映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「チルド」

「チルド」
2026年7月20日(月)池袋HUMAXシネマズにて。午後1時35分より鑑賞(スクリーン4/E-9)

~無機質なコンビニは現代社会の縮図なのか?ユニークなホラー映画

 

コンビニよりはスーパーに行く。近所のコンビニに行くよりも、ちょっと遠いスーパーに通う方が運動になるからだ。とはいえ、今の時代、コンビニに無縁な生活を送るわけにはいかない。コンビニは便利な店だ。

そのコンビニを舞台にしたホラー映画が「チルド」。新進の映画レーベルの「NOTHING NEW」による初の長編作で、監督はこれが長編デビューとなる岩崎裕介。

東京の片隅にあるコンビニ「エニーマート」。学生時代から働き始めて今は副店長の堺(染谷将太)は、毎日、同じことを繰り返す日々を送っていた。オーナー(西村まさ彦)は、コンビニというシステムの中でわずかな乱れも許さず店を支配している。そんな中、新人アルバイトの小河(唐田えりか)が現れたことで、店の均衡は静かに崩れ始めていく……。

映画の冒頭はいかにもホラー映画風。コンビニの人気商品サラダチキンのアップ。さらに、レジにいる副店長の堺の無表情な顔のアップ。背景に流れる不穏なBGM。ただし、その後しばらくはコメディー風。シュールでオフビートな笑いが連発する。

エニーマートには、不思議な客が次々にやって来る。顔に被り物をして「だって自分らしくいたいじゃないですか」などとワケのわからないことを言う客までいる。そんなクセモノの客たちに、抑揚のない口調で淡々と対応する堺。また、店長も何かと堺の行動にケチをつける。それに対しても、また抑揚のない口調で淡々と応じる堺。

堺は感情を表に出さずに淡々と働く。それは、あたかも無機質なコンビニそのものを象徴しているかのようだ。堺だけでなく他の店員や客たちも同様に、どこか存在感が薄い。彼らすべてが、無機質なコンビニを表しているのかもしれない。映画全体のタッチも、どこか冷たい。

そんな中、堺はマッチングアプリで知り合った女性と会う。その女性が自分のペットの猫の話を生き生きと語る際には、堺も屈託のない笑顔を見せる。ところが、その猫はとっくに死んでいるというオチが付く。愕然とする堺。ここのあたりは完全なコメディー調。

しかし、その後、堺はアプリで出会った看護師の女性から「生きているのとそうでないのでは、変わりがないんじゃないですか。あなたは生きている実感がありますか?」と問われて、うまく答えられない。このことが、彼の現状を示している。彼の毎日は、生きているのか、死んでいるのかわからないような毎日なのだ。

エニーマートの無機質さを象徴する人物の一人がオーナーだ。すべてはコンビニというシステムの中でルールを順守することを強制する。わずかな乱れも許さない。アルバイト店員が廃棄商品を持ち帰っているのを知った彼は、彼女を退職に追い込む。いくら廃棄商品を捨てるのがもったいなくても、ルール違反は許されない。その一方で、万引き犯が盗んだものが低価格だから、警察に突き出すことはしない。その方が効率がよくて店にとってはプラスだからだ。

実は、このオーナーと堺との関係がやがて明らかになる。2人に関係した人物もチラリと登場し、堺の複雑な家庭環境がうかがえる。ただし、そのあたりは深入りせずに観客の想像に任せている。

そんなエニーマートに変化をもたらすのが、新しく入ったアルバイトの小河だ。彼女は美容師の卵で、将来は自分で店を持つことを夢見ていた。そこはコンビニとは違って、観葉植物なども置かれた居心地のいい空間だ。

彼女はコンビニの決まり事に違和感を持つ。廃棄商品を持ち帰った店員に対する処分にも、万引き犯人への対応にも彼女は異議を唱える。小河は言う。「自分で考えて、自分の意志で動きます」と。エニーマートにとって小河は異質な存在だ。その小河がやがて波乱の原因となる。

中盤以降は、無造作な死が相次ぐ。店長や店員らがあっけなく死ぬホラー映画らしい展開になる。終盤近くではレストランのシェフが客を殴り殺す。まるで漫画のような場面だ。どれもかなりエグイ死に方だが、オフビートな笑いに包まれているせいか、それほど凄惨な感じはしない。

小河の出現によって、堺は少しだけ変化し始める。おりしも店長が死亡し、彼が後任の店長になる。堺は店を明るく、変えていこうとする。そして、小河にある依頼をする。しかし、それを快く思わない人物がいる。

というわけで、終盤はスプラッターホラー的な惨劇が起きる。それまで徐々に高まっていた不穏な空気が一気に爆発する。ただし、その合間に意表をついてミュージカル風の場面を挟み込むあたり、なかなかユニークな岩崎監督のセンスを感じる。

最近のコンビニは以前ほど画一的ではなくなったとはいえ、根本にある無機質さは変わらないように思う。すべてをマニュアルやルールで縛り、秩序を維持する。それはまさしく現代社会そのものの姿と言えないこともない。決まりきった規範を遵守することを強制し、個人の思考を停止させて、世の中をかりそめの安定に導く。だとすれば、この映画はコンビニという場所を通して社会を風刺した作品とも言える。そこにこの映画の本当の怖さがあるのかもしれない。

俳優陣では、堺役の染谷将太が「廃用身」の医師役に続いていい演技を見せている。最初の頃の無表情が終盤、生き生きとした表情になり、そしてまた無表情に戻る。その変化が実にしっくり来る。オーナー役の西村まさ彦の怪演も見もの。やる気があるのかないのかわからない風情で、その心中が推し量れないから余計に怖い。唐田えりか、くるま(令和ロマン)、長島竜也、その他の脇役もみんな良い個性を発揮していた。

◆「チルド」
(2026年 日本)(上映時間1時間28分)
監督:岩崎裕介
出演:染谷将太、唐田えりか、西村まさ彦、くるま、長島竜也
*テアトル新宿ほかにて公開中
公式ホームページ https://nothingnew.film/chilled_anymart/
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