映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ナイトフラワー」

「ナイトフラワー」
2025年11月28日(金)イオンシネマ板橋にて。午後4時15分より鑑賞。舞台挨拶中継付き(スクリーン2/E-10)

~母の愛ゆえに犯罪に手を染めるシングルマザー。北川景子と森田望智の芝居を直視せよ!

 

多種多様な作品を監督している内田英治監督。その中でも草彅剛主演の「ミッドナイトスワン」(2020年)は圧巻の映画だった。日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞している。その「ミッドナイトスワン」に続く「真夜中シリーズ」と監督が称している作品が、「ナイトフラワー」だ。

映画の冒頭、勤め先のスナックのトイレで夏希(北川景子)がウトウト居眠りをし、寝言を言う場面が映る。「そっちに行ったらアカン!」。おそらく子供に向かって言っているのだろう。

トイレから出た夏希は、「生きててよかったー!」とフラワーカンパニーズの「深夜高速」をシャウトする。いや、シャウトなどという生易しいものではない。がなり立てるのだ。

この冒頭のシーンだけで、本作での北川景子の演技が凄まじいものであることを予感させる。それほど衝撃的だった。

夏希の夫は多額の借金を残して蒸発し、夏希は2人の子供と一緒に東京に逃げてきた。昼も夜もいくつもの仕事を掛け持ちしても生活は苦しい。苦しいどころか明日の食べ物にも事欠く始末だった。役所にかけ合ってもどうにもならない。

そんなギリギリの生活でも、夏希は2人の子供を可愛がった。だが、時には感情が決壊する。幼い息子が餃子が食べたいと何度も言うのを前に、彼女は「うるさい!」と怒鳴りつけてしまう。その直後、我に返り「ごめんな」と息子を抱きしめる。

夏希は昼間の仕事先で、上司のパワハラに耐え切れず、ついにブチ切れて解雇されてしまう。彼女はどんどん追い詰められていく。

ドラマの転換点は、夏希が夜の街で偶然にドラッグの売買現場を目撃し、その売人がぶちのめされたことで訪れる。気を失った売人のそばにあったドラッグを入手した夏希は、それを見よう見まねで自ら売りさばく。

だが、それは危険な行為。街のギャングに見咎められ、彼女は殴られてしまう。それを助けたのが、格闘家の多摩恵(森田望智)だ。多摩恵は夏希の家に行き、彼女の傷の手当てをする。それをきっかけに、夏希と多摩恵は友人のような関係になる。いや、2人の子供も含めて疑似家族といってもいい関係だ。

多摩恵の生い立ちなどは明かされないが、彼女は孤独を抱えて生きていた。格闘技では食べて行けず、デリヘルでバイトもしていた。そんな彼女が、夏希たちと家族のような関係になるのは自然の流れだったのかもしれない。

多摩恵は夏希に一緒に商売をしようと持ちかける。知り合いを通じてギャング組織にコンタクトをとり、2人で正式な売人になるのだ。多摩恵は夏希のボディガード役だった。

商売は順調に進んだ。娘に中古とはいえバイオリンを買い与えることもできた。だが、さらに金が必要になり、夏希は今までの5倍の量のドラッグを扱うことを組織のボスに持ちかける。それはあまりにも危険な取引だった。

終盤は不良娘の死、探偵から拳銃を買うその母親などが登場して、夏希と多摩恵の行く手に暗雲が広がる。まあ、ちょっと現実にはあり得ない展開なのだがスリリングなのは確かだ。いったいどうなるのか息を飲んでスクリーンを見つめた。

その後のラストを、ハッピーエンドとも、バッドエンドともつかない曖昧なものにして、観客の想像力に委ねたところも好感が持てる。私的にはあれはファンタジーとして、あり得たかもしれない未来を描いているのではないかと思ったのだが。

北川景子の演技は、彼女の心の痛みをダイレクトに伝えるリアルなものだ。子供への絶対的な愛ゆえに犯罪に手を染める母親を、全身全霊で表現している。これまでの一般的なイメージをかなぐり捨てて、青く染めた髪で大阪弁を操り、悲しみや怒り、悔しさなどを情感豊かに演じている。本当に素晴らしい芝居だ。

多摩恵役の森田望智も口数は少ないものの、心に抱える深い孤独と、不愛想な中にも優しさを感じさせる演技が見事だった。多摩恵の練習や試合のシーンもたびたび登場するが、その格闘シーンは本格的なものだった。

経済格差や貧困家庭などの社会問題を背景にした、凄味に満ちたドラマだった。あまりにも過酷な夏希の人生は観ていて心が重くなるほどだが、その一方で、多摩恵とのシスターフッド的な友情や子供たちとの強い絆、圧倒的な母性が静かな感動を呼び覚ます。おかげで最後までスクリーンから目が離せなかった。北川と森田の演技だけでも見逃す手はない。

◆「ナイトフラワー」
(2025年 日本)(上映時間2時間4分)
原案・監督・脚本:内田英治
出演:北川景子、森田望智、佐久間大介、渋谷龍太、渡瀬結美、加藤侑大、渋川清彦、池内博之田中麗奈光石研
*丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
公式ホームページ https://movies.shochiku.co.jp/nightflower/
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