「ラ・コシーナ/厨房」
2025年6月14日(土)シネ・リーブル池袋にて。午後3時10分より鑑賞(シアター2/C-4)
~修羅場の厨房から見える過酷な労働環境と移民の現実


何事も舞台裏を覗くのは面白いものだ。普段は見ることのない様々なことを目撃できる。レストランもそう。だから、「厨房ドラマ」がたくさん作られることになる。最近でも「ボイリング・ポイント/沸騰」などの面白い厨房ドラマがあった。
「ラ・コシーナ/厨房」もレストランの舞台裏を描いた厨房ドラマだ。ただし、イギリスの劇作家アーノルド・ウェスカーによる1959年初演の戯曲が原作ということもあり、他の厨房ドラマとはやや趣を異にしている。監督・脚本はメキシコ出身のアロンソ・ルイスパラシオス。
移民が多く働くニューヨークの大型レストラン「ザ・グリル」。厨房はいつも目の回るほどの忙しさだった。ある朝、前日の売上金の一部が消えたことが判明し、従業員全員に盗難の疑いがかけられる。さらに次々に新たなトラブルが発生して、料理人やウェイトレスたちのストレスはピークに達する……。
舞台となるのは高級レストランではなく、観光客向けのよくある大型レストラン。冒頭は、その店で働きたいメキシコ人の娘を映した場面で幕を開ける。そこからすでに映像が冴えわたる。ほぼ全編モノクロ、スタンダードサイズの映像(一部画角が広がる)。細かな工夫もあちらこちらに見受けられる。実に魅力的な映像でスクリーンから目が離せなかった。「はたして次はどんな映像が飛び出すのか?」とワクワクしながらスクリーンを見つめていた。
メキシコ人の娘はザ・グリルの場所を人々に尋ねる。ようやく店を探し当てた彼女はペドロ(ラウル・ブリオネス)という男を探す。彼は店の従業員だった。しかし、まだ出勤してきていない。そうこうするうちに娘は人違いから、マネージャーの面接を受けることになる。その結果、採用されてしまう。もちろんそれは彼女の希望でもあった。
その面接の途中で、重大な問題が持ち上がる。店の売上金の約800ドルが消えてしまったのだ。店の誰かが盗んだに違いないとにらんだマネージャーは、一人ずつ全員を問い詰め始める。
実はそのレストランは、それ以外にも様々な問題があった。朝の女子更衣室では、前夜に起きた大ゲンカの話題で持ちきりだった。それはペドロと同僚の男とのケンカで、ペドロが刃物を持ち出すほどだったという。
そんな中、ウェイトレスのジュリア(ルーニー・マーラ)はどうやら妊娠しているらしかった。その相手がペドロであることがまもなくわかる。
さあ、そこからが大変だ。超個性的な登場人物たちのぶつかり合いのドラマが描かれる。店のオーナー、マネージャー、料理長、料理人、ウェイトレス。一人とて平凡な人物はいない。そして、彼らは様々な国の出身者だ。それが本作の大きな特徴となる。
映画の前半で従業員同士が、様々な国の言葉で卑猥な話をする場面がある。みんな楽しそうに話している。しかし、イラついたアメリカ人の料理人は「ここはアメリカだ!英語で話せ!」と叫ぶ。移民を中心に多国籍な人々のふれあいと対立が、このドラマの底流には流れている。
ドラマの1つの柱は、ペドロとジュリアのロマンスだ。ペドロはメキシコ人、ジュリアはアメリカ人。その立場の違いが様々なすれ違いをもたらす。ジュリアは中絶をしようとするが、ペドロはそれをやめさせたい。しかも、ジュリアには何やら秘密があるようだ。彼女は誰かと電話で会話を交わす。それは深刻な内容だった。
厨房ドラマの醍醐味は何といっても、常識を超えた厨房の忙しさを見せることにある。本作でも、14分間ノーカットのスリリングな映像で戦場のような厨房の実態を見せる。その修羅場の中で、従業員の間に一触即発の空気が醸成される。
とはいえ、常に厨房を映しているわけではない。休憩中にペドロたち従業員は広い空の下で夢について語り合う。そこでは、ある男が話す異星人の光の話が面白い。荒唐無稽だが、移民の心情を示すようなエピソードだ。ただし、ペドロ自身は夢を語らない。3年間、ビザ取得を目指してこのレストランで働いてきた彼は、夢を失ったのだろうか?
夜の部の営業が始まる。再び修羅場が訪れる。そんな中、マネージャーはジュリアが金を盗んだのではないかと問い詰める。それを中絶費用に充てたのではないかというのだ。さらに、ペドロがジュリアの恋人であることを知っているマネージャーは、ペドロも疑う。だが、彼は「オーナーからビザ取得に協力するという言葉をかけられた。そんな自分が盗みなどしない」と訴える。ところが、マネージャーは「それはオーナーが誰にでもかける言葉だ」と冷笑する。
まもなく修羅場はカオスとなる。すさまじい混乱だ。その混乱のままドラマは終幕を迎える。
1959年初演の戯曲が原作とはいえ、本作は今のアメリカをリアルに見せる。人が人でなくなるような過酷な労働環境を提示するのと同時に、人種や移民をめぐる様々な問題を示してみせる。差別、偏見などに囲まれながら、たくましく生きる人々の夢と絶望がここに描かれている。製作されたのはトランプ再登場前だろうが、実にタイムリーでかつ普遍性を持つ映画だと言える。
一般に知られている俳優は、ジュリア役のルーニー・マーラぐらいしかいないが、ペドロ役のラウル・ブリオネスなど、すべてのキャストが見事な演技を披露していた。
◆「ラ・コシーナ/厨房」(LA COCINA)
(2024年 アメリカ・メキシコ)(上映時間1時間19分)
監督・脚本:アロンソ・ルイスパラシオス
出演:ラウル・ブリオネス、ルーニー・マーラ、アンナ・ディアス、モーテル・フォスター、ローラ・ゴメス、オデッド・フェール、リー・セラーズ、スペンサー・グラニース、ベルナルド・ベラスコ
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
ホームぺージ https://sundae-films.com/la-cocina/
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