映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「愚か者の身分」

「愚か者の身分」
2025年10月27日(月)イオンシネマ板橋にて。午後3時50分より鑑賞(スクリーン7/D-8)

~3人のはみ出し者の若者の光と影。ヤクザ映画の進化系

 

昔から根強い人気を持つヤクザ映画。自分たちには無縁の世界であるのと同時に、そこには普遍的な人間ドラマも底流に流れているのが人気の秘密だろうか。

そんなヤクザ映画の現代版とも呼べるのが「愚か者の身分」である。原作は第2回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の小説。監督は「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」「Little DJ 小さな恋の物語」などの永田琴。今回は過去の作品とは明らかに異質な映画にチャレンジした。脚本は「リンダ リンダ リンダ」「ある男」「悪い夏」などの向井康介

早い話が3人のはみ出し者のドラマである。タクヤ北村匠海)、弟分のマモル(林裕太)、タクヤの先輩の梶谷(綾野剛)。それぞれの名前を冠した3章で構成され、それぞれの視点で彼らが生業とする闇ビジネスの手口と起きる出来事を描いていく。時制が交錯する中で、最初はよくわからなかったドラマの輪郭が次第に明らかになるという仕掛けだ。

前半はタクヤとマモルがドラマの中心。先にタクヤが先輩の梶谷の紹介で戸籍売買の闇ビジネスを始め、やがてマモルを仲間にする。大量のスマホを操り、SNSで女性を装ってワケありの男を誘い込み、言葉巧みに戸籍を買う。2年経てば元に戻るというのだが、それは嘘だった。そうしたビジネスをする一方で、彼らは普通の若者のようにバカ騒ぎをしたりして、楽しい日常を送る。

タクヤとマモルの絆は強い。その背景には貧困がある。彼らは貧困ビジネスの場で出会った。タクヤは金に困り、自身の戸籍も売っていたから、まともな仕事もできない。マモルは不幸な生い立ちで虐待を受け、中卒でこちらもまともな仕事ができない。そんな共通点が2人の絆を強くした。永田監督はこうして、彼らをワルたらしめた社会の事情に焦点を当てる。

前半はタクヤとマモルが、いわばワルなりの青春を謳歌する青春群像劇の様相も呈する。だが、2人はけっして自由に行動できるわけではない。彼らの闇ビジネスは組織のもとで行われており、それを踏み外すことは許されない。昔ならその組織はヤクザだったのだろうが、今は半グレ集団だ。気軽に若者を誘い込むが、その実態はヤクザ組織と大差ない。まさしく非情の組織である。

そんな中、ある日、組織の幹部が保管する大金が消える。マモルはタクヤの仕業だと聞かされ、タクヤの部屋から大量の血痕も見つかる。その掃除をマモルは命じられる。タクヤは殺されたのか?

ドラマが進むにつれて、事件の真相が明らかになる。まあ、このあたりの詳細はネタバレになるから伏せるが、実はタクヤは生存していたのだ。ただし、彼の消息に関してはかなりエグイ場面が登場するので、気の弱い人はちょっと注意が必要かもしれない。

いずれにしても中盤以降は、タクヤと梶谷の組織からの逃走のドラマが展開する。そこは前半とはテイストが変わり、小気味よくスリリングなドラマだ。牛乳や魚のアジなどのアイテムを巧みに使い、生活感のある人間臭さも醸し出す。そのことによって、よけいに組織から抜け出したいという彼らの思いが切実さを帯びてくる。

さらに終盤には激しいアクションシーンも飛び出す。ハリウッド映画も真っ青のエンタメ路線には、賛否両論ありそうだが、カタルシスを求める観客には受けそうだ。

ラストはやや尻切れトンボの感もあるにはあるが、警察が迫る緊迫した中で、タクヤとマモルのホッコリしたシーンを展開するという対比は面白いし、それなりに余韻も残る。

3人の若者を演じた北村匠海、林裕太、綾野剛がいずれも好演。ワルでありながらワルになり切れない微妙なキャラを巧みに表現していた。特に、ギリギリに追い詰められた時の彼らの表情が絶品。

また、この手の映画は悪役の怖さもポイントになるが、田邊和也、嶺豪一などの凄味のある悪役ぶりが堪能できる。

タクヤ、マモル、梶谷という3人のワルたちは、ワルではあるがそれに徹しきれない優しさがある。タクヤは最後までマモルのことを気にかけるだけでなく、自分がだまして戸籍を買い取った客にまで情けをかける。マモルもタクヤのことを気にかけて、組織を出し抜いてしまう。梶谷も命令に従っていればいいものを、危険を冒してタクヤを助ける。すべては彼らの優しさのなせる業。だからこそ、このドラマが魅力的に輝くのだ。総じてみれば、ヤクザ映画の進化系として面白いドラマだと思う。

◆「愚か者の身分」
(2025年 日本)(上映時間2時間10分)
監督:永田琴
出演:北村匠海、林裕太、山下美月矢本悠馬木南晴夏、田邊和也、嶺豪一、加治将樹、松浦祐也、綾野剛
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
公式ホームページ https://orokamono-movie.jp/
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