「フォーチュンクッキー」
2025年6月27日(金)新宿シネマカリテにて。午後3時より鑑賞(スクリーン1/A-10)
~アフガンから来た女性のほろ苦くも温かさにあふれたドラマ

「国宝」「フロントライン」などまだ観ていないメジャーな映画がたくさんあるのに、なぜに私はアメリカのインディーズ映画に足を運ぶ? ま、人とは違う道を行きたがる、へそ曲がりなのでしょうがない。
観たのは「フォーチュンクッキー」という映画。フォーチュンクッキーとは、中華レストランなどで出てくるおみくじの入ったクッキーのこと。
そういえばAKB48のヒット曲に「恋するフォーチュンクッキー」というのがあったな。あの曲が流行った頃に、私はAKBのラジオドラマの脚本を担当していて収録にも立ち会ったりしていたっけ。
おっと、話が横道にそれた。さて、「フォーチュンクッキー」の原題は「FREMONT」。カリフォルニアの地名で、そこを舞台にしたドラマである。
カリフォルニア州フリーモントにあるフォーチュンクッキー工場で働くアフガニスタン出身のドニヤ(アナイタ・ワリ・ザダ)は、アパートと職場を往復するだけの日々を送り、不眠症にも悩まされていた。そんなある日、フォーチュンクッキーに入れるメッセージを書く仕事を任されたドニヤは、自分の電話番号をメッセージに忍ばせてしまうのだが……。
ドニヤはアメリカに来て8か月。それにしては英語が巧みだと思うかもしれない。実は、彼女はアフガニスタンで米軍の通訳をしていたのだ。しかし、米軍は撤退してタリバンが復権。そのため、米軍に協力していた者たちは裏切り者とされてしまった。しかも、彼女は女性だ。身の危険を感じたドニヤは国外に逃れることを選択した。行き先はどこでも良かった。
そして今はフリーモントのアパートに住んでいる。職場であるフォーチュンクッキー工場とアパートを往復する単調な毎日。めったに笑わず孤独な日々を送っていた。アパートには同じアフガン人の住人が済むが、彼女を冷たい目で見る者もいる。だが、隣人の男はそうではなかった。夜な夜な廊下で顔を合わせる彼は、ドニヤが眠れないと聞いて、自分の精神科医の診察予約カードを渡す。
ドニヤが精神科医のところに行くと、医師は「勝手に他人に予約を譲るのは許されない」と診察を断るが、ドニヤの強引さに押されて結局診察をする。ドニヤは「とにかく睡眠薬がもらえればいい」と訴えるが、医師はドニヤの不眠の原因を探ろうとする。
なんだか重たい話しに聞こえるかもしれないが、それとは正反対の映画である。映像は全編モノクロのスタンダードサイズ。中心となるのは固定カメラで人物をとらえた映像だ。ロンドン・フィルム・スクールで映画制作を学び、これが長編4作目となるイラン系イギリス人のババク・ジャラリ監督は、ミニマルで一歩引いた視線からドラマを紡ぎ出す。そこから、さりげないユーモアと温かさがにじみ出てくる。ちょうどアキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュの映画の世界観と共通するものを感じた。
精神科医とのやりとりを通して、ドニヤが母国で辛い体験をしてきたことがわかる。本人は否定するが、PTSDではないかと医師は言う。
この精神科医が実にいい味を出しているのだ。ドニヤたちの診察はあくまでも無料のボランティア。だが、社会奉仕をしているという気負いもなく、ひょうひょうとドニヤに対する。ドニヤは最初のうち無口で、質問したことにしか答えないのだが、それでも医師は根気強く語り掛ける。その会話の間が絶妙なのだ。
医師はジャック・ロンドンの「白い牙」についてドニヤに語る。彼がお気に入りの小説のようで狼犬の話だ。最初は怪訝そうにしているドニヤだが、次第に興味を持ち始める。
そして、ドニヤにとって大きな転機となったのが、フォーチュンクッキーのメッセージを書く仕事を任されたこと。前任者が職場で急死したため、経営者から「やってみないか」と誘われたのだ。
この経営者も味のある人物だ。自分が中国出身ということもあって、ドニヤを温かく見守る。終盤で、地球儀を出して中国とアフガニスタンが国境を接していることを告げ、ドニヤを励ますシーンがとても良い。
味があると言えばドニヤの同僚も同じだ。カウリスマキの映画の登場人物のように、普段は無表情なのだが、その端々からドニヤに対する思いやりが感じられる。自宅にドニヤを招いて披露するカラオケの歌もいい。
精神科医は、ドニヤが自分の殻を破って前を向くように諭す。そのたとえとして、「港にいる船は安全だが、海に出なければ船ではない」といった主旨の教訓を授ける。こうした人生訓をさりげなく盛り込んだ脚本も秀逸である。
ドニヤの表情は少しずつ明るくなっていく。アパートで、自分を冷たい目で見る男に思いのたけをぶちまけたのも、彼女の変化の表れだろう。
そんな中、ドニヤはちょっとした仕掛けをする。フォーチュンクッキーのメッセージに、自分の電話番号を載せたのだ。誰かが連絡してくれることを期待して。すると、ある男から「会いたい」と連絡が来る。
その後の展開もなかなか面白い。ドニヤは連絡をくれた男に会いに行くのだが、その途中である自動車修理工の男と知り合う。この男とドニヤの会話も絶妙な間合いだ。セリフは少ないがその間合いが、独特の空気感を生み出す。
そして最後のオチ。シカの置物がいい味を出している。控えめながら、明日への希望を感じさせるエンディングだ。
主演のアナイタ・ワリ・ザダは、実際にアフガニスタン出身で国営テレビ局のジャーナリストだったという。もちろん映画初出演だが、無表情で孤独だったドニヤの心が微妙に変化する様子を見事に表現していた。
自動車整備工に扮したジェレミー・アレン・ホワイトの演技も存在感たっぷり。こちらもセリフ以外で多くのことを表現した演技だった。この人、ドラマシリーズ「一流シェフのファミリーレストラン」で人気が出て、今秋日本公開のブルース・スプリングスティーンの伝記映画で、ブルースを演じている。その他にも、精神科医役のグレッグ・ターキントンなどみんな味のある演技を披露している。
ありていに言えば、周囲に背中を押されて前向きになる女性のドラマだが、それだけにとどまらない魅力がある。小品なれどインディーズ映画らしい味わいのある映画。観れば心がポカポカすること請け合いだ。
◆「フォーチュンクッキー」(FREMONT)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間31分)
監督:ババク・ジャラリ
出演:アナイタ・ワリ・ザダ、グレッグ・ターキントン、ジェレミー・アレン・ホワイト、ヒルダ・シュメリング、エディ・タン、シディク・アーメド、エイビス・シースー、タバン・イブラズ、ティムール・ヌスラッティ、ジェニファー・マッケイ、ディビア・ジャカットダー、ファジル・セディキ、モリー・ノーブル、エノク・クー、ブーツ・ライリー
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
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