「おーい、応為」
2025年10月21日(火)シネ・リーブル池袋にて。午後2時25分より鑑賞(シアター2/C-5)
~葛飾北斎の娘を描く。たくましい生命力と父娘の絆

東京・池袋のシネ・リーブル池袋が来年1月に閉館になることが突如発表された。契約満了で閉館というのだが、これでは運営のテアトル側の判断なのか、ビルのオーナーのルミネの判断なのかよくわからない。まあ、おしゃれな若者たちでにぎわうルミネの中で、お年寄りから子供まで集うシネ・リーブル池袋が異質なのは確かだが。
いずれにしても、新宿シネマカリテに続いてまたミニシアターが閉館だ。神保町にシネマリスという新しい映画館ができるというので喜んでいたのだが、やはりミニシアターの受難は続くようだ。私の心の拠り所がますます少なくなってしまう。あーあ。
さて、先日そのシネ・リーブル池袋で、大森立嗣監督の映画「おーい、応為」を観てきた。江戸時代の天才絵師・葛飾北斎の娘を描いた作品だ。原作は、飯島虚心の「葛飾北斎伝」と杉浦日向子 の「百日紅」。大森監督は、「さよなら渓谷」「日日是好日」「星の子」など様々な作品を監督しており、長澤とは「MOTHER マザー」に続いてのタッグとなる。
映画の冒頭、いきなり葛飾北斎の娘・お栄(長澤まさみ)の怒鳴り声が聞こえてくる。ある絵師に嫁いだものの夫の絵を見下したことから離縁され、家を飛び出していく。その時の威勢のよさときたら。まさに男勝り。豪放磊落。実にカッコいい。
北斎(永瀬正敏)の暮らす貧乏長屋に戻ったお栄は、そこでも彼女らしさを全開にする。部屋は散らかり放題。掃除も料理もまともにできなない。そして、しょっちゅう北斎と衝突する。北斎が「この出戻りが!」と言えばお栄が「じじい!」と応える。まさに似た者親子だ。
ただし、それとは違うお栄の顔も描かれる。北斎の弟子の初五郎に恋心を抱き、まるで少女のような態度を取る。精一杯めかしこんで川開きに出かけ花火を見物するが、なかなか心の内を言い出せない。そのうちに初五郎から「妹みたいに思っている」「なぜ絵を描かない?」と言われて、ブチ切れてしまう。
それをきっかけに、嫁入り前に握っていた絵筆を再び手にすることになる。似た者親子だけに絵の才能も父譲り。そんな娘に対して北斎は悪態をつきながらも、娘の才能を評価し、「葛飾応為」という名を授ける。北斎から「おーい、筆!」「おーい、飯!」と何かと頼まれることから授けられた名だ。
北斎は絵のことしか考えていない。絵を描くことにすべてを集中する。お栄も同様だ。2人にとって生きることは絵を描くことなのだ。それでも、彼女は拾った子犬を「さくら」と名付けて飼い、別に暮らす母と妹のことも気にかける優しさもあった。また、北斎の弟子で酒好き女好きの善次郎と友情を育む一面もあった。
こうして、豪胆でがさつでありながら、複線的に様々な表情を見せるお栄を描くことで、彼女のキャラがより魅力的になるのである。特に、セリフ以外の部分で彼女の心情を巧みにすくい取る演出が絶品だった。
その他にも、面白いエピソードがテンコ盛りだ。北斎はひたすら絵に没頭する。そのあまり死への恐怖を抱く。まだまだ描きたい、死にたくないというのである。そのため、お栄が買ってきた不老不死に効果があるという薬を飲んだりもする。芸術家の執念である。
北斎は引っ越し魔としても知られているが、この映画でも何度も引っ越しのシーンが出てくる。昔の引っ越しだけに、荷物は大八車に積むだけで間に合った。もちろんお栄もそれに従った。
父娘は火事で焼け出されたのをきっかけに、富士の見える場所に越す。それは北斎が描き続けた山だった。その際に、北斎はお栄に言う。「江戸に戻ったら自分の道を見つけろ。いつまでも自分といることはない」と。だが、お栄は猛然と反発する。「これが自分が選んだ道だ」と。それはお栄の正直な気持ちだったのだろう。いや、彼女はそういう生き方しかできなかったのかもしれない。
北斎は当時としては異例の90歳まで生きた。最後の最後まで絵に執着した。お栄は自ら絵を描くとともに、父を支え続けた。衝突はあっても、父娘は強固な絆で結ばれていたのである。
長澤まさみの演技が圧巻だった。お栄の内面を的確に表現していた。威勢のよさの反面、様々な心の内が見てとれる見事な演技だった。
そして、永瀬正敏の演技も素晴らしい。老境は特殊メイクを施しているのだと思うが、それにしても体も小さくなって、それでも絵に執念を燃やす演技が光った。
お栄と北斎の姿から、芸術家のたくましい生命力を感じとれる作品だった。撮影、照明、美術なども細部までこだわりが感じられる。大友良英の音楽もこの映画にふさわしいものだった。
◆「おーい、応為」
(2025年 日本)(上映時間2時間2分)
監督・脚本:大森立嗣
出演:長澤まさみ、高橋海人、大谷亮平、篠井英介、奥野瑛太、寺島しのぶ、永瀬正敏、和田光沙、吉岡睦雄、早坂柊人、笠久美、一華、小林千里
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
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