「中山教頭の人生テスト」
2025年7月2日(水)YEBISU GARDEN CINEMAにて。午後1時20分より鑑賞。(スクリーン2/D-6)
~迷いながらも真摯に問題に向き合う教頭。安易な解決法を提示しない映画

伊藤蘭が骨折してコンサートが中心になり、この夏の最大の楽しみが消失してしまった。その憂さ晴らしに、恵比寿ガーデンプレイスで豪遊!
といってもガーデンシネマで映画を観て、売店でピザとアイスコーヒー計1150円を購入しただけですけどね。
観た映画は「中山教頭の人生テスト」。山梨県の小学校で教頭を務める男の話だ。
山梨県のある小学校。中山晴彦教頭(渋川清彦)は教員歴30年のベテラン。4年前に妻を亡くした彼は、中学生の娘と2人で暮らしながら校長昇進を目指していた。そんなある日、5年1組の臨時担任を任された中山は様々な問題に直面する。そして、子供たちやその親、教師、娘などと誠実に向き合う中で、彼の人生は少しずつ変化していく。
映画の冒頭、舞台となる小学校の朝礼で、鷹森校長(石田えり)が挨拶をする。「人間は一人ひとりみんな違う。個性を大切にしよう」というような内容だ。それを聞いて「この校長は人格者なのだなぁ」と思ったのだが、そういうわけではなかった。校長という立場ゆえかルールを厳格に守り、教員にも厳しい態度で臨む。トラブルの芽はできるだけ早く積んでしまう。その一方で、時には人間らしい態度も見せる。とても一筋縄ではいかない人物なのだ。
こういう描き方は他の人物にも当てはまる。単純に善悪のレッテルを貼るようなことはしない。人間には様々な側面があることを印象付ける。そこから嘘のないリアルなドラマが生まれてくる。
中山晴彦教頭は鷹森校長に振り回され、近隣からの苦情に対処し、父兄たちの対応にあたり、放課後の体育館の割り振りまで担当する。そこで手違いから、合唱とバレエと空手をトリプルブッキングし、大騒動に発展することもある(ここは笑いどころ。こういうユーモアも随所に盛り込まれている)。はては、事務員が休みだからと理科室の蛍光灯の交換までするのだ。これって典型的な中間管理職ではないか。
そんな中間管理職の悲哀を漂わせつつ、真面目で温和な性格だが頼りない一面もある中山。家では4年前に妻を交通事故で亡くし、中学生の娘と2人で暮らす。年頃の娘だから何かと軋轢はある。そして彼は目下、校長昇進を目指して試験勉強中。だが、多忙のあまり捗らない。
そんな中山に転機が訪れる。以前、椎名先生(高野志穂)が担任だったクラスは、現在、ある事情から黒川先生(渡部秀)が代理担任を務めていた。だが、厳しいことで知られる黒川は子供たちから嫌われており、彼らは椎名の復帰を願っていた。そんな中、黒川がトラブルを起こし学校に来なくなってしまう。鷹森校長は中山に新たな代理担任を務めるように命じる。
というわけで、久しぶりに教壇に立つことになった中山の姿が描かれる。彼が受け持ったクラスは何も問題がないように見えた。だが、それはうわべだけのこと。一皮むけば、母子家庭の児童、モンスターペアレンツ、さらにはいじめなどの様々な問題があった。大人は身勝手だし、子供も自分勝手で残虐性さえ感じさせる。
そうした問題を中山たちが次々に解決していったらさぞや痛快だろう。だが、本作はそんな安易な描き方はしていない。問題の解決法は提示しないし、何が正しくて何が間違っていたのかも明確にしない。ただ、ありのままの現実を見せるだけだ。そして、それに対して中山が迷い、つまずきながらも、一生懸命に向き合っている姿を見せる。
中山を演じた渋川清彦は日本映画になくてはならない存在。ただし、どちらかというコワモテの役やワル役が多い。この人のやる風俗店の店長なんて、いかがわしくも底抜けの恐ろしさを感じさせる。
だが、この映画では中山教頭になり切っている。その表情を見ただけでその人物像が浮き上がってくる。説得力十分の演技だ。あらためて彼の演技力の確かさを見せつけられた。
担任を外されながらも、ひたすら生徒の目線に立つ椎名先生を演じた高野志穂も印象的な演技だった。校長役の石田えり、前校長で教育長役の風間杜夫、中山の娘役の希咲うみ、生徒役の子供たちなどの脇役もいずれも存在感ある演技だった。
中山教頭は、問題に向き合ううちに少しずつ変わっていく。それを証明するのが、ある不登校の生徒に言ったひと言だ。「先生や大人がこうしなさいって言うことは全部間違ってる」。彼はこう言い放つのだ。
また、中山が終業式を前に生徒に贈った言葉も実に印象深い。それは彼の内面からあふれ出した言葉だ。だから、説教臭さや嘘臭さとは無縁。素直に胸に響いてきた。
この映画は余白の多い映画だ。明確な結論は出さず、観客に問いを投げかける。「あなたならどう思う?」と。そこに佐向大監督の誠実さを感じるのである。
その最たるシーンがラストに訪れる。朝礼での挨拶。中山はそのとき何を言ったのだろうか? それもまた観客一人ひとりが考えるしかない。
佐向監督の過去作には、大杉漣の最後の主演作で死刑囚と対話する男を描いた「教誨師」、鉄屑工場で働く2人を描いた「夜を走る」などがあり、どちらかというと社会派のイメージが強い。本作も切り口はソフトだが、根底に流れる旋律は過去作と共通するものがある。
単純なヒューマンドラマというだけではなく、より深いものが感じられる作品だ。教育とは何か。教育者とはどうあるべきか。それを考えるきっかけになるかもしれない。
◆「中山教頭の人生テスト」
(2024年 日本)(上映時間2時間5分)
監督・脚本:佐向大
出演:渋川清彦、高野志穂、希咲うみ、渡部秀、高橋努、風間杜夫、石田えり、櫛田遙流、太田結乃、大角英夫、矢部玲奈、笹木祐良、田野井健、川面千晶、橋本拓也、足立智充、安藤聖、大鶴義丹
*YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開中
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