映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ケナは韓国が嫌いで」

「ケナは韓国が嫌いで」
2025年3月10日(月)新宿武蔵野館にて。午後2時45分より鑑賞(スクリーン1/B-9)

~幸せをつかむため自ら行動を起こした女性を軽やかに描く

 

先月だったと思うが、韓国の女優キム・セロンが24歳の若さで急逝した。「冬の小鳥」の主演で子役として鮮烈にデビューし、その後も「アジョシ」「私の少女」ときらりと光る個性を発揮し、これから大人の役者としても活躍すると思われた矢先だった。死因は今のところ不明のようだが、とにかく残念でならない。

その「冬の小鳥」でセロンと共演していたコ・アソンは、ポン・ジュノ監督の「グエムル 漢江の怪物」で主人公の中学生の娘役で子役デビュー。同じくポン監督の「スノー・ピアサー」にも出演するなど活躍し、最近では「サムジンカンパニー1995」などで存在感を発揮している。

そして、今回、最新主演作「ケナは韓国が嫌いで」が公開された。チャン・ガンミョンのベストセラー小説「韓国が嫌いで」の映画化で、28歳の韓国人女性が韓国での暮らしに生きづらさを感じて海外に飛び出す話だ。

ソウル郊外で両親と妹と共に暮らす28歳のケナ(コ・アソン)。大学を卒業後、金融会社に就職して、毎日片道2時間かけてソウル市内の会社に通勤している。大学時代から付き合っている恋人のジミョン(キム・ウギョム)は、自分が就職したらケナを養うと言うが、ケナは苛立ちを募らせる。一方、ケナの母は裕福な家庭で育ったジミョンとの結婚を望むだけでなく、新居の購入資金もケナに頼ろうとしていた。この場所では幸せになれないと感じたケナは、ニュージーランドへの移住を決意する……。

映画は空港での出発シーンで幕を開ける。ケナがニュージーランドに旅立つのだ。見送りには家族と恋人のジミョンが来ていた。ケナはジミョンとそこで別れる。

それからはニュージーランドに渡ったケナの日常と、それまでに韓国で彼女が体験した過去の日々が並行して描かれる。

韓国でケナは生きづらさを感じていた。競争社会の中で、一流でもない大学を卒業したケナは、金融会社に就職したものの仕事にやりがいを感じていない。毎日片道2時間かけてソウル市内の会社に通うのはまさに「痛勤」だ。おまけに会社では上司が上層部の顔色ばかりうかがっている。ケナが会社を辞めると言うと、「もっと良い部署に転属させるから」とご機嫌を取るが、それも実現したためしがない。

大学時代から付き合っているジミョンはとてもいいヤツだ。優しいし思いやりもある。だが、同時にその言動には男性優位社会の影響も垣間見える。ある時、ケナが外国に行きたいと言うと、「就職したら自分が養うから」などと言う。

そんな中、ジミョンの家族と食事をした時のこと。ケナは居心地の悪さを感じてしまう。裕福な彼らがケナを見下すような態度を取っているように思えたのだ。しかも、その帰り道、ジミョンは「家族から」と言って商品券を渡す。ケナは激怒してそれを破り捨てる。

確かにケナの家庭は貧しい。彼らの住む団地は寒くて狭い。その団地は再開発を予定されており、一家は新居を購入する予定だった。母親はその費用をケナに出してほしいと言う。それでなくても、母はケナが裕福なジミョンと結婚することを強く望んでいた。

というわけで、韓国社会の矛盾を背負い込んだような境遇のケナ。「パラサイト 半地下の家族」の貧困や、「82年生まれ、キム・ジヨン」の男性支配社会に比べればまだましかもしれないが、それでもケナ本人にとっては深刻な状況だ。彼女は鬱屈した思いを抱えた末に韓国に愛想を尽かす。

これと似たような状況の若者は、韓国に限らず世界中にいるのではないだろうか。だが、ほとんどの人々は折り合いをつけて現状に甘んじるか、多少の変化を求めて転職する程度だろう。そんな中、ケナは幸せを求めて、大胆にも海外に飛び出してしまうのだ。

さて、それではケナの移住先のニュージーランドは天国だったのか。

いや、けっしてそうではない。永住権を手に入れるためには英語をマスターし、大学を出て職を手に入れなくてはならない。その間はアルバイトで食いつなぐことになる。大変なことも多いのだ。

そういう状況下で様々なユニークな人々と交流し、様々な経験をしていくケナをチャン・ゴンジェ監督は温かく見つめる。深刻な社会問題が背景にあるとはいえ、それをそのまま描くのではなく、軽やかに、そしてユーモラスにドラマを紡いでいく。おかげで自ら幸せをつかみに行き、葛藤しつつも前向きに生きるケナが輝いて見えるのだ。

原作小説は未読なのだが、構成も実に巧みだ(脚本もチャン監督)。例えば、ケナとインドネシア人の彼氏とのエピソード。大学を卒業してインドネシアに帰るという彼は、ケナにも一緒に来るように誘う。ニュージーランドも、インドネシアも、ケナにとっては同じ外国だと言うのだ。そして出発の日。荷物を持った2人を遠くから映す。そこでのひと悶着で、2人の恋がどうなったのかをさりげなく示唆する。そのさじ加減がいい(やや端折りすぎのエピソードもあるにはあるが)。

さて、ドラマが進むうちに、ケナが嫌いだったはずの韓国の違った面が見えてくる。特にケナの家族の優しさやケナに対する愛情が顕著に描かれる。それを通してケナの心は揺れる。母国は彼女にとってもやはり特別な存在なのだ。

そして終盤、ケナはある出来事によって一度韓国に戻る。そのまま韓国にとどまるのか。あるいはまたニュージーランドに渡るのか。その答えはここでは伏せるが、ラストシーンの彼女の決断を素直に受け止めることができた。ニュージーランドと韓国。どちらも大切な国であることがわかったからこそ、ケナはあの決断をしたのではないだろうか。

主演のコ・アソンは幼い頃の面影は今もそのまま。それでいて様々な表情を見せる。繊細な感情表現も巧みで、本作の彼女は魅力たっぷり。ちょうど年齢的にケナと近いということもあって、等身大のさわやかな演技を披露している。今後の活躍にも期待したい。

ケナのような生き方をすべての人ができるとは思わないが、それだからこそ彼女のたくましさ、バイタリティーが際立つ。若者をとっくに過ぎた私にとって、その輝きがうらやましく思えるのだった。

◆「ケナは韓国が嫌いで」(BECAUSE I HATE KOREA)
(2024年 韓国)(上映時間1時間47分)
監督・脚本:チャン・ゴンジェ
出演:コ・アソン、チュ・ジョンヒョク、キム・ウギョム、イ・サンヒ、オ・ミンエ、パク・スンヒョン
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://animoproduce.co.jp/bihk/

 


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