映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「スイート・イースト 不思議の国のリリアン」

「スイート・イースト 不思議の国のリリアン
2025年3月19日(水)ヒューマントラストシネマ有楽町にて。午後7時より鑑賞(シアター2/C-4)

アメリカの今を旅する物憂げな少女。混とんとした社会を痛烈に風刺

 

2014年の第27回東京国際映画祭コンペティション部門で最高賞にあたる東京グランプリと最優秀監督賞を受賞した、サフディ兄弟の監督作「神様なんかくそくらえ」。私も同映画祭で鑑賞したと記憶しているが、ニューヨークを舞台にドラッグに溺れる若者たちの日常をリアルに描写した衝撃的な映画だった。

その「神様なんかくそくらえ」をはじめ、ニューヨークのインディー映画界を中心に撮影監督として20年以上に渡り活躍してきたショーン・プライス・ウィリアムズが、初めて長編監督を務めたのが「スイート・イースト 不思議の国のリリアン」だ。

修学旅行でワシントンD.C.にやって来た高校生のリリアン(タリア・ライダー)は、仲間と繰り出したカラオケバーで、陰謀論に取りつかれた男による銃乱射事件に巻き込まれてしまう。混乱の中で仲間たちとはぐれたリリアンは、派手なパンクファッションのケイレブという男に導かれて、トイレの大きな鏡の裏から地下通路へと逃げ出すのだが……。

邦題に「不思議の国のリリアン」とあるように、「不思議の国のアリス」を連想させるドラマだ。ひょんなことから不思議な世界に迷い込んだ女子高生が、奇妙な人々や集団と次々に遭遇していく冒険の旅を描く。ただし、こちらはかなり皮肉の利いた刺激の強いドラマである。

主人公は物憂げな少女リリアン。映画の冒頭は彼氏とのラブラブな場面。だが、彼女、どこか不機嫌に見える。

その後、ワシントンD.C.に修学旅行に訪れたリリアン。同級生たちがはしゃぐのを、冷めた目で眺めている。そんな中、カラオケバーに繰り出した一行は銃撃事件に遭遇してしまう。犯人の男は、「地下室はどこだ」と店長に迫る。その男は陰謀論に取りつかれていて、その店が性的虐待や人身売買を行っていると思っていたのだ。チーズピザを意味する「CP」をチャイルドポルノと勝手に解釈したらしい。

リリアンは、その場にいたド派手なパンクファッションのケイレブに導かれて、店のトイレに逃げ込む。そこの大きな鏡の裏には秘密の扉があった。それは地下通路へと繋がっていた。そこからリリアンの旅が始まる。

彼女はケイレブたちの仲間に加わる。ケイレブをはじめユニークな男女の集まりで、彼らはアーチストで抗議活動を支援しているという。ある日、彼らが公園に出かけると、そこはただの草原だった。リリアンは彼らとはぐれて、極右団体の集会に遭遇する。

そこにいたネオナチらしき大学教授はとても優しかった。リリアンアナベル(教授の好きなエドガー・アラン・ポーに関係した名前らしい)と名乗り、教授の家にお世話になる。教授は紳士的で、リリアンに手を触れなかったが、リリアンはそれを利用してお色気攻撃を仕掛ける。

仲間たちと何かの計画を実行するために、教授はニューヨークへと向かう。リリアンは無理やり頼み込んでそれに同行する。ところが教授が持っていたバッグに大金が詰まっていると知った彼女は、それを盗んで逃げだす。

その直後、リリアンは黒人の男女に呼び止められる。彼らは映画監督で、新作映画の出演者にリリアンがピッタリだというのだ。オーディションの末に彼女は映画俳優となり、たちまちスターになってしまう。それを知った極右団体のメンバーが、撮影現場に殴りこんでくる。

こんな感じで、かなりぶっ飛んだ映画だ。リリアンが旅で出会うのは、みんな変な人ばかり。黒人の映画監督コンビはひたすら喋りまくるし、最後の方にはEDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)好きのイスラム過激派の男も出てくる。思わず笑ってしまうような人ばかりだが、ただ単に面白いだけではない。

映画の冒頭で「星条旗に忠誠を誓う」というような話が出てくる。このドラマに出てくる人物や事件はすべて現在のアメリカを象徴している。例えば、リリアンが最初に遭遇する銃撃事件は、陰謀論者がワシントンD.C.のピザ店に押し入った事件をもとにしている。その後も右から左まで、アメリカの色々な団体や人物、出来事を連想させるエピソードが満載だ。本作は痛烈な皮肉と笑いでアメリカ社会の現状を風刺しているのだ。

それらを体験するリリアンは、あくまでも冷静。彼女は何者でもないし、何者にもなろうとしていない。他人に振り回されているのかと思ったら、突然大胆な行動を取ったりもする。得体の知れない少女なのだ。様々なことを体験しても、それが彼女を変えたのかどうか明確にはわからない。いわゆる少女の成長物語とも、ちょっと違うドラマである。

映像も特徴的。フィルム撮影と思しき粒子の粗い昔風の映像で、それが今風のハチャメチャなドラマとアンバランスな魅力を生み出している。斬新なカメラワークも、撮影監督歴の長いウィリアムズ監督らしい。全編に様々な音楽が流れるのも、この映画の特徴だ。

映画のラストでは、またまたとんでもないことが起きる。そして、「世界は予測不能」というテロップが映し出される。まさしく予測不能で混とんとした今のアメリカを、そのまま映し出した映画なのだ。

俳優陣ではリリアン役のタリア・ライダー(「17歳の瞳に映る世界」の主人公の従妹役)がなかなかの存在感。たまに見せる笑顔が印象的。序盤では歌も披露している。また、ネオナチの大学教授を演じた「レッド・ロケット」のサイモン・レックスをはじめ、「プリシラ」でプレスリー役を務めたジェイコブ・エロルディ、「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」にも出ていたアール・ケイヴ(ミュージシャンのニック・ケイブの息子)など、個性的な面々も登場している。

かなりアクの強い映画で、ついていけない人もいそうだが、今のアメリカを確実に映し出しているのは確か。一見の価値はあるかもしれない。独特の世界にハマる人はハマるかも。

◆「スイート・イースト 不思議の国のリリアン」(THE SWEET EAST)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間44分)
監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ
出演:タリア・ライダー、アール・ケイヴ、サイモン・レックス、アヨ・エデビリ、ジェレミー・O・ハリス、ジェイコブ・エロルディ、リッシュ・シャー
*新宿武蔵野館ほかにて公開中

 


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