徒である1人の男性が、新しい生徒を紹介する。その生徒の名はリン。男性は恋人らしかった。客室乗務員を目指しているリンは英語を学ぶために、その英会話学校に入ったのだ。学費は恋人が出していた。

だが、リンの様子がどうも変だ。胸が痛いと言ってひと足先にホテルに帰る。英会話学校で学ぶことにも気乗りしないようだ。

実は彼女は妊娠していたのである。恋人は「タイミングが悪い」ので、中絶したほうがいいと言う。この恋人はどうにも煮え切らない男なのだった。

ちょうどその頃、リンはある女性からアルバイトを紹介される。それは卵子提供の闇ビジネスだった。リンは妊娠中なので今はできないが、中絶してしばらくしたらできるようになると言われる。

その後、リンは郊外の実家に戻る。そこでは両親が産婦人科の診療所を経営していた。医師は母親で、父親は薬の調剤を担当していた。だが、ある時、患者が死産してしまう。相手は医療ミスだと言って責任を追及し、賠償金を要求する。母親はその支払いで苦しんでいた。

中絶することも、子供を産んで育てることも望まず、早く元の生活に戻って再び客室乗務員を目指したいリンは、出産した子供を賠償金の代わりに提供しようと考える。

基本的に1シーン1カットで撮影された静かで抑制的な映画だ。カメラが動くこともほとんどない。淡々とリンや周辺の人々を映し出す。説明的なセリフもほとんどなく、劇的な場面もない。それゆえ観客が自ら色々と推測しながら、ドラマの行方を見守ることになる。

そこから浮かび上がるのは現代の拝金主義だ。資本主義の行き着く先。金がすべて優先される社会。このドラマにはお金の話がたくさん出てくる。そして、すべてをビジネスにしてしまう人々がいる。リンの母親は賠償金を稼ぎたくて、マルチ商法まがいのビジネスに手を出す。活力クリームという怪しげな商品だ。

それだけではない。リンと母親が電車に乗ると、大学生だという女の子が外国製の生理用品をセールスに来る。リン自身も、お金が欲しくて様々なアルバイトやビジネスに精をだす。

その中で特に犠牲になるのは女性たちである。卵子提供ビジネスでは、ウイグルの女の子とたちがドナー候補となる。本人たちはあっけらかんとしているが、利用されているのは明らかだ。

もちろん、その中でも最大の犠牲になるのはリンである。予期せぬ妊娠の結果、思い描いた未来を手放しかける。それを守ろうとしてもうまくいかない。そのため出産をビジネスにするしかなくなるのだ。

女性を取り巻く環境には様々な高い壁が存在し、それを打ち壊そうとしても思うようにいかない。それはまさにタイトルの「石門」のようなものかもしれない。このドラマは中国のドラマだが、世界中の女性に共通するものがあるのではないか。そういう意味で、実に真摯なテーマを追いかけたドラマと言える。

とはいえ、ちょっと笑えるところもあったりするんですけどね。例えば、リンはドレスを着て宝飾店の店頭に立つ謎のアルバイトをしているし、卵子提供ビジネスも何だかカジュアルな雰囲気だし(就職の面接みたい)、リンの母親がハマっているマルチ商法まがいのビジネスも奇妙すぎて笑えるし。その母親が活力クリームを塗りこむために、頭をそった姿をしているのもユーモラス。

終盤は撮影時に遭遇したと思えるコロナ禍を使い、リンのある決断を描く。その後のリンがどうなったのか、気になるラストだった。

主演のヤオ・ホングイは、これまでも「卵と石」「フーリッシュ・バード」というホアン・ジー&大塚竜治作品で主演を務めてきた。それだけにこの映画にピタリと合う演技だった。ちなみに、リンの母役はホアン監督の実の母親が演じている。

怒りの炎が静かに揺らめいているような映画だった。むろんそれは女性を追い詰める社会に対する怒りだ。これまで一貫して女性の性に関する問題をテーマに映画を制作してきたというホアン・ジー監督と大塚竜治監督らしい作品と言えるだろう。本作は「中華圏のアカデミー賞」2023年の第60回台北金馬奨で、日本資本の映画として初めて最優秀作品賞を受賞した。地味だし、面白みにも欠けるが、目をそらさせない力を持った映画だった。

◆「石門」(STONEWALLING)
(2022年 日本)(上映時間2時間28分)
監督・脚本:ホアン・ジー、大塚竜治
出演:ヤオ・ホングイ、リウ・ロン、シャオ・ズーロン、ホアン・シャオション、リウ・ガン
*新宿武蔵野館ほかにて公開中

 


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