新宿・歌舞伎町のTHEATER MILANO-Zaにて蓬莱竜太作・演出の「おどる夫婦」を観劇してきた。最近は映画ばかりで、演劇の舞台を観るのはいつ以来だろう?

実は、この作品のことを知ったのは伊藤蘭関連の情報からだった。伊藤蘭がこの舞台に出演するという。考えてみれば、コンサートやテレビドラマでの伊藤蘭は観ているものの、舞台は一度も観ていない。一度ぐらいは観てみたい。
そう思ったものの、なにせ人気の劇作家の蓬莱竜太が作・演出、14年ぶりの競演だという長澤まさみ、森山未來がダブル主演。その他の出演者は伊藤蘭に加え、松島聡、皆川猿時、小野花梨、内田慈、岩瀬亮、内田紳一郎。これは絶対にソールドアウトになるよねぇ。でも、一応抽選に申し込んでみようかな。
と申し込んだら、当たったのだ!第三希望の日にちだったけど。というわけで、4月30日(木)の昼下がり。THEATER MILANO-ZaへGO!
初めて行く劇場だ。歌舞伎町のはずれ、西武新宿駅の真向かいにある東急歌舞伎町タワーの6階にある。何でも、かつて近隣にあった映画館ミラノ座の名前を引き継いでいるらしい。エスカレーターを乗り継いで到着したのは、約900席の劇場。私のチケットは2階席なので階段を上って上階へ。
開演は午後1時。昼時なので館内のカフェ&バー「Za Bar」というところで何か調達しようと思ったのだが、時間がなくて断念。開演10分前に席に着いたのだった。2階席なので舞台を見下ろす形だが、けっこう見やすい。ちなみに椅子が硬いとネットで話題になっていたが、私的にはそこまで苦痛ではなかった。まあ、確かにシネコンの椅子に比べれば硬いけれど。

そして、舞台は始まった。何の前触れもなく。セットの椅子などを動かしているのはスタッフだと思ったのだが、出演者たちだった。そのうちの2人、キヌ(長澤まさみ)とヒロヒコ(森山未來)の夫婦が映画の感想を語り合う。それぞれの見方が違っていて面白い。他の出演者たちは周囲の椅子などに座っている。これもユニークな風景だ。
こうしてプロローグが終わり、本編が始まる。大学時代の演劇サークルでのキヌとヒロヒコだ。いわば2人のなれそめである。そこから10年に渡る夫婦のドラマが綴られる。キヌは衣装デザインの仕事をし、ヒロヒコはライターの仕事をする。どこの夫婦にもあるように様々な問題が2人を襲う。
同時に、2人の家族や友人たちの姿も描かれる。料理教室をしながら裏でスピリチュアルな仕事もするキヌの母と障害を持つ弟、震災で大きな被害を受け妻が行方不明になったヒロヒコの父、キヌとヒロヒコの仕事関係の知人たちなど。キヌ&ヒロヒコとの関係性の中から、それぞれの苦悩と葛藤が浮かび上がる。東日本大震災、コロナ禍などをドラマの背景に絡めているのも特徴的だ。
ステージの真ん中には廻り舞台が設置され、俳優たちはほぼここで演技をする。舞台が廻るスピードもその都度変化する。場面が変わるたびに、出演者自身が机やいすなどの家具を移動するのも面白いところだ。出番ではない出演者が、端のほうの椅子などに座って舞台を観ているのも興味深い。

俳優たちの演技は、テレビドラマや映画とはまた違う演技だった。いや、テレビドラマや映画も、作品ごとにキャラが違うわけで、それに合わせた演技をしているのだから違うのは当然かもしれない。しかし、ふだんは映画ばかり観ている私にとって、俳優たちの一挙手一投足、セリフ一つひとつが新鮮に聞こえた。ダイレクトに伝わるというのは、これほど迫力のあるものなのか。
長澤まさみと森山未來は、夫婦の機微をうまく表現していたと思う(夫婦なんてやったことがないから知らんけど)。何より、あの大量のセリフ(モノローグ的なものもある)を覚えて、それをしっかり発酵させて言葉に発するのだから凄い。
その他のキャストも素晴らしかった。松島聡、皆川猿時、小野花梨、内田慈、岩瀬亮、内田紳一郎、伊藤蘭。皆川は一人で3役を演じて、コミカルな役割を果たしていた。伊藤もキャラに沿った演技で、コンサートやテレビドラマとは全く違う姿を見せていた。最近映画でよく見る小野も、ここではしっかり舞台役者になり切っていた。
観ていて思ったのは、人間は価値観がそれぞれ違うということ。夫婦とてそうだろう。違う環境で育ち価値観の違う人間同士が結婚し、日々暮らす中で発生する問題に対処する。その対処の仕方も夫婦それぞれに違うわけだ。その違いをどう乗り越えていくのか。あるいはどんどん違いが大きくなるのか。そのあたりの描写がとてもリアルだった。
一面的でない描き方にも好感が持てた。キヌの母は当初はキヌから嫌悪される存在だった。だが、息子を巡る過去の元夫との関係などが明らかになり、彼女には彼女なりの事情があったことがわかる。
考えてみれば、キヌもヒロヒコも様々な面を持つ人間だ。わかりやすい善人でも、悪人でもない。時には相手に手を差し伸べ、時には冷たく突き放す。それをありのまま描いていく。けっしてどちらかを否定するような描き方はしていない。そこに作者の誠実さを感じた。
ラストは仕事をやめて地方に足を運んだキヌとヒロヒコの場面。2人のダンスシーンが心に染みる。微かな明日への希望を感じさせた。
20分の休憩を含めて3時間超の舞台。しかし、その長さを全く感じなかった。夫婦になどなったことがない私だが、それでも共感し、心を揺さぶられた。観に行って本当に良かった。映画ばかりでなく演劇も良いものだ。また、なんか観に行こうかなぁ。
