「逆火」
2025年7月13日(日)池袋シネマ・ロサにて。午後1時20分より鑑賞(シネマ・ロサ2/C-8)
~撮影中止が続行か。新作映画を巡る助監督の葛藤

あ~、別にいいです。私の政治的立場が気に食わないからって、「お前の書いた文章なんか読みたくない」って言う人は。はっきり言います。私は参政党は嫌いです。彼らの言う外国人優遇なんて存在しません。それをことさらに「日本人ファースト」などと言い、突っ込まれると「いや、ただの選挙中のスローガンでだから」と言い訳するなんて笑止千万。
なので、読みたくない人は読まないでくださいね。まあ、別にこちらから拒否する気はないですけど。さっき、その類のメールが来たから(安倍首相を批判した時にもそういうメールが来たな)、つい興奮して書いてしまいました。
さてと。「逆火」はミステリードラマ。草彅剛がトランスジェンダー役を演じた「ミッドナイトスワン」などで知られる内田英治監督の原案・監督の作品。脚本は内田監督の「サイレントラブ」のまなべゆきこが担当している。
家族を顧みず、映画監督の夢を追い続ける助監督の野島浩介(北村有起哉)。次の仕事は、貧困家庭でヤングケアラーとして苦労した末に成功した少女ARISA(円井わん)の自伝小説の映画化だった。しかし、準備を進めている中で野島は、小説の内容に疑問を感じる。そしてARISAの周辺で話を聞くうちに、小説に書かれた美談とは程遠い大きな疑惑を抱くようになる。それでも監督やプロデューサー、スタッフらはそれぞれの思惑から撮影の続行を希望し、野島は戸惑うのだが……。
冒頭、あるビルの屋上が映る。それは衝撃のラストへつながるシーンだ。
続いて、映画の撮影準備中の現場がドキュメンタリータッチの映像で映る。舞台となるアパートの一室で監督の大沢(岩崎う大)を中心に、野島、スタッフ、プロデューサー(片岡礼子)らが準備をしている。みんな気合が入っているのがわかる。
映画はARISAという女性の自伝小説が原作。彼女は体の不自由な父親をほぼ一人で介護するが、父は階段から転落して事故死。死後に彼が娘のために保険に入っていたことがわかり、そのお金をもとに一念発起して起業し大成功を収めたのだ。まさに感動物語。多くの観客にアピールしそうな作品だ。そして、貧困やヤングケアラーといった社会問題もそこでは描かれるはずだった。
稽古の最中、原作者のARISAも現場を激励しに来る。それは今どきの女子でぶっきらぼうな上に、どこか影のある女性だった。
野島はチーフ助監督として撮影準備を進める。だが、そこで追加取材を進めるうちに気になることが出てくる。最初は親戚から聞いた「ARISAは墓を作っていない」という話。それをきっかけに、さらに取材を進めるうちに意外なことを耳にする。ARISAはパパ活をしていた。ARISAの父親はDV男だった。ARISAは父の死をいつも願っていた……。
野島はARISAにも会う。やがてARISAは小説の美談が嘘であることを打ち明ける。賞金のために嘘の作文を書き、それがもとでやがてベストセラー小説が出版されたこと。それなら父親の死の真相も嘘なのか? 不思議なことに、野島とARISAは次第に心を通わせる。ARISAは責任を取るつもりだという。
このあたりは典型的なミステリーの様相を呈すのだが、本作が特徴的なのは舞台が映画の現場だということ。野島は感動物語が事実と違ったからには、撮影を中止すべきだと訴える。だが、大沢監督はそれでも撮影すべきだという。貧困やヤングケアラーの問題を扱った映画は必要だし、多くの子供たちが観るはずだという。一方、プロデューサーはすでに撮影直前なのにいまさら中止などできないという。野島に加勢するアシスタントに向かって「自分のお金で映画を撮ってから言いなさい!」と一喝する。
そして、撮影中止の噂を聞いたスタッフたちも動揺する。映画には多くのスタッフや俳優がかかわっている。中止になれば彼らの生活にも大打撃だ。出産後思うような仕事ができず、本作が再飛躍のきっかけになると確信していた女性カメラマンの動揺は激しい。それでも中止するのか。野島自身も映画監督になりたいという夢を持ち、そのチャンスが訪れようとしていた。今プロデューサーの機嫌を損なえば、それも露と消える。
内田監督は、けっしてどちらにも肩入れしない。正義を押し通して撮影を中止することにも、正義を曲げて撮影を続けることにも、どちらにも一理あるとする。そのうえで、観客に「どうすべきか」と問いかける。映画ならではの問題提起である。この姿勢にはとても好感が持てた。
また、売れる本を出すために編集段階で事実と異なることを加えるなど、出版界の事情も描き出す。もちろん、貧困、ヤングケアラー、介護、DVなどの問題も提示される。ミステリーであるのと同時に社会派の要素を持つ作品である。
そして実はこの映画には、もう一つのドラマがある。野島の家庭の問題だ。特に野島と娘の間には深い溝がある。娘はトー横に入り浸り、非行の道に足を踏み入れている。野島はその問題に正面から向き合うことはせず逃げている。
娘の非行はどうやら過去の出来事がきっかけらしい。とはいえ目下の彼女はホストに入れあげ金が足りないと言って、質の悪いバイトに手を出そうしている。確かに野島は映画監督になりたくて勤めを辞め生活は楽ではないが、彼自身が言っているように貧困家庭というほどでもない。そのため彼と娘のエピソードは、本筋のドラマであるARISAの話とうまくかみ合っていないようにも思える。むしろARISAが必死に貧困から抜け出そうとしていたことと対比して、娘をお気楽に暮らす女の子にして、野島がその姿に違和感を持つ……といった構図のほうがしっくりいったのでは?
ともあれ、野島役の北村有起哉の演技が秀逸だ。これまでにも様々な役をこなしてきたが、今回も映画の助監督という役柄を見事にこなしている。それは監督とも違う微妙な立ち位置だ。あまり目立たない細かなところまで徹底してこだわって演じている。彼の演技だけでも観る価値のある映画かもしれない。
ARISA役の円井わんも好演。「MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」での演技も印象に残るが、なかなかに存在感のある俳優だ。岩崎う大(「かもめんたる」)のいかにも育ちの良い、理想論に走る映画監督役もよかった。
本作は最後の最後に衝撃的な場面が映る。登場人物の後日談が描かれるのだが、そこでオープニングに映ったビルの屋上での出来事が映る。観た時にはあまりのことに唖然としてしまうほどだったが、心をざわつかせ、その後に色々なことを考えさせるシーンには違いない。それも含めて、重い問いかけを投げかける作品だ。
◆「逆火」
(2023年 日本)(上映時間1時間48分)
監督・原案:内田英治
出演:北村有起哉、円井わん、岩崎う大、大山真絵子、中心愛、片岡礼子、岡谷瞳、辻凪子、小松遼太、金野美穂、島田桃依
*テアトル新宿ほかにて公開中
ホームぺージ https://movies.kadokawa.co.jp/gyakka/
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