映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」

「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」
2025年12月19日(金)シネ・リーブル池袋にて。午後3時15分より鑑賞(シアター2/C-3)

~驚きの針と糸の仕掛け。犯罪現場に遭遇したお針子の奇想天外なドラマ

 

もうすぐ閉館のシネ・リーブル池袋。惜別の思いとともに観たのは「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」。文字通りお針子の波乱のドラマだ。

映画の冒頭、野原に人が転がっている。そばには針と糸がある。そこに主人公のモノローグがかぶる。何やら意味深で不穏なオープニングだ。

その後に映るのは主人公のお針子、バーバラ(イヴ・コノリー)。朝目覚めて起き出すのだが、それが何とも奇妙な起床。彼女の母親との幼い頃の会話がバックに流れる。どうやら、それは天井の刺繍から流れているらしい。音声メッセージ付きの刺繍で母親が考案したもののようだ。

スイス山中の小さな町に住むバーバラは、亡き母親が経営していた刺繍店を受け継いでいたが店は倒産寸前。彼女には友達も恋人もなく、孤独に暮らしていた。

まもなくバーバラは、数少ない常連客グレースのもとを訪れるため、動く刺繍店と銘打った大きな糸巻きのオブジェがついた車で出かける。

ところが、グレースのところに行くとグレースは「遅刻だ!」と大激怒。彼女はウエディングドレスを着ていて(3度目の結婚らしい)、背中のボタンをつけて欲しいと言う。だが、その途中でトラブったバーバラは、ボタンを失くしてしまう。「代わりのボタンは店にあるので取ってくる」と彼女は再び車に乗り込み引き返す。

その途中で、バーバラは一本道で男2人が倒れている事故現場に遭遇する。ケガをした2人は動けず、そばには2丁の拳銃が転がっていた。そして、麻薬らしき白い粉の袋と現金が詰まっているらしいアタッシュケースも。さあ、どうする? バーバラ。

ここで3つの選択肢が提示される。「完全犯罪(横取り)」「通報」「前進(見て見ぬふり)」というものだ。バーバラは完全犯罪を選択する。そして、なんと商売道具の針と糸を使った巧妙な仕掛けを施して、男たちに早撃ち対決をさせるのだ。何じゃ? この奇想天外さは!

その後、アタッシュケースを首尾よく手に入れて、いったんは店に戻ったバーバラだが、現場に証拠となる針と糸を置いてきたのを思い出して引き返す。すると、2人の男のうちの1人が生きていることに気付く。「まずい!」と言うので拳銃で撃ち殺そうとするものの、それはできなかった。そこで、その男を車に乗せて店に戻る。そして、男を監禁するのである。

ここから先も予想外の展開が続く。バーバラは男が逃げないように、またしても針と糸で巧妙な仕掛をする。それでも男は脱出を試みる。その間に色々な人が店にやって来て、あわや男の監禁がバレそうになる。

実は、この映画はタイムループ構成になっている。つまり、「完全犯罪(横取り)」のあとには、バーバラが「通報」「前進(見て見ぬふり)」を選択した場合のドラマが、それぞれ描かれるのだ。

イムループものの映画は珍しくないが、本作のユニークなところは、何といっても針と糸の仕掛け。残りの2つの選択肢のドラマでも、バーバラが針と糸のテクニックを駆使してハラハラドキドキの展開を演出するのである。現実にはあんな仕掛けがうまくいくとは思えないのだが、ここまでやられたら文句は言えない。面白い。面白過ぎて降参だ!

個性的な登場人物もこのドラマの魅力。無口で内気なのに、なぜか大胆不敵な行動に出る主人公のバーバラ。その佇まいは「アメリ」の主人公のようでもある。可愛らしいが怖い。何を考えているかわからない。演じるのは、アイルランド出身のイヴ・コノリー。

そして、警官と公証人と判事を兼ねているエンゲルおばあさんもユニークな人物。小さな村だから兼任しているのだろうが、それにしてもまるで「ツイン・ピークス」にでも出てきそうな怪しさ満載だ。

その他にも、結婚式の衣装のボタンが取れて血だらけで怒る花嫁グレースだの、冷酷なマフィアのボスだの、いろんなクセモノたちが勢ぞろい。それもこのドラマのアクセントになっている。

さらに、独特のユーモアも感じられる。スイスの田舎ののんびりした風景、ノスタルジックな音楽、音声メッセージ付きの刺繍、喋る裁縫箱、大きな糸巻き。とても凶悪犯罪のドラマには似つかわしくないそれらが、実にいい味を出している。

3つの選択肢のドラマはすべて悲惨な結末だが、その後のドラマできちん希望を見せているあたりもなかなかの手腕。バーバラと母親との関係性をドラマの背景として織り込むところなども含めて、すべてにおいて巧みに構成されている。

フレディ・マクドナルド監督は2000年生まれ。映画学校の入学課題で19歳で撮った自身の6分の短編を、長編に仕立てたという。その短編を絶賛し、本作の製作を勧めたのがジョエル・コーエン監督。そういえば、本作にはコーエン兄弟の映画と似た雰囲気もある。才気にあふれた新人監督が出てきたものだ。

◆「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」(SEW TORN)
 (2024年 アメリカ・スイス)(上映時間1時間40分)
監督・脚本・製作:フレディ・マクドナルド
出演:イヴ・コノリー、ケイラム・ワーシー、K・カラン、ロン・クック、トーマス・ダグラス、ヴェルナー・ビールマイアー、ヴェロニカ・ヘレン=ヴェンガー、キャロライン・グッドオール、ジョン・リンチ
*新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
公式ホームページ https://synca.jp/ohariko/
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