映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「道草キッチン」

「道草キッチン」
2025年11月25日(火)K's cinemaにて。午後2時30分より鑑賞(B-6)

~人とのつながりの大切さを知る女性。温かで優しいご当地映画

 

ご当地映画というジャンルがある。特定の地域を主要な舞台にしてドラマが展開する映画で、その地域の自治体や市民が全面支援しているケースが多い。以前ここで取り上げた倉敷を舞台にした「蔵のある街」(平松恵美子監督)などもご当地映画と言えるだろう。

「道草キッチン」は徳島県吉野川市を舞台にしたご当地映画。吉野川市市制20周年、板野町町制70周年を記念して製作され、吉野川市板野町が特別協賛している。

都会で小さな喫茶店を営む桂木立(中江有里)。独身で家族や親戚もいない彼女は、このまま1人で生きていこうと考えていた。だが、ある日、再開発の影響で店が立ち退きを余儀なくされ、閉店に追い込まれる。さらに閉店の日、彼女は倒れてしまう。そんな中、徳島県吉野川市から相続についての思わぬ通知が届く。それをきっかけに立は徳島への移住を決める……。

主人公の桂木立は50歳。亡き母が開いた小さな喫茶店の経営を引き継いでいる。独身で家族も親戚もおらず、漠然とこのまま1人で生きていくのだと思っていた。

映画は、その喫茶店で常連客が立に閉店を嘆く場面からスタートする。再開発の影響で立ち退きを余儀なくされ、閉店に追い込まれたのだ。再開発でできたビルにはチェーン店のカフェが入るらしい。

そんな閉店の日。立はめまいがして倒れてしまう。救急車で運ばれた立は、病院で血圧が高いと言われる。今までそんなことは言われたことがなかったと立が言うと、「年齢が……」という話になる。いわゆる更年期障害というやつらしかった。立は将来が不安になる。

ちょうどその頃届いた一通の封書。それは徳島県吉野川市から届いた相続に関する通知。当地の屋敷の持ち主である叔父が亡くなり、その後は妻が住んでいたものの、その妻も亡くなり相続人の立に通知が来たのだ。

立は叔父がいるらしいことは知っていたが、会ったこともなかった。どうやら叔父は母たちとは疎遠だったらしい。

屋敷は古く、住むには手入れが必要。こうしたケースではほとんどが相続放棄するらしい。立も放棄を考えるが、とりあえず現地に行ってみることにする。そして、しばらく後に彼女は現地に移住する……。

本作には、ご当地映画らしく、桜などの四季折々に咲き乱れる花々、滝などの自然の景観、阿波踊りなどの魅力的な観光資源が登場する。だが、それだけではない。シャッターの閉まった商店、都会に出ていく若者などのマイナスの話題も隠さずに提示する。

そして特筆すべきことに、この町にベトナム人たちが根を張っていることも描く。最初に立が現地に行った時に宿泊した宿のオーナーの奥さんをはじめ、ベトナム人たちは現地の人々に溶け込み、地域の一員となって一生懸命に生きている。

実際に吉野川市などでは、ベトナムをはじめ、カンボジアインドネシア、ネパール、中国などから来た人々が暮らしているらしい。市では多文化共生を目指して、様々な取り組みを行っているようだ。もはや彼らなしには地域は成立しない。日本の他の地方都市にも、こうした事情は共通しているのだろう。都会では外国人排斥の動きなどもあるが、それを唱える人々はこうした事情を知っているのだろうか?

本作ではベトナム人に焦点を当てているが、彼らの先駆けとなったのが立の叔父の妻ミンさんだ。ベトナムから難民として渡って来て、立の叔父と知り合い結婚した。それにあたっては周囲の強い反対があり、それ以来叔父と親族は疎遠になったらしい。

ミンは同じくベトナムからやってきた人々を中心に、多くの人から慕われていた。彼女は週末、ベトナム料理の店を開き、そこにはたくさんの人が訪れていた。

立は地元の人々と交流を重ね、ミンのことを色々と知り、そしてミンが残したベトナム料理のレシピをもとに再現する。それには、レンコンなどの地元の自然豊かな食材を使った。

そうするうちに、次第に彼女は自分自身に向き合い、生き方を見つめ直す。都会で1人で生きて行こうとしていた時とは違い、人と人とのつながりを大切に考えるようになる。そういうドラマである。

とりたてて大きなことは起きない。山場らしい山場もない。だが、そこには優しく、緩やかで、温かな空気が流れている。それがこの映画の最大の魅力である。

こんな町なら移住してともいいかも。観ているうちに、そう思えても来るから不思議なものだ。地元の良さをステレオタイプに示すのではなく、多面的に様々な側面を提示したからこそ、そういう思いを想起させるのだろう。実にウェルメイドなご当地映画といえる。

主演を務めるのは、中江有里。アイドル的にデビューして、その後女優として活躍し、さらにエッセイや小説を書くようになり、歌手としても活動している。私も若い頃の彼女がけっこう好きだったのだが演技を見るのは久しぶりだ。今回がなんと26年ぶりの映画主演だという。彼女のナチュラルで自然な演技が、この映画にはピタリと合っていた。その優しい笑顔を見るだけで心が癒された。

彼女の話し相手になるちょっと変わった女性を演じる歌手の今陽子、ファンタジックな雰囲気をまとったお遍路さん役のフォークシンガー、大塚まさじの演技も印象的だった。

◆「道草キッチン」
(2025年 日本)(上映時間1時間36分)
監督:白羽弥仁
出演:中江有里、金井浩人、村上穂乃佳、本間淳志、ファム・ティ・フォン・タオ、荒木知佳、芝博文、仁科貴、大塚まさじ今陽子
*K's cinemaほかにて公開中
公式ホームページ https://michikusa-kitchen.com/
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