「エミリア・ペレス」
2025年4月7日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時55分より鑑賞(スクリーン7/E-8)
~麻薬王の驚愕の運命をミュージカル仕立てで描くエンターティメント映画

今年のアカデミー賞で作品賞や国際長編映画賞をはじめ、非英語作品としては史上最多となる12部門13ノミネートを果たした「エミリア・ペレス」。結局、「ANORA アノーラ」が主要な賞を席巻し、助演女優賞(ゾーイ・サルダナ)と主題歌賞の2部門しか受賞できなかったわけだが、はたしてどんな映画なのだろう。ちょっと出遅れたけれど、興味津々で劇場に足を運んでみた。
「ディーパンの闘い」「君と歩く世界」「預言者」「パリ13区」などで知られるフランスのベテラン監督ジャック・オーディアールが、主にメキシコを舞台に撮った映画だ。言語もスペイン語が中心となっている。
メキシコシティの弁護士リタ(ゾーイ・サルダナ)は、麻薬カルテルのボスであるマニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)から、巨額の報酬と引き換えに「女性にしてくれ」という依頼を受ける。リタはマニタスに性別適合手術を受けさせ、彼の死を偽装し、妻のジェシー(セレーナ・ゴメス)と2人の子供をスイスに移住させる。4年後、エミリア・ペレスと名前を変えたマニタスがリタの前に現れ、子供と暮らしたいと懇願されるのだが……。
ゾーイ・サルダナがアカデミー助演女優賞を受賞した映画だが、助演というよりは主演という感じ。冒頭は、彼女が演じた弁護士リタの現在地が示される。弁護士事務所の一員として、妻を殺害した男の弁護を担当した彼女は、妻は自殺したと主張して無罪を勝ち取る。しかし、法廷で目立ったのはリタの指示通りに振舞った彼の上司。おまけに、リタは殺人犯を無罪にしたことに割り切れない思いを抱えていた。彼女は不本意な毎日を送っていたのである。
そんなリタが突然拉致される。メキシコは犯罪都市。何やら麻薬がらみの犯罪に巻き込まれたのか?と思ったら、何のことはない。メキシコ全土で名を知られた麻薬カルテルのボス、マニタスから「女性になりたい。そのための手配をしてくれ」と依頼されたのだ。子供の時からそう思っていて、2年前からホルモン治療もしているという。
リタは海外を駆け巡って、性別適合手術にふさわしい医師を見つける。さらに、マニタスは死んだことにして、彼の妻と2人の子供をスイスに移住させる。そして高額な報酬をもらう。
これだけ聞いても何だか嘘くさい話だ。麻薬組織のボスが女になるというのもリアリティに欠ける話だし、マニタスがリタに白羽の矢を立てたのもなぜだかわからない。この後も、色々と突っ込みどころがあるドラマだ。
ただし、それを感じさせない工夫がある。本作は全編がミュージカル仕立てなのだ。会話の延長の鼻歌のような歌から、本格的な踊りとともに披露する歌まで、様々な歌がテンコ盛りなのである。
さらに、映像的にも細かな工夫をしている。陰影を強調したリアルな映像や、ダイナミックでケレン味たっぷりの映像など様々な映像が飛び出す。それが歌と相まって力技でドラマを進めていく。
それにしても、過去作とは全く違うタイプの作品を送り出したジャック・オーディアール監督。70歳を超えてこんなぶっ飛んだ新境地の作品を撮るとは、これはもう驚きでしかない。
ドラマの転機は、4年後のこと。ロンドンで仕事をしていたリタのもとに、エミリア・ペレスという女性が現れる。それはマニタスだった。女性経営者として成功していた彼女は、どうしても子供と暮らしたいと言うのだ。仕方なく、リタは彼の妻子をスイスからメキシコに呼び戻し、死んだマニタスの親類ということでエミリアに会わせる。それがやがてとんでもない事態を招くことになる。
エミリア・ペレスとなったマニタスは、本当の自分を取り戻し幸福だったのだろう。しかし、過去は拭い去れない。メキシコでは多数いるという行方不明者の家族を支援するため、リタとともにNPOを立ち上げたのも、贖罪の思いによるものではないのか。
そして、もう1つの過去が彼を窮地に追い詰める。妻の存在だ。彼の妻にまつわるあることがクライマックスの展開につながっていく。よくあるパターンと言えなくもないが、盛り上がるのは確か。ハラハラのサスペンスとド派手な爆発、そしてそこはかとない感動へと観客を誘う。まさにエンターティメントの極致だ。
この映画にはたくさんの要素が詰め込まれている。リタのドラマ、マニタスのドラマ、彼の妻のドラマ、さらには麻薬がはびこるメキシコの現状なども盛り込まれている。それらはさすがに掘り下げが不十分だし、深みにも欠ける。しかし、それもまた歌の力で圧倒してしまう。ミュージカルとは本当に恐ろしい。細かなことを全部チャラにして最後まで飽きさせないのだから。
ただし、イマイチ、ミュージカル映画が苦手な私はちょっと……。唐突に歌い出すのがどうにも苦手なのよねぇ。この映画は、そういう場面が多いのでなおさら。
ゾーイ・サルダナは、さすがにアカデミー賞にふさわしい演技。ドラマ部分での存在感ある演技はもちろん、歌と踊りも素晴らしい。まさに八面六臂の活躍ぶりだ。
一方、カルラ・ソフィア・ガスコンはトランスジェンダー俳優ということで、女性と男性の演じ分けがうまいのは当然にしても、重量感ある演技がなかなか良かった。歌はけっしてうまくないが、説得力のある歌声をしている。
さらに、セレーナ・ゴメスは今までのイメージとは違う悪女ぶりが、板についていた。
エンタメ映画としてのポイントは高い。私のようにミュージカル映画が苦手な人はともかく、そうでない人はかなり楽しめると思う。
◆「エミリア・ペレス」(EMILIA PEREZ)
(2024年 フランス・ベルギー)(上映時間2時間13分)
監督・脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス、アドリアーナ・パス、エドガー・ラミレス、マーク・イヴァニール
*丸の内ピカデリーほかにて公開中
ホームぺージ https://gaga.ne.jp/emiliaperez/
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