「ストレンジ・ダーリン」
2025年7月18日(金)角川シネマ有楽町にて。午後2時55分より鑑賞(スクリーン1/D-8)
~追う男と追われる女。常識を覆すシリアルキラー映画

シリアルキラーの映画は数多いが、「ストレンジ・ダーリン」はその中でも異色。常識をことごとく覆す。低予算の映画だが、アイデア次第ではこれだけ面白い映画が作れるというお手本のような映画である。
シリアルキラーによる連続殺人事件が世間を騒がせる中、モーテルの前に1台の車が停まっている。そこには、バーで知り合ったばかりの1組の男女が乗っていた。やがてその女レディ(ウィラ・フィッツジェラルド)は、デーモン(カイル・ガルナー)という男に命を狙われ、銃を持った彼から必死で逃げ出すのだが……。
映画の冒頭、「2018年から2020年にかけて、今世紀最凶かつ異色のシリアルキラーが全米を震撼させた。この物語はその映画化である」というテロップが出る。どうやらこれは演出の一環のようなのだが、それでも何やら背筋がざわつく。
続いて聞こえるのは「あなたはシリアルキラーなの?」と男に問いかける声。そしてモノクロ映像で、たくましい男が誰かの首を絞めている映像が映る。
その後、衝撃の映像が映る。赤い看護服を着た若い女が、必死で草原を走っていくのである。これはどう見ても、先ほどのシリアルキラーの男に追われているに違いない。男はシリアルキラー、女はその被害者だろう。
だが、実はことはそう単純ではない。それが少しずつわかってくる。連続殺人犯は男。支配するのはいつも男。見た目からして男が悪そう。そんな固定観念を根底から覆すドラマなのだ。
構成が秀逸だ。本作は全6章とエピローグから成り立つ。だが、順序立てて描かれるわけではない。最初に登場するのは3章だ。その後5章へと移行してから、1章へと戻る。つまり、時制をバラバラにしているのである。
話自体はそれほど突飛でもない。1章ではモーテルの前に停まった1台の車が映る。そこには、バーで知り合ったばかりの1組の男女が乗っている。男は見るからにこわもてで訳ありそう。女はごく普通の外見をしている。会話をする2人。ちょっと際どい会話もあるが、終始会話の主導権を握るのは女。無口な男が余計にシリアルキラーに見えてくる。
すると突然、場面はホテルの部屋に移る。男が女をベッドに縛り、首を絞めている。早くも犯行か。と思ったら、「え?そうなの?」。
ちょっとでもネタバレすると面白さが消えたしまう映画ゆえ、ここから先は内緒ということにしておくが、とんでもない意外な出来事が次々に起きるのだ。
それにしても時制をばらした効果は抜群。シンプルに進めたら何ということもない話だが、時間をまぜこぜにすることによって謎が増量、緊張感も桁外れになっている。そして、先ほども言ったように、シリアルキラー映画の常識や観客の固定観念を打ち壊す仕掛が巧妙に施されているのである。
映像も鮮烈。色鮮やかな35ミリフィルムで撮られた田舎の風景ののどかさが、事件の陰惨さとのコントラストを際立たせる。撮影監督はプロデューサーでもある俳優のジョヴァンニ・リビシ(「コールド・マウンテン」「アバター」「パブリック・エネミーズ」「テッド」などに出演)が務めている。バックに流れる音楽もいい。
最後の最後まで予測不能のドラマは、男と女の周囲の人々も巻き込んで、エピローグへと突入していく。そこでも凄まじいスリルに満ちたドラマが展開し、意外にもシリアルキラーの人間性をとらえて終わる。「悪魔を見た」というシリアルキラーの言葉が独特の余韻を残す。最後の最後にカラー映像がモノクロ映像に切り替わるあたりも鮮やか。
監督のJT・モルナーは短編やミュージックビデオを中心に活躍し、これが長編2作目ということだが、この才能はハリウッドが放っておかないだろう。
主演の2人も迫真の演技。女を演じたウィラ・フィッツジェラルドは怪演と呼ぶべき演技。生と死の狭間でもがき苦しみ、それでも生に執着する姿が凄まじい。相手役のカイル・ガルナーも背筋ゾクゾクものの演技だった。
◆「ストレンジ・ダーリン」(STRANGE DARLING)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間37分)
監督・脚本:JT・モルナー
出演:ウィラ・フィッツジェラルド、カイル・ガルナー、マディセン・ベイティ、スティーヴン・マイケル・ケサダ、エド・ベグリー・Jr、バーバラ・ハーシー、デューク・モルナー
*角川シネマ有楽町ほかにて公開中
ホームぺージ https://movies.kadokawa.co.jp/strangedarling/
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