「サブスタンス」
2025年5月29日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時35分より鑑賞
~超過激なホラー映画の怪作。エグさの向こうに見える激しい怒り

話題の映画「サブスタンス」をようやく観た。聞きしに勝る超刺激的なホラー映画だった。
50歳になった元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)は、若返りを図るプロデューサー(デニス・クエイド)によってレギュラー番組からの降板を告げられてしまう。失意と焦りから彼女は再生医療「サブスタンス」に手を出し、薬剤を注射する。すると、背中が裂けて若い美女スー(マーガレット・クアリー)が現れる。若さと美貌に加え、これまでのエリザベスの経験を持つスーは、瞬く間にスターの階段を駆け上っていく。サブスタンスは、互いの肉体を維持するために、1週間ごとに入れ替わらなければならないルールがあったが、スーは次第にルールを破り始める……。
映画の冒頭、卵の黄身に薬剤を注射すると、黄身からもう1つの黄身が出現する。これこそが最新の再生医療「サブスタンス」というわけだ。
それに続いて、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに、エリザベス・スパークルの名前が彫られた星型のプレートが埋め込まれる場面が登場する。有名スターだけが手にできる栄誉だ。設置当初はみんなが記念写真を撮ってもてはやしたものの、次第に忘れ去られ誰も見向きもしなくなる。これがこのドラマの主人公エリザベスの現在地を象徴する。
そして、テレビのエアロビ番組に出演しているエリザベスに、プロデューサーから降板が言い渡される。「50歳になったら終わり」と言うのだ。この場面、プロデューサーの顔を極端なアップで撮り、彼のお下劣さとお馬鹿さを強調する。本作が単なるホラー映画ではなく、強烈な風刺とユーモアに満ちた作品であることを示した場面だ。
直後、不安定な精神状態のエリザベスは交通事故に遭い病院に運ばれる。幸いにも軽症だったが、その際に謎の若い医者が接触してくる。そして、サブスタンスの存在を知らされる。それにすがったエリザベスは、謎めいた場所で薬剤を受け取り、自身に注射する。
こうして、ついにエリザベスの分身であるスーが誕生するのだが、この場面は壮絶の極み。エリザベスの背中が割れてスーが出現する様は、まるでデビッド・クローネンバーグの映画のよう。スーがエリザベスの裂けた背中を縫い合わせるシーンもとにかくエグイ。あまりにもエグイ場面で正視できない人もいるかもしれない。
まあ、あまりにもエグイのは事実だが、エグ過ぎて笑っちゃうところもあるんですよね。正視できない人もいる一方で、エンタティメントとして楽しめる人も多いのではなかろうか。
このほかにも、デビット・リンチ監督を思わせる場面があったり、過去のモンスター映画風の場面があったりと、あの手この手で観客を刺激する。
映像も刺激的だ。超広角レンズを使ったり、極彩色を配するなどこちらもあの手この手で観客を刺激する。なかでも目を引くのがアップの映像だ。人物の顔のアップはもちろん、体の一部やアイテムなどを極端なアップで映し、様々なことを観客に突き付ける。音響もこれまた刺激的だ。
ドラマが進むにつれてエグさはさらにアップする。エリザベスとスーは1週間で交代しなければならない。その間、片方は死体のようなもので何もできない。スーが売れてくると彼女は、できる限り自分でいたいと思い、ルールをないがしろにするようになる。その分、エリザベスの体に異変が起き始める。
というわけで、終盤は本当は1人のはずのエリザベスとスーがバトルを展開する。これがもう凄まじいバトルなのだ。もはやスプラッターホラー。老醜をさらすエリザベスと若いスーが血みどろになって入り乱れる。
最初に風刺に満ちた映画といったが、そのターゲットは若さと容貌を絶対視するハリウッドの価値観だ。それを過激に風刺している。いや正確には、風刺というよりも異議申し立てと言ってもいいだろう。
しかも、それはドラマが進むにつれてますます激しくなる。スーが最初は放置していたエリザベスの肉体をしまうために、部屋を改造し始める。そこに隣人の若い男が苦情を言いに来る。しかし、相手が若いスーだと知った途端に、手のひらを返したようにデレデレするようになる。異議申し立ての相手は、ハリウッドのみならず全男性であることを示す場面だ。
そればかりか、この映画の最終盤では女性も含めた世間のすべてに対する異議申し立てを示す場面が出てくる。スーが担当する年越し番組の司会。そこに現れたモノを見た観客は取り乱し血だらけで叫ぶ。まさしく阿鼻叫喚の惨劇だ。「テメエラ、若さや見た目だけをもてはやすんじゃねえぞ!」。フランスの女性監督コラリー・ファルジャの怒りの声が聞こえてきそうだ。
そんな怒りを共有しているのは主演のデミ・ムーアも同様だろう。「ゴースト ニューヨークの幻」などで1990年代にスター女優として活躍した彼女の鬼気迫る演技には、激しい怒りが込められていると見た。でなけりゃ、いくら特殊効果とはいえあんな壮絶な姿をさらしてまで演技しないよねぇ。
あまりにも凄まじいホラーエンタティメントには、コラリー・ファルジャとデミ・ムーアの怨念のような怒りが込められているのかもしれない。刺激的だが痛快極まりない。これこそ一見の価値がある怪作だ。
本作は2024年の第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞。第75回アカデミー賞では作品賞、主演女優賞のほか計5部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。デミ・ムーアはキャリア初となるゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞した。
◆「サブスタンス」(THE SUBSTANCE)
(2024年 アメリカ)(上映時間2時間22分)
監督・脚本・製作:コラリー・ファルジャ
出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド、エドワード・ハミルトン=クラーク、ゴア・エイブラムズ、オスカル・ルサージュ、クリスティアン・エリクソン、ヒューゴ・ディエゴ・ガルシア
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/substance/
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