「佐藤さんと佐藤さん」
2025年12月1日(月)TOHOシネマズ 池袋にて。午後2時10分より鑑賞(スクリーン1/C-3)
~佐藤さんと佐藤さんの15年。人と人との関係は変化する

「佐藤」という苗字は多いが、佐藤さん同士の結婚というのはそれほど多くはないだろう。苗字が最初から一緒だから気が合うという訳ではないが、最初はうまくいっていた関係も環境の変化によって変わってしまうのはよくあるケース。それを描いたのが天野千尋監督の「佐藤さんと佐藤さん」だ。天野監督といえば、隣人トラブルを描いた2019年製作の「ミセス・ノイズィ」が印象深い。
映画は、最初は37歳の佐藤サチ(岸井ゆきの)の姿から始まる。弁護士としてバリバリ活躍する彼女は、離婚したい男の身勝手な話を聞く。その後、同僚の弁護士らしき男から、「だったら最初から結婚しなけりゃいいのに……」というようなことを言われて、サチは複雑な表情をする。
その後は時間をさかのぼり、22歳のサチと佐藤タモツ(宮沢氷魚)が描かれる。大学のコーヒー研究会で知り合った2人はやがて親密になる。性格は正反対。ダンス好きで活発なアウトドア派のサチと、正義感が強く真面目なインドア派のタモツ。だが、なぜか馬が合った。
やがて2人は同棲し、楽しく暮らし始める。5年後、タモツは司法試験に挑戦し続けているが、なかなか合格できなかった。サチは彼をサポートするために、一緒に勉強してあげる。ところが、なんと司法試験にはサチが合格して、タモツはまたしても不合格だった。
サチは申し訳なく思う。タモツは深く傷つく。試験の発表後、訪れた喫茶店でのシーンが印象的だ。かなり高齢の女性の店員(店主?)が注文を聞く。サチはブレンドを注文し、タモツはブルーマウンテンを注文する。店員は耳が遠く、よく聞き取れない。しばらく後に彼女が運んできたのは、ブレンドとパフェ。サチは注文していないと言うが、タモツは「いいよ」と黙々とパフェを食べる。うすら寒い空気が流れる。2人の今後を暗示するような場面だ。
その後、サチは弁護士になり多忙になる。タモツは塾の講師をしながら勉強を続けるが立場は完全に逆転する。2人はささいなことからケンカを繰り返す。
ところが、ほどなくサチの妊娠が発覚。サチはもちろんタモツも大喜びで、2人は結婚することにする。
出産後、サチはすぐに弁護士の仕事を再開する。タモツは司法試験の勉強を続けながら、息子の世話をする。だが、それは大変なこと。勉強するどころではなくなる。2人はまたもすれ違い始める。
その後は、タモツが司法試験への意欲を失くしたり、故郷に帰ってそこに住もうと言ったり、あれこれあるのだが、けっして夫婦にとってマイナスの出来事だけでなく、明るいエピソードも描くのが印象的。その分、話がリアルに感じられてくる。
天野監督は軽快かつ丹念にサチとタモツの15年を追う。そこで効果的に使われるのが手持ちカメラだ。あまり多用しすぎると鼻につくのだが、本作では絶妙のタイミングで使われる。2人が接近する場面やケンカする場面など、揺れ動く心理を手持ちカメラの揺れる映像で表現するのだ。ある意味、それはスリリングでさえある。
本作には何組かのカップルの姿も描かれる。サチの元同僚は夫との微妙な関係を語りつつ、サチに対して「あなたは結婚しても佐藤だからアイデンティティーに悩むこともない」という趣旨の発言をする。また、サチのある依頼人は、高齢になって妻から離婚を突きつけられ、うろたえる。彼はずっと「男が稼いで家族を養わなければならない」という価値観にとらわれてきたらしい。
そんなふうに、夫婦別姓や男性中心主義などをドラマの背景に組み込みながら(それを深く追求するわけではないが)、サチとタモツの15年間の軌跡を描いていくのである。
ラストのサチの表情が何とも言えない。彼女の鼻歌だけが残ってスクリーンは暗転し、やがてエンドロールが流れる。サチは何を考えていたのだろうか。
エンドロールに流れる優河の「あわい」という曲が美しくて心にしみる。
岸井ゆきのと宮沢氷魚の演技が秀逸。岸井はとびっきりの明るさと、暗さのコントラストを見事に表現。宮沢の内向的な演技もいい。2人とも、それぞれの心中がよく伝わってくる演技だった。
夫婦って本当に面倒くさいなぁ。いや、夫婦に限らず人と人との関係とは複雑なものである。
◆「佐藤さんと佐藤さん」
(2025年 日本)(上映時間1時間54分)
監督:天野千尋
出演:岸井ゆきの、宮沢氷魚、藤原さくら、三浦獠太、田村健太郎、前原滉、山本浩司、八木亜希子、中島歩、佐々木希、田島令子、ベンガル
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
公式ホームページ https://www.sato-sato.com/
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