「ひとつの机、ふたつの制服」
2025年10月31日(金)シネ・リーブル池袋にて。午前11時35分より鑑賞(シアター1/C-8)
~全日制と夜間部で同じ机を共有する生徒。コンプレックスを背景にした瑞々しい青春ドラマ

閉館が決まったシネ・リーブル池袋で、以前予告編を観て興味をひかれたのが台湾映画「ひとつの机、ふたつの制服」。予告編の中に作家で、自作を映画化した「あの頃、君を追いかけた」の監督としても知られているギデンズ・コーの名前があったので、「彼の新作かしら?」と思ったのだが、そうではなかった。彼が絶賛したというのが、この映画なのだった。
1990年代の台北を舞台にしたドラマだ。台湾最大の脚本コンペティション「優良電影劇本奨」で特別優秀脚本賞を受賞したシナリオをもとに製作された映画で、監督は「よい子の殺人犯」「High Flash 引火点」などのジュアン・ジンシェン。
時代は1997年。映画の冒頭、当時の台湾の受験制度の説明がある。統一試験というものがあり、激しい受験競争があること。そのため名門校の全日制に受からなかった生徒は、夜間部に行って統一試験を目指すケースも多かったことなどが知らされる。
この映画の主人公の小愛(シャオアイ)(チェン・イェンフェイ)も全日制の受験に失敗し、母の強い勧めによって名門「第一女子高校」の夜間部に進学することになる。母は父が亡くなり多額の借金を背負うことになったため、家で子供を集めて学習塾を開いていた。だが、夜間部への進学が気に入らなかった小愛は、制服を自宅のベランダから放り投げる。それをスローモーション映像で捉える。
ここから生き生きとテンポよく小愛の青春が描かれる。第一女子高校の全日制と夜間部は同じ制服だが、学生番号などの刺繡の色は全日制が太陽をイメージした黄色。それに対して夜間部は月をイメージした白。それだけの違いだが、そこには明確な差があった。校長は生徒たちに「全日制だろうと夜間部だろうと同じ第一女子校の生徒」と語るが、それは建前。実際には「夜間部はニセモノ」という考えが根強くあった。そのため、時に両者は激しく対立した。
全日制と夜間部は同じ教室を使用していた。全日制の生徒が帰った後で、夜間部の生徒が同じ机を使う。自分と同じ生徒のことは「机友」と呼び、プレゼントを交換したりする風習があった。小愛の机友は成績優秀な敏敏(ミンミン)(シャン・ジエルー)。何事も活発で明るい子だった。
2人が直接顔を合わせた際に、敏敏は小愛に「桜木花道か流川楓なら?」と問う。小愛は「流川楓」と答える。漫画「SLAM DUNK」の登場人物である。これをきっかけに2人は意気投合し、机に手紙を入れるやりとりを始め、お互いのことを話すようになる。
ある日、敏敏は小愛に、学校をさぼって他校のバスケの試合を観に行きたいから、制服を交換して全日制の生徒のふりをしてくれと頼む。おかげで小愛は全日制の体験をすることになる。さらに、敏敏は小愛のために全日制の制服を用意して、2人で学校を抜け出す。こうして2人の仲はどんどん深まっていく。
というように、キラキラした青春&友情のドラマが展開していく。それはまぶしい輝きに満ちていて胸がはずむのと同時に、私のようにはるか昔に高校生だった者にとってノスタルジックな雰囲気に浸れることにもなる。
ただし、青春には光もあれば影もある。小愛は日曜日は卓球場でバイトをしていたが、そこに路克(ルー・クー)(チウ・イータイ)という男子生徒が現れる。2人は卓球を通じて仲良くなる。ところが、実は敏敏も路克に想いを寄せていたからさあ大変。
ちなみに先ほど挙げた「SLAM DUNK」の話に加え、路克の名前から「スター・ウォーズ」の話が出てくるなど、この映画には90年代の懐かしいカルチャーがたくさん登場する。それもこの映画の魅力の一つになっている。
小愛がニコール・キッドマンが大好きで、彼女にファンレターを書こうとするエピソードもある。しかも、それに対するニコールからの返信をめぐって、のちにひと悶着が起きてしまう。
2人の友人が同じ異性を好きになるという話は、特に珍しいものではない。しかし、そこに学校内のヒエラルキーや小愛のコンプレックスが織り込まれることで、ドラマが俄然面白くなってくる。
小愛、敏敏、路克は初めのうち3人で仲良く遊んでいた。ただし、小愛は自分が夜間部の生徒であることを言い出せず、嘘をついていた。やがてそれがバレる。そこには敏敏の嫉妬の感情も影響していた。小愛は路克のもとを去り、敏敏とも仲違いする。
その後の展開の詳細は伏せるが、そこでは小愛と母親との関係にも焦点が当てられる。娘に少しでも良い暮らしをさせようとする母だが、それが小愛には気に入らない。2人は激しく衝突する。
終盤には、1999年9月21日に起こった921大地震の話も出てくる。このあたり、ちょっと詰め込み過ぎの感もあるが、台湾の人にとって、あの時代を描けば当然触れなければいけない出来事なのだろう。
いずれにしても、最後には温かく素敵な結末が待っている。そこに至るまでには、涙腺を刺激される感動の場面も出てくる。何度も胸にグッときて切ない心持になってしまった。その点で、エンターティメントとして実によくできた映画だと感心した。
ラストシーンで、小愛たち親子3人がハグするシーンがとてもいい。
主演の小愛役のチェン・イェンフェイは「無聲 The Silent Forest」で、金馬奨の最優秀新人俳優賞を受賞した若手俳優。明るい表情の裏のコンプレックスをうまく表現していた。メガネ姿も可愛いが、メガネを取った姿もたまらん。
敏敏役のシャン・ジエルーは、イェンフェイとは違ったタイプの美女で、開放的な感じの端々に現れる微妙な感情のバランスが良かった。路克役のチウ・イータイのイケメンぶりも見もの。小愛の母親役のジー・チンも存在感あふれる演技だった。
90年代当時の教育環境を背景に、小愛のコンプレックスを織り交ぜながら、友情、恋愛、家族愛、そして成長を生き生きとテンポよく描いた作品だ。瑞々しくて、切なくて、心地よい青春ドラマだった。なるほど、これならギデンズ・コーが絶賛するわけだ。
◆「ひとつの机、ふたつの制服」(夜校女生/THE UNIFORM)
(2024年 台湾)(上映時間1時間49分)
監督:ジュアン・ジンシェン
出演:チェン・イェンフェイ、シャン・ジエルー、チウ・イータイ、ジー・チン、ホアン・ジーリン、ジェン・ジーウェイ、トゥー・シャンツン
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
公式ホームページ https://www.maxam.jp/hitofuta/
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