映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ぶぶ漬けどうどす」

ぶぶ漬けどうどす」
2025年6月10日(火)シネ・リーブル池袋にて。午後2時15分より鑑賞(シアター2/D-5)

~ストレートなコメディかと思ったら、京都に惹かれたヒロインが暴走していく怪作

 

深川麻衣を映画で初めて見たのは、今泉力哉監督の「愛がなんだ」だった。そこでの彼女は、ヒロインの岸井ゆきのに負けず劣らず存在感を発揮していた。実に良い俳優だと思った。「乃木坂46」の1期生の元アイドルというのは後になって知った。

そんな深川麻衣が主演の新作映画が「ぶぶ漬けどうどす」である。監督は「乱暴と待機」「素敵なダイナマイトスキャンダル」などの冨永昌敬。脚本は三浦透子主演の「そばかす」などの脚本家・アサダアツシ。実に構想に7年をかけて完成させたオリジナル脚本だという。

京都の老舗扇子店の長男と結婚し、東京からやって来たフリーライターのまどか(深川麻衣)。450年の歴史があるという老舗の暮らしぶりをコミックエッセイにしようと、実家や街の女将さんたちの取材を始める、だが、本音と建前を使い分ける京都の文化を理解していなかったために、取材対象の女将さんたちを怒らせてしまう。それに懲りて、京都の奥深い文化を正しく伝えようとするまどかだったが……。

タイトルの「ぶぶ漬けどうどす」は、京都の人が早く帰ってほしい客に対して遠回しに言う言葉だと言われる。ズバリ、それが本作の大きなテーマ。本音と建て前を使い分ける京都人とよそ者とのカルチャーギャップが描かれる。

予告編を観た限りでは、ストレートなコメディだと思ったのだが、そうではなかった。色々と屈折した部分がある映画だ。

主人公のまどかはフリーライター。京都の老舗扇子店の長男・真理央(大友律)と結婚して東京で暮らしていたが、夫とともに京都に向かう。東京から引っ越したわけではない。京都の暮らしをコミックエッセイにするため、一時的に滞在するのだ。真理央は仕事があるからとすぐに東京に戻ってしまう。

まどかは、何度か東京と京都を往復しつつ、取材を重ねてコミックエッセイにする。漫画は仕事仲間の莉子(小野寺ずる)が担当する。彼女はたびたびまどかに同行する。2人が制作したコミックエッセイが、映画の随所に挟まれてドラマにメリハリをつける。

最初に取材したのはもちろん実家の扇子店。義母の環(室井滋)と義父の達雄(松尾貴史)が守るその店は、450年の伝統があるという。もしかしたらもっと古いかも。マンモスの時代に創業したかも。などと軽口をたたく夫婦。まどかを大歓迎し、取材にも好意的だ。

続いて取材したのは、女将さんたちの集まり。京都の伝統を最前線で守る人々だ。こちらもまどかを大歓迎。しかし、個別に取材をしてみると何か違う。ある女将は銭湯を改造したカフェを営んでいるが雇われ店長だという。それならばと老舗の菓子屋の女将を取材すると、売れ筋はハロウィンのお菓子で創業時の菓子はもうないという。

それでも老舗の伝統を伝えたいまどかは、突然のテレビ取材に応じて、いかにも京都人的な発言をする。例の女将さんたちの集まりも勝手に紹介する。そして、それをコミックエッセイにする。

ところが、これに怒ったのが取材相手の女将さんたちだ。まどかの取材に好意的だったのは建前で、勝手なことを書かれるのは迷惑だと思っていたのだ。

こんな感じで京都の人々は本音と建て前を使い分ける。まどかはそれに四苦八苦する。大歓迎していた義母と義父も本音ではどうかわからない。もしかしたら登場人物はみんな、本音では違うことを考えているのかもしれない。そう考えれば何となく怖くなってくる。というわけで、本作にはどことなくホラーテイストが感じられる。

もちろん笑いはある。しかし、その笑いの大半はシニカルなもの。爆笑というよりは苦笑させられる笑いだ。人を食ったような音楽も独特の雰囲気を醸し出している。

後半は、実家の売却を巡って大騒動が勃発する。なんとまどかの夫が浮気し(その浮気相手がビックリ!)、ますます実家に深入りした彼女は、ひたすら伝統を守ろうとする。義母が不動産会社社長の上田(豊原功補)に洗脳されていると思ったまどかは、上田をまるで悪の黒幕のようにしてコミックエッセイに描く。学者の中村(若葉竜也)もまどかを応援する。

まどかはどんどん暴走する。およそ予定調和などとは無縁。そこから義母の本音も見えてきて、さらに義父にもとんでもないことが起きる。

観ているうちに呆気にとられてしまった。なんだかスゴイ映画である。ありきたりの家族ドラマの体で始まったドラマは、京都の街中の迷路に迷い込んだような展開を見せる。それは伝統に彩られた美しい京都ではなく、魔都・京都とも呼ぶべき都市だ。ある意味アバンギャルドというか、カルトというか、説明は難しいがとにかくスゴイ。

エンディングも唐突ともいえる終わり方。普通のエンタメ映画のようなきれいな終わり方ではない。魔都にからめとられたまどかの笑顔で観客をざわつかせる。え? これで終わりですか? 思わず声を出しそうになった。

冨永監督はこれまでにもかなり尖った作品を撮っているが、この作品もかなり個性的。それより何より脚本を書いたアサダアツシは、京都に恨みでもあるのだろうか(笑)。京都人が観たら何と思うかちょっと怖い。

いずれにしても単純な笑える映画ではない。ホラー色もあるシニカルコメディ。得難い個性を持つ映画だ。

深川麻衣は、いかにも老舗の若女将風の序盤から暴走していく後半への変化が面白かった。義母の室井滋も何を考えているかわからない演技が出色。小野寺ずる(劇中漫画も担当)、片岡礼子若葉竜也らもいい味を出していた。

◆「ぶぶ漬けどうどす」
(2024年 日本)(上映時間1時間36分)
監督:冨永昌敬
出演:深川麻衣、小野寺ずる、片岡礼子、大友律、若葉竜也松尾貴史豊原功補室井滋
*テアトル新宿ほかにて全国公開中
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