映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「兄を持ち運べるサイズに」

「兄を持ち運べるサイズに」
2025年11月27日(木)TOHOシネマズ 日比谷にて。午後6時45分より鑑賞(スクリーン10/C-8)

~急死したダメ兄の知らなかった姿を知り変わっていく妹

 

中野量太監督は、「チチを撮りに」「湯を沸かすほどの熱い愛」「長いお別れ」「浅田家!」と、一貫して家族をテーマに映画を撮ってきた。5年ぶりとなる作品「兄を持ち運べるサイズに」も家族を巡るドラマだ。村井理子のノンフィクション・エッセイ「兄の終い」を映画化した。絶縁状態にあった兄の突然の訃報をきっかけに、家族に巻き起こる4日間のあれやこれやを描いている。

主人公は理子(柴咲コウ)。作家をしている彼女は夫と2人の息子とともに暮らしている。そこに突然電話がある。宮城県多賀城市の警察からで、疎遠だった兄(オダギリジョー)が急死したという。脳溢血らしい。発見したのは、兄と暮らしていた息子の良一(味元耀大)。警察は遺体を引き取りに来てほしいと言うが、理子はあまり気乗りしない。

実は兄とはずっと疎遠なのだった。理子は、自分勝手で生活力に乏しい兄に振り回された過去がある。2人の関係を物語る幼少期のエピソードが描かれる。父、母、理子の3人がレストランにいる。兄はといえば、店の外のサンプルケースをじっと見ている。父はもう待てないとばかりに、3人分の注文をする。その後、兄は遅れて入って来て、みんなが食べ終わった後にオムライスを食べる。父は不機嫌。母は兄を優しく見守っている。

いつもこんな調子なのだ。兄は自分勝手でマイペース。周囲のことなど気にしない。母はそんな兄を可愛がった。だから、理子は「お兄ちゃんが、いなくなりますように」といつも願っていた。

父が死んだ後は母と一緒に暮らしていた兄だが、母が癌になったことがわかると衰弱するのを見たくないと家を出てしまう。母が亡くなり葬儀に顔を見せたと思ったら、兄は葬儀で儲かった金をよこせと言う。それ以来、理子は兄と連絡を取らなくなった。

最近も、兄は金の無心のメールをしてきていた。そこに書かれていたことは、いかにも嘘くさい。理子はメールを無視した。

兄が亡くなった多賀城市へ出かける理子。できるだけ早く済ませて、「兄を持ち運べるサイズに」してしまおうという気持ちだった。警察に遺体を引き取りに行き、そこで兄の元妻・加奈子(満島ひかり)と、その娘・満里奈(青山姫乃)と7年ぶりに再会する。さらに、葬儀場で児童施設にいる良一とも再会する。その後、加奈子と満里奈とともにゴミ屋敷と化していた兄のアパートを片付ける。

その最中、理子はアパートの壁に貼られた家族写真を見つける。悪口を言い続ける理子に対して、自分と同じように迷惑をかけられたはずの加奈子は、「もしかしたら、理子ちゃんには、あの人の知らないところがあるのかな」と言う。こうしたことから、理子はもう一度兄のことを見つめ直す。

この映画の面白いところは、回想シーンは最低限にして理子たちの想像の兄を登場させていることだ。つまり、現在進行形のドラマの中に兄が普通に登場して、場合によっては理子たちとやりとりをするのである。いわばファンタジーの要素をドラマに注入するわけだ。これが実に効果的。兄がどういう人物で、どう生きてきたのかを端的に表現する。終盤には父と母まで登場する。

そうした中で、理子が持っていた兄のイメージが崩れ始める。自分勝手ではあっても、彼なりに一生懸命に生き、何よりも良一を可愛がっていたことがわかる。彼がついた数々の嘘も、あながちデタラメばかりではなかった。

印象深いシーンはいくつもある。その中でも、幼い頃の兄と理子のシーンが素敵だ。喫茶店を営み帰りの遅い母を思う理子に、兄は自転車の後ろに彼女を乗せ、店まで行って母の姿を見せるのである。その帰りに警察官についた兄の嘘も傑作だ。

本作は全編笑いに満ちたコメディーである。終盤の新幹線車中での分骨シーンなどは思わず爆笑してしまった。

泣けるシーンもある。加奈子が、良一に対して負い目を感じながらも、誠実に真正面から「一緒に暮らしたい」というシーンは、涙腺が崩壊しそうだった。

4日間の経験を通して、理子は兄を一面的にしか見ていなかったことを悟る。人間は複雑で多面性を持つ存在なのだ。どんなにひどい人だと思っても、実はそれとは違った面があるのかもしれない。理子の兄に対する憎しみは後悔へと変わっていく。

それを経て、すっかりきれいになったアパートで、理子、加奈子、良一がそれぞれ自身の想像の兄と対面するシーンが秀逸だ。ユーモラスであるのと同時に、故人の思い出が胸にある限り、その人物は生きているのだと実感させられた。

すべてを終えて、兄のお骨を持って戻ってきた理子を出迎える家族。これもまた微笑ましく、心和むシーンだった。

柴咲コウは、兄の様々な姿を知って微妙に感情が変化していく演技が見事だった。また、満島ひかりは別れても嫌いにはなれない兄への思いと、息子に対する複雑な感情を表現した絶品の演技だった。

オダギリジョーの飄々とした、得体の知れなさもいい。おそらく彼が演じなければ、兄はただの最低男になってしまったのではないか。

娘役の青山姫乃、息子役の味元耀大に加え、斉藤陽一郎、浦井のりひろ、不破万作吹越満らの脇役もいい味を出している。

いくら何でも都合よすぎという気もしないではないが、それを上回る魅力がある映画だ。中野監督の家族を見つめる温かな視線がいい。笑って、泣いて、ほっこりできる。そんな映画である。

◆「兄を持ち運べるサイズに」
(2025年 日本)(上映時間2時間7分)
監督・脚本:中野量太
出演:柴咲コウオダギリジョー満島ひかり、青山姫乃、味元耀大、斉藤陽一郎、岩瀬亮、浦井のりひろ、足立智充、村川絵梨不破万作吹越満
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
公式ホームページ https://www.culture-pub.jp/ani-movie/
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