映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」

「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」
2025年4月9日(水)シネ・リーブル池袋にて。午後3時20分より鑑賞(シアター2/C-3)

パレスチナに対するイスラエルの迫害とわずかな希望の光

 

イスラエルがガザでやっていることは間違いなく蛮行だ。絶対に間違っている。「ネタニヤフとその支持者は呪われて死んでしまえ!」と思ったりもするのだが、もちろんそんなことにはならないし、事態はますます悪化しているようだ。

「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」はパレスチナ問題を扱ったドキュメンタリー映画。ただし、ガザ地区の惨状を描いているわけではない。ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区でイスラエル軍によって進められている破壊行為を記録した映画なのだ。

ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住区、マサーフェル・ヤッタでは、昔からこの地に住んできたパレスチナ人に対して、イスラエルが軍事訓練場にするため住民の強制立ち退きを進めている。この地で生まれたバーセル・アドラーは、イスラエルによる非道な行為を幼い頃からカメラに収め、世界に向けて発信してきた。そんな彼のもとに、自国政府の行為に心を痛めるイスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームが訪ねてくる。2人は同じ思いで行動をともにし、2023年10月までの4年間に渡って映像を撮り続ける。

イスラエルのやり口は汚い。彼らはヨルダン川西岸からパレスチナ人を追放したくて仕方がない。そのため軍事訓練場にするという名目で家々をブルドーザーで破壊する。それでも家を失った人々は、洞窟で生活して抵抗する。

兵士たちが問答無用で家を壊し、住民を追い立てる場面には背筋が凍るような衝撃を覚えた。人間とはここまで冷酷になれるのか。

住民たちは定期的にデモを行い抗議する。スローガンを掲げて、シュプレヒコールを上げる平和的なデモだ。だが、イスラエル軍は隙あらば彼らを攻撃しようとしてくる。その緊張感たるや半端ではない。

イスラエル側が破壊するのは家だけではない。苦労して住民たちが作った学校も、生活の生命線でもある井戸も破壊される。

事態はどんどん悪化し、逮捕される住民も出てくる。それどころか、住民が銃撃される場面も登場する。ある青年はそれによって四肢がマヒしてしまった。この地に入植してきたイスラエル人たちも住民に向かって発砲する。まさにこの世の地獄だ。

かつて、この地をイギリスのブレア首相が訪れ、それによって一時的に破壊がやんだことも告げられる。だが、現在は、誰も止めようとしていない。

本作の監督としては、アドラーとアブラハームを含む2人のパレスチナ人とイスラエル人がクレジットされている。監督たちは、イスラエルによるパレスチナ迫害の状況を余すところなく記録する。アドラー監督の両親らが記録した過去の映像も使い、弾圧の歴史と今を示していく。

私が最も震撼したのは、銃撃され逃げ惑う場面の映像だ。カメラを持ちつつも被写体をとらえることができず、地面などの揺れる映像が緊迫の音声とともに記録されている。そこに映っていない場所で何が起きているのか。考えただけでも恐ろしい。

監督たちは映像を記録するだけでなく、それを発信して世に問う。イスラエル人のアブラハーム監督らはイスラエルのメディアにも登場して、事態の悪化を食い止めようとするが、なかなかうまくいかない。

映画の中では、アドラーとアブラハームなどパレスチナ人とイスラエル人がたびたび対話する。そこでは様々な食い違いも出てくる。アブラハームはエルサレムに帰っていくが、アドラーはこの地で生きていく。

それでも両者の思いは一緒だ。何とかしてこの蛮行をやめさせたい。住民が穏やかに暮らせるようにしたい。そこにイスラエル人とパレスチナ人の相互理解と共闘の可能性も、わずかながら見出すことができる。ほんの微かな光ではあるが……

ただし、現実は厳しい。パレスチナ人たちが、カメラを回せば「何をしているんだ!」「撮影を止めろ!」という罵声を浴びる。一方のイスラエル人たちも、「お前らは裏切り者か」「任務の邪魔をするな」という罵声を浴びる。

この映画にカタルシスはない。むしろ映画の最後には、ガザでの殺戮が始まったことなど、気分が落ち込むような後日談が綴られている。

けっして愉快な映画ではないが、やはり今観るべき作品だろう。第74回ベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞を受賞しただけでなく、公開もままならなかったアメリカで、第97回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したのも、それだけ今の世界を映し出した映画だからだと思う。

ちなみに、最近、本作で共同監督を務めたパレスチナ人の、ハムダーン・バラールが、西岸地区の自宅でイスラエル人入植者から暴行を受けて、イスラエル軍に連行される事態が発生した。その後世界からの抗議の声もあり、解放されたようだが、事態がいかに深刻化を物語る事件だった。

◆「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」(NO OTHER LAND)
(2024年 ノルウェーパレスチナ)(上映時間1時間35分)
監督・脚本:バーセル・アドラー、ユヴァル・アブラハーム、ハムダーン・バラール、ラヘル・ショール
*シネ・リーブル池袋ほかにて公開中
ホームぺージ https://transformer.co.jp/m/nootherland/


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