「突然、君がいなくなって」
2025年6月29日(日)Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下にて。午後3時30分より鑑賞(7階/D-11)
~最愛の人を失くした悲しみと複雑な胸の内をリアルに見せる

夏ですなぁ。東京はまだ梅雨明けしていないようだけれど。
外に出るのも嫌なこの頃。できるなら駅近の映画館に行きたいものである。
というわけで、この日は地下鉄渋谷駅の出口からすぐのBunkamuraル・シネマ渋谷宮下へ。ちょうどビルの前の道では立憲民主党の塩村あやか議員と蓮舫元議員が演説をしていた。参院選挙も近いのだなぁ。
それにしても、最近何かと話題の参政党。「日本人ファースト」というのも胡散臭いけれど、国民に主権はないだの、選択的夫婦別姓反対だの、小麦を食うと病気になるからパンを食うなだの、ワクチンを打つと人が死ぬだの、それはもう恐ろしいことを言ってますなぁ。支持してる皆さんはそのことをご存じなのかしら。
おっとまた話が横道にそれた。観た映画は「突然、君がいなくなって」というアイスランドのレイキャビクを舞台にした映画だ。
レイキャビクの美術大学に通うウナ(エリーン・ハットル)には、ディッディ(バルドゥル・エイナルソン)という大切な恋人がいるが、2人の関係は秘密だった。ディッディには遠距離恋愛をしている長年の恋人クララ(カトラ・ニャルスドッティル)がいて、ウナとの関係は友人にも隠していたのだ。ある朝、ディッディはクララに別れを告げに行くと家を出た後、途中で事故に巻き込まれて帰らぬ人となってしまう。まもなく友人たちと悲しみに暮れるウナの前にクララが現れる……。
この話を聞いた時には陳腐な三角関係か?と思ってしまった。ただ予告編を観るとウナが中性的な風貌をしているので、同性愛的なものも絡んだりする複雑な話なのか?とも思ったりした。
しかし、実際はそれほど複雑でもないよくある話だった。だが、それでも最初から最後まで全く目が離せなかった。なぜなのか?
映画は美しい夕暮れの風景から始まる。それをバックにウナとディッディのカップルが記念写真を撮る。2人は美術学校に通い、バンド活動を共にして親しくなったのだ。その後も2人は仲睦まじい姿を見せる。
ところが、しばらく後、カメラは流れ去るライトをとらえる。トンネルの天井にあるライトを走る車から映したものらしい。そして、突然、もうもうたる煙が襲ってくる。どうやら事故の映像を抑制的に映したものらしい。それはたくさんの犠牲者を出した大惨事だった。
翌朝、ウナが目覚めるとディッディはいない。クララに別れを告げに行くために出発したのだ。その後、美術学校に向かったウナはパフォーマンスの授業に出席する。何やら奇妙なパフォーマンスが続出する授業でウナも笑みを見せる。
ところが、その後、友人が意外な話を伝える。ディッディは予定した飛行機が飛ばなかったため、友人の車に乗り出かけたというのだ。もしかしたら、あの大惨事に巻き込まれたかも知れないというのである。
一気に、ウナは不安に襲われる。ディッディに電話をかけるが彼は出ない。やがて、ディッディの車に同乗していた友人が、どうにか救出されたらしいという知らせが届く。しかし、ディッディに関しては絶望的な情報しか届かない。ウナはいたたまれず、その場を逃げ出す。
カメラはウナに徹底的に寄り添う。彼女の言葉、表情、しぐさ、そして後ろ姿まで余すところなく映し出す。特にその表情からは、彼女の不安、衝撃、痛みがリアルに伝わってくる。観ているこちらがつらくなるほどだ。
やがて、クララがやって来る。ディッディの長年の恋人だ。彼女はもちろんウナとディッディの関係を知らない。ウナのことは友人の1人だと思っている。実のところ最初は2人の仲を疑ったこともあるのだが、ウナがレズビアンだと思い安心していたのだ。
友人たちやクララとともに、彼らのなじみのパブやミサの会場、友人宅などを移動し悲しみに暮れるウナ。酒を飲んで踊り狂う。そうしなければいられなかったのだろう。もちろんクララもこれ以上ないほどの悲しみようだ。
まだ20代前半の彼らにとって、死は縁遠いものだった。親戚の高齢者が亡くなったりしていても、まだ若いディッディの死は想像もできない突然の出来事だった。それだけに戸惑い、大きな痛手を負い、喪失感を感じたことは想像に難くない。
そしてウナにとっては、さらに複雑な思いがあった。最愛の人が亡くなっただけでも、どう対処していいのかわからないのに、そこにクララが現れたのだ。真実を打ち明けるわけにはいかない。クララが悲しみの底に沈むのを見て、仲間たちはクララを励ます。ウナはそれに嫉妬する。自分もクララと同じように泣き、叫びたいのに、ウナにはそれができないのだ。
後半になってもカメラはウナに徹底的に寄り添う。そこから彼女の複雑で揺れ動く心理が伝わってくる。さらにクララの姿からも、彼女の深い悲しみが見て取れる。
これほど繊細かつ情感あふれる描写を実現したのは、アイスランドのルーナ・ルーナソン監督。短編映画「Two Birds」がアカデミー賞にノミネートされるなど世界的に注目を集めているらしい。本作はルーナソン監督の長編3作目で、2024年のカンヌ国際映画祭の「ある視点部門」のオープニングを飾った。
もう1つのこのドラマの主役はアイスランドの美しくも、憂いを秘めた自然の風景だ。オープニングの夕景だけでなく、エンディングにも太陽が沈む海の風景が流れる。そう、これは約1日の出来事なのだ。こうして時間を限定したこともドラマの濃密さをより高めている。
複雑な気持ちを宿しながら、ウナとクララは少しだけ距離を近づけていく。けっしてハッピーエンドというわけではないが、ラストにはわずかな救いも感じた。ウナとクララがお互いを多少なりとも理解し合い、同じ愛する者を失った同士で悲しみを共有したように見えた。独特の余韻が残るラストだった。
主演のエリーン・ハットルの演技が圧倒的だ。ウナの様々に揺れる心理をセリフだけでなく、全身で表現する素晴らしい演技だった。
まるで自分がウナになったような気持ちでスクリーンを見つめ続けた。1時間20分という短い作品だが、そうは思えないほど中身の濃い映画だった。
◆「突然、君がいなくなって」(LJOSBROT/WHEN THE LIGHT BREAKS)
(2024年 アイスランド・オランダ・クロアチア・フランス)(上映時間1時間20分)
監督・脚本:ルーナ・ルーナソン
出演:エリーン・ハットル、ミカエル・コーバー、カトラ・ニャルスドッティル、バルドゥル・エイナルソン、グンナル・フラプン・クリスチャンソン、アゥグスト・ウィグム
*Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにて公開中
ホームぺージ https://www.bitters.co.jp/totsuzen/
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