「サスカッチ・サンセット」
2025年6月2日(月)ヒューマントラストシネマ渋谷にて。午後12時45分より鑑賞(シアター1/C-11)
~人間は登場せずセリフもなし! サスカッチたちの四季折々の生態

ちょっと前に通り魔的な刺傷事件が起きた東京メトロ南北線・東大前駅。実は私が定期的に通っている大学病院の最寄り駅だったりもする。だからといって乗降時に緊張したりはしないのだが。
昨日、その東大前駅で降りて大学病院へ行ってきた。あまり調子がよろしくない感じがしていたのだが、先週実施した検査の結果は特に問題になるところもないらしい。まあ医師が言うのだから信用するしかない。
思いのほか病院が早く終わって、映画でも観ようと思ったものの、調べてみると時間がちょうどよい映画がほとんどない。そんな中、ヒューマントラストシネマ渋谷の「サスカッチ・サンセット」の12時45分の回なら、速攻で行けば間に合いそうだ。
というので、渋谷に出て、ヒューマントラストシネマ渋谷へ。昼食をとる時間がなかったので、ホットドッグとアイスコーヒーを購入してシアター1の座席へ。
北米の霧深い森で暮らす4頭のサスカッチ。彼らは寝床をつくり、食料を探し、交尾をするという営みを繰り返しながら、どこかにいると信じる仲間を探して旅を続けている。四季折々に変化する環境と対峙しながら、生き残りをかけて必死に戦うサスカッチ。その行く手には何があるのか……。
映画の冒頭、雄大な大自然が映る。霧に包まれた山深い森。まるで風景画の巨匠の手になる絵画のように美しい。これほどの見事な景観に無粋な人間ドラマなど不要、と考えたかどうかはわからないが、この映画には人間が一切出てこない。登場するのは、サスカッチという毛むくじゃらの類人猿のような生物だけだ。
サスカッチは古代の生物なのか? はたまた未来の生物なのか? 説明はまったくないからよくわからない。
サスカッチは言葉を持たない。つまりこの映画にセリフはない。サスカッチは「アー」とか「オー」といった声を発し、仲間同士のコミュニケーションを取っているようにも見える。
描かれるのは4人のサスカッチの1年の生態だ。長老格のオスと、若いオス、メスの母親とその息子。まずは春。いきなりオスとメスが交尾する。その後、彼らは生えている植物やキノコをとって食べる。動物たちと戯れたりもする。さらに、4人揃ってリズムを合わせて木を叩く。どこかに自分たちと同じ群れがいると信じて合図しているらしい。
やがて、1人のサスカッチがメスにちょっかいを出そうとするが、メスは断固として拒否する。そうこうするうちに、1人のサスカッチが赤いキノコを口にする。どうやら毒性があったらしく激しく嘔吐する。その視線の先にはピューマがいた。ピューマを威嚇するサスカッチ。ピューマもサスカッチを威嚇する。その挙句、そのサスカッチは命を落としピューマに食べられてしまう。残りの3人のサスカッチが遺体を埋める。
続いて夏。川に石を投げて魚を捕まえ、魚卵を飲み込むサスカッチたち。だが、まもなくオスのサスカッチが事故で亡くなってしまう。残されたのはメスとその子供。
そのあたりから、どうやら舞台となる時代が古代でも未来でもなく、現代らしいことがわかる。サスカッチは×印のついた樹木を見つけたり、舗装された道路に出くわしたりする。ここでようやく私は気が付いた。サスカッチとは、UMA(未確認生物)の一種だったのだ。いわゆるビッグフット、先住民はサスカッチと呼ぶ。
もしも本当にサスカッチがいたら……という仮定の下に作られたのがこの映画だ。監督、脚本のデヴィッドとネイサンのゼルナー兄弟は、子供の頃にビッグフットを撮影したとされる「パターソン・ギムリン・フィルム」を見て、サスカッチ伝説に魅了されたという(ちなみに、ゼルナー兄弟の過去作、菊地凛子主演の「トレジャーハンター・クミコ」を以前配信で観たが、なかなか面白い映画だった)。
このゼルナー兄弟のアイデアに乗ったのが「ミッドサマー」のアリ・アスター監督だ。製作総指揮に名乗りを上げた。そして、もう1人、この映画に興味を持った人物がいる。「ソーシャル・ネットワーク」「リアル・ペイン 心の旅」などで知られるジェシー・アイゼンバーグだ。彼は製作に加え出演もしている。特殊メークでサスカッチを演じているのだ。
その他のサスカッチ役もユニーク。長老格のオスはゼルナー兄弟の弟のネイサンが自ら演じ、メスは「マッドマックス 怒りのデスロード」に出演していたライリー・キーオ、その息子のサスカッチ役は小人症の俳優クリストフ・ゼイジャック=デネク。
何しろセリフがないだけに、彼らは声としぐさ、表情だけで様々な感情を表現する。これが秀逸な演技なのだ。最初は毛むくじゃらで何とも不気味に思えたサスカッチが、観ているうちに愛らしくなってくる。全編にユーモアが漂うこともあって、どんどんスクリーンに引き込まれてしまった。
同時にリアルさも感じさせる。サスカッチが実在するかどうかは知らないが、少なくともゴリラやチンパンジー、オランウータンなどの類人猿の特徴をきちんとサスカッチの行動に反映させているので、嘘臭さはない。サスカッチの生態のドキュメンタリーといってもいいぐらいで、興味津々で見入ってしまった。
秋になって、残った親子のサスカッチは人間のキャンプ地に遭遇する。そこでラジカセから音楽が流れてくる。それに聞き入る親子。まもなく興奮したのか彼らは大暴れする。
その後、メスは出産する。そして冬になる……。
サスカッチはひたすら生存のために努力する。一方、人間は彼らの生息領域にも進出してきている。はたして、サスカッチたちはこれから先どうするのか。何とも意味深かつユーモラスなラストシーンが何を物語るのか気になった。エンディングに流れるライリー・キーオの歌も、いかにもこの映画の最後にふさわしいものだった。
この映画はサスカッチの生態を通じて、人間による自然破壊を告発したものだろうか。それともサスカッチのたくましい生き様を、ひ弱な現代人に突き付けたものなのか。説明やセリフがないので、すべてを観客が想像するしかない。
しかし、まあ、よくもこんな奇抜な映画を作ったものですなぁ~。それだけで感心します。今年のキテレツ映画大賞は決定でしょう。
◆「サスカッチ・サンセット」(SASQUATCH SUNSET)
(2024年 アメリカ)(上映時間1時間28分)
監督:デヴィッド・ゼルナー、ネイサン・ゼルナー
出演:ライリー・キーオ、ジェシー・アイゼンバーグ、クリストフ・ザヤック=デネク、ネイサン・ゼルナー
*新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームぺージ https://sasquatch-movie.com/
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