「君と私」
2025年12月4日(木)ホワイト シネクイントにて。午後3時15分より鑑賞(B-8)
~悲惨な事故を背景にした瑞々しい青春ストーリー。そのきらめきが切ない

セウォル号沈没事故というのを覚えているだろうか。2014年4月に韓国で発生した海難事故で、多くの高校生が犠牲になった。その事故を背景に据えたのが韓国映画「君と私」だ。
といっても事故は直接的には描かれない。描かれるのは感受性豊かな2人の少女の青春の1ページだ。
オープニングから鮮烈な映像が飛び出す。校庭を映しただけなのだが、それがまばゆいばかりの光にあふれた映像なのだ。逆光も含めて光を大胆に取り入れた映像は、本作全体のタッチだ。ドキュメンタリーや広告映像、MVなどを手がけてきた映像作家・DQMが撮影を担当している。これが、このドラマの瑞々しさをより倍加させる。
カメラは教室の机に突っ伏している高校生のセミ(パク・ヘス)に移動する。彼女は不思議な夢を見る。それを先生に訴えるが、軽くいなされる。この夢の内容は、終盤になって明かされる。
セミは胸騒ぎを覚えて、入院中の同級生ハウン(キム・シウン)のもとへ向かう。ハウンは自転車の事故で足を骨折していた。セミは彼女にある告白をしようと考えていた。
そこからはセミとハウンの仲睦まじい様子が映される。2人ともよく笑う。底抜けに明るい。あの年頃の女の子らしい振る舞いだ。ハウンの踵を見たセミは、そこが白くなっていることに気付く。角質のせいだ。これは遺伝なのだとハウン。この踵は何度か映画の中で象徴的に映される。
そんな中、セミはハウンの手帳を見てしまう。そこには「フンババにキスしたい」という一言がある。
セミはハウンに一緒に明日からの修学旅行に行こうと誘う。だが、ハウンは行かないという。何より足がまだ完全に治っていないし、旅行費用もないという。
それでも2人は、ハウンがプレゼントされて一度も使っていないビデオカメラをネットで売って、旅行費用を調達することにする。2人は病院を抜け出し、ハウンの家へ行く。
その後も、まばゆい光に包まれたスクリーンの中を、2人が生き生きと動き回る。2人の息遣いまで繊細に描写される。
やがてセミの心にさざ波が立つ。セミはハウンにケガをさせたのが、イケメンの高校生だと知る。彼がフンババなのか?
ところが、彼はハウルには別の彼氏がいるらしいと告げる。セミはそれをきっかけにハウンと激しい言い争いをしてしまう。ハウンは彼女のもとを去っていく。セミはハウンが好きなのだった。
友達に誘われてカラオケに行ったセミが、歌ううちに感情が高まり、涙にくれるシーンは圧巻だった。カラオケ映像には、いつの間にかセミとハウンの楽しい日常が映っていた。セミの悲痛な心を的確に表現したシーンだ。セミが歌っているのは、2000年代に活躍した4人組女性ボーカルグループBig Mamaのヒット曲「諦め」だそうだ。韓国ではカラオケの定番として知られる代表的な失恋ソングとのこと。まさしくセミの心境にぴったりの曲だ。
その後、友人たちとともにハウンを探すセミ。そこで事の真相を知ることになる。
というわけで、とても瑞々しい青春ドラマではあるのだが、それだけではない。セミがハウンを誘った修学旅行というのが、済州島への旅。例のセウォル号で行くのだ。セミとハウンは架空の人物だろうが、あの事故の当事者であることが示唆される。2人の青春の1ページともいうべき愛おしい1日は、2人にとって最後の思い出かもしれないのだ。
それを知っているから、ドラマが瑞々しく、キラキラとしていればいるほど切なさがこみあげてくるのである。特に終盤、現実とも夢ともつかない場面が連続するあたりでは、もうたまらなくなってしまった。
セミ役のパク・ヘスは「スウィング・キッズ」「サムジンカンパニー1995」などに出演していた。ハウン役のキム・シウンは「あしたの少女」で注目された。2人とも繊細かつ瑞々しい演技で、揺れる少女の心を巧みに表現していた。
俳優として活躍するチョ・ヒョンチョル監督。長編デビュー作でこれほどの作品を撮った彼の胸中には、事故で犠牲になった高校生たちに対して、「絶対に忘れないからね」という思いがあったのではないだろうか。瑞々しくてあまりにも切ない映画だった。
◆「君と私」(THE DREAM SONGS)
(2022年 韓国)(上映時間1時間58分)
監督・脚本:チョ・ヒョンチョル
出演:パク・ヘス、キム・シウン、オ・ウリ、キル・へヨン、パク・ジョンミン
*ホワイト シネクイントほかにて公開中
公式ホームページ https://youandi-film.com/
(外部のサイトに移動します。外部のサイトの内容については責任を負いませんので)
*はてなブログの映画グループに参加しています。よろしかったらクリックを。
*にほんブログ村に参加しています。こちらもよろしかったらクリックを。