映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「我来たり、我見たり、我勝利せり」

「我来たり、我見たり、我勝利せり」
2025年6月8日(日)新宿武蔵野館にて。午後2時5分より鑑賞(スクリーン2/B-6)

~大富豪の趣味は「人間狩り」。現在の格差社会を痛烈に風刺

 

何だか体調が今ひとつで映画館にもあまり行かなかったのだが、そんな時にタレントの山田邦子が言った言葉が耳に残った。彼女はガンになって以来、体調が万全などという日はあまりないという。それでも「今日はまあまあ」と思って行動しているらしい。

昨日の私も完調ではないものの、まあまあな感じだったので新宿武蔵野館へ。オーストリア映画「我来たり、我見たり、我勝利せり」を鑑賞。何だか戦争映画のようなタイトルだが、そうではない。気の遠くなるような大金持ちの話なのだ。

投資家として莫大な財産を築き、幸福で充実した人生を送るマイナート家。一家の長であるアモン(ローレンス・ルップ)は、妻や娘たちを愛し、ビジネスに情熱を注いでいた。同時に彼は趣味の狩りにも情熱を傾けていた。だが、それは動物を対象にした狩りではなかったのだ……。

映画の冒頭に「誰が私を止めるのか? それが問題だ」という一文が掲げられる。これがこの映画を言い表している。

大富豪の投資家アモンの住む町では連続殺人事件が起きていた。といっても、この映画はその真相を追求するドラマではない。何のことはない。殺人犯はアモン自身であることが早々にわかってしまうのだ。

アモンがサイクリング中の男性を射殺し、自転車を奪って自らサイクリングを始める場面が登場する。歌など歌ってご機嫌である。「人間狩り」は彼の趣味なのだ。あと始末は執事のアルフレートが行う。

アモンは残虐な男なのか。いや、彼は家族思いの男だ。大豪邸(室外ではなく室内にプールがあるのだ!)で、妻と娘たちとともにエレガントに暮らし(どうやら娘たちは養女らしい)、何かと家族のことを気にかける。目下の願いは子供を持つこと。だが、妻が年齢的に厳しいことから、代理出産を考えている。

一方、仕事では投資家としてバリバリ働く。巨大なバッテリー工場を建設する計画があり、政治家相手にその認可をかけあう。その過程で恩人の会社を買収して恩人を怒らせるが、本人は「会社を救ったのだ」と胸を張る。

およそ殺人犯とは縁遠いアモンの日常。そんなアモンが平気で人をバンバン撃ち殺す。そこからブラックな笑いが生まれる。

実のところ彼が殺人を犯していることは周囲も薄々気づいている。だが、誰も何も言わない。政治家も警察も彼の金と権力の恩恵にあずかっているので手が出せない。狩猟監視員のアイロスが殺人現場でアモンを目撃し、何度も警察に告発しているのに何もしない。

そんな中、ジャーナリストのカロッタが、アモンが犯人だと考えて彼を追求する。ところが、アモンは否定するどころか事実をあっさり認めて、「なぜ僕を止めない?」と言い放つ。アモンのやることなら、殺人さえも誰も止めることができないのだ。

金と権力とはこれほど威力のあるものなのか。それを「これでもか」と見せつけるような映画だ。

ブラックな笑いに彩られているとはいえ、考えてみれば胸糞の悪い話だ。それでも飛び切り美しい映像のおかげで目を離さずにいられる。まるでエレガントなマイナート家を投影しているかのようだ。さらに音楽もエレガントにクラシック音楽を多用している。これも救いのない話にわずかながらの緩和作用をもたらしている。

ただし、その音楽が途切れると、随所に奇妙なボイスパフォーミングが聞こえてきて、心をざわつかせるのがこの映画らしいところ。

終盤はかなりビックリの展開。真相を追求するはずのカロッタが、なぜか新しい執事になってしまうあたりはおかしくてケタケタ笑ってしまった。

忘れてはいけないのが本作を通して、マイナート一家の13歳の少女パウラの視点が導入されていること。随所に彼女のモノローグが挟まれる。仲間たちと万引きするなどやんちゃな娘だが、けっこうシニカルに大人たちの世界を見つめている。そして終盤に進むにつれて、彼女は父親の影響を受けてとんでもない行動に出てみせるのだった。

ラストはその彼女と父によるおぞましい出来事(遠くから映しているからそんなに残虐には見えないが)。悪は受け継がれていくのだなぁ~。

ダニエル・へースル&ユリア・ニーマン監督は、ドキュメンタリー映画なども製作し、一貫して富、権力、権利というテーマを扱っているという。言うまでもない。本作はまさに今の格差社会カリカチュアしたドラマだ。上級国民がどんどん金と権力を膨らませ、下級国民はそれに従わざるを得ない。そんな世の中を痛烈に皮肉っている。

現実にはあり得ない話だし、やりすぎ感もあるものの、今の時代を映し出した作品として十分に見応えがある。

◆「我来たり、我見たり、我勝利せり」(VENI VIDI VICI)
(2024年 オーストリア)(上映時間1時間26分)
監督:ダニエル・へースル、ユリア・ニーマン
出演:ローレンス・ルップ、ウルシーナ・ラルディ、オリヴィア・ゴシュラー、キラ・クラウス、内田珠綺、ドミニク・バルタ、マルクス・シュラインツァー、ハイモン・マリア・バッテンガー、ゾーイ・シュトラウプ
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
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