映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「海辺へ行く道」

「海辺へ行く道」
2025年8月31日(日)新宿ピカデリーにて。午後1時25分より鑑賞(シアター5/C-12)

~奇妙な町の奇妙な人々の言動を通して描く芸術の本質

 

三好銀の漫画「海辺へ行く道」シリーズを、「ウルトラミラクルラブストーリー」「俳優 亀岡拓次」「いとみち」などの横浜聡子監督が映画化した。

ストーリーはこんな感じ。

海辺の町「汐鳴市」。この町はアーティストの移住歓迎を掲げるなど、アートで町おこしをしようとしていた。そこの中学の美術部員の奏介(原田琥之佑)は、演劇部に依頼された絵を描いたり、なぜか入部させられた新聞部の取材を手伝ったりと、忙しい夏休みを送っていた……。

横浜監督の過去作を全部観ているわけではないが、少なくとも私が観た作品はハグレ者たちに温かなまなざしを注ぎ、ユーモアたっぷりに描き出した作品が多い。そんな横浜監督と三好銀の漫画の世界が、うまく溶け合った作品だと感じた。

本作は3つの章から成り立っている。舞台となる汐鳴市は、アートで町おこしをしようとしているだけに、怪しげなアーティストなどが頻繁に町を訪れる。いや、街の人も何だか怪しげだ。

まず最初の章では、美術展に出品された奏介の作品を評価した「A」と名乗る謎の男(諏訪敦彦)が、江戸時代の巻物に描かれた人魚の絵の立体作品を作るように奏介に依頼する。奏介は張り切って先輩のテルオ(蒼井旬)の工房から、参考に彫刻の本やエロ本(女性の裸が参考になると考えたらしい)を借りてくる。

一方、町には関西弁を使うインチキ臭いカップル(高良健吾唐田えりか)がやって来る。男は口八丁手八丁で町の女性たちに包丁を売りつける。女は超長いサンバイザーをかぶって自転車に乗って海へ出かける。そんな女を見て、奏介の美術部の後輩の立花(中須翔真)がときめく。

とまあ、変な連中が変な言動を繰り広げてシュールな笑いを巻き起こすのだが、その最たるものは町で行われる「静か踊り」なる踊り。最初の太鼓の合図だけで一切鳴り物はなし。もしも歯を見せて笑ったら、その時点で失格という奇妙な踊りだ。これまたあまりにもシュールでクスクス笑ってしまうのである。

おまけに、立花が超能力の使い手で、それを使ってエロじじいを懲らしめるという奇妙奇天烈なエピソードまである。

2章もすごい。寝たきりで口がきけない老女のもとを、テルオが頻繁に訪ねて交流を持つ。亡き夫に会いたいという老女の願いをかなえるため、テルオは精巧な夫のマスクの制作に励む。フリーターの彼は妹から「何者かになりなさいよ」と言われても、「芸術家は全て自称であるべきだ」と堂々としている。そして、完成したマスクをかぶって老女に会いに行くのだ。

一方、町の介護施設認知症を治したというカリスマ介護士が現れるが、どうやら彼女が老人を虐待しているのではないかという疑惑が浮上する。また、奏介は新聞部の取材で町に現れた正体不明の「野獣」を探しに行く。

そして最後の3章も、これまた不可思議なお話。町の不動産会社で働く理沙子(剛力彩芽)の友人の大林(菅原小春)が東京からやって来る。彼女は営業の仕事をしていると言っていたが、実はアーティスト相手の借金取立人だった。彼女の狙いは、最近この町に移ってきたらしいケン(村上淳)。ところが、ケンは理沙子と恋仲だった。大林が町に来ていることを知ったケンは、奏介たちにある依頼をする。

大まかな展開を書き出してみたのだが、とにかく大勢の人物が出入りして、様々なエピソードを展開するのである。まさに自由奔放、大胆不敵。ある意味、とっ散らかった話にも思える。

それぞれのエピソードに何やら意味があるような気もするし、ないような気もする。メッセージらしきものを感じ取ろうとすれば、それなりに感じ取れはするものの明確ではない。それでも現実の社会の様々な様相を、この架空の町・汐鳴市に投影させているのは間違いないだろう。

その中でも特に印象に残るのは、アートの本質についての言及。全編に渡ってアートの様々な側面が、正負も含めて描かれている。例えば、本当に価値があるのかどうかわからない芸術品に大金が舞い飛ぶ現状。奏介の作った人魚が、作者不明のまま高値がついてしまうのである。

だが、しかし、奏介はそんなことには無頓着だ。描きたいものを描き、作りたいものを作る。ラストで映る彼が描いた海の絵が実際の海と一体化するシーンが、芸術の本来の姿を見せているのではないか。この映画と同じように、芸術とは、自由でおおらかなものなのだ。そう宣言しているように思えた。

観れば元気になれる映画だと思う。2時間20分と少し長めだが、3章立てということもあってそれほど長くは感じない。画角の狭い映像で描かれているのも効果的だ。

俳優たちも好演。原田琥之佑をはじめとする子供たちは、みんな生き生きとした演技を見せている。麻生久美子高良健吾唐田えりか剛力彩芽、菅原小春、村上淳らもいい味を出している。映画監督の諏訪敦彦が謎の男で出演していたり、宮藤官九郎や坂井真紀が奇抜な役で出演していたりと、配役のユニークさも光る。

◆「海辺へ行く道」
(2025年 日本)(上映時間 2時間20分)
監督・脚本:横浜聡子
出演:原田琥之佑、麻生久美子高良健吾唐田えりか剛力彩芽、菅原小春、蒼井旬、中須翔真、山﨑七海、新津ちせ、中西優太朗、小野晴子、河原楓、河井青葉、中村シユン、吉岡睦雄、鈴木卓爾、竜のり子、広岡由里子黒田大輔、山田佳奈、宇野祥平松山ケンイチ駒井蓮諏訪敦彦村上淳宮藤官九郎、坂井真紀
*新宿ピカデリーほかにて公開中
公式ホームページ https://umibe-movie.jp/
(外部のサイトに移動します。外部のサイトの内容については責任を負いませんので)

 


www.youtube.com

 

*はてなブログの映画グループに参加しています。よろしかったらクリックを。

 

*にほんブログ村に参加しています。こちらもよろしかったらクリックを。

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村