映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「#彼女が死んだ」

「#彼女が死んだ」
2025年1月14日(火)シネマート新宿にて。午後12時35分より鑑賞(スクリーン1/C-13)

SNSを素材にしたサスペンス・スリラー。序盤からは想像もできないシリアスで緊張感あふれる展開に驚愕!

 

最近はSNSを素材にした映画も多い。例えば、昨年公開されたアメリカ映画「#スージー・サーチ」は、ポッドキャスト配信者の大学生がインフルエンサー失踪事件の真相を追うミステリードラマだった。

その「#スージー・サーチ」同様に、日本タイトルに「#」がついているのが韓国映画「#彼女が死んだ」。こちらもSNSをネタにしたサスペンス・スリラーだ。監督は長編デビューのキム・セフィ。脚本も担当している。

不動産公認仲介士のク・ジョンテ(ピョン・ヨハン)は、SNSに不動産の話を積極的に発信し、高い人気を誇っていた。その一方で、彼は立場を悪用して顧客から預かった鍵で他人の家に入り込み、その人の私生活を覗き見ることを趣味にしていた。ある日、SNSの人気インフルエンサーのハン・ソラ(シン・ヘソン)に興味を持ったジョンテは、部屋に忍び込み彼女の死体を発見する。動揺して逃げだしたジョンテだが、改めてその部屋を再訪すると何の痕跡もない。その後、ジョンテの秘密を知る何者かの脅迫を受けるようになるのだが……。

王道のサスペンス・スリラーを展開しながら、SNSの特徴をうまく取り入れたドラマだ。

序盤はまるでコメディー映画。不動産公認仲介士(韓国にはこういう資格があるらしい)で不動産関連のSNSの人気者ク・ジョンテが、職権を乱用して、顧客から預かった鍵を使い他人の家に侵入する。ただし、そこで悪事を働くわけではなく、ひたすら観察して私生活を覗き見る。故障個所があれば、それを修繕したりもする。何だ、この人、善人じゃん?

いやいや、ジョンテの行為は立派な不法侵入。しかも、最後には部屋にあるもの(どうでもいいもの)を盗んできて、それをコレクションに加えている。要するに、不法侵入に加え窃盗まで働いているのだ。正真正銘の犯罪者である。

だが、あまりそういう感じはしない。本人に罪の意識は薄いうえ、軽妙かつコミカルに描いているからだ。ジョンテは犯罪者どころか、お人好しでどこか抜けた好人物に見えてくる。

そんな彼の前に現れたのが、SNSの人気インフルエンサーのハン・ソラ。彼女はソーセージを食べながらビーガンサラダの写真を投稿するなど、不可思議な行動を取る。それがジョンテの興味を掻き立て、彼女を観察するようになる。さらに、ソラの家に侵入を試みるが、暗証番号がわからず失敗に終わる。

そんな時、なんとソラが「自分の住む家を人に貸したい」とジョンテの不動産店を訪れ、部屋の鍵を預ける。

このあたりまで来たところで、私は一瞬「このドラマはジョンテとソラのラブコメなのか?」と思ってしまった。そのぐらい軽くてユーモラスなタッチが続くのだった。

ところが、そこからドラマは一変する。預かった鍵でソラの部屋に侵入したジョンテは、そこでソラの血だらけの死体を発見する。通報しようと思ったものの、不法侵入がばれたらヤバいと慌てて飛び出す。ジョンテは一計を案じ、内覧のために入居希望の夫婦と再びソラの家を訪れる。彼らが死体を発見すれば、自分が疑われる心配はないと考えたのだ。だが、なぜかそこにあるはずの死体がない。ジョンテは混乱する。

ここからドラマはコメディー調から一転して、シリアスで、恐ろしく、謎だらけの展開へと突入する。ジョンテは、ソラの家に出入りしたことを知る何者かから脅迫を受けるようになる。

同時に、事件を知ったオ・ヨンジュ刑事(イエル)はジョンテに目をつけ、彼を疑い始める。ジョンテは、自らの濡れ衣を晴らすべく、SNSを使ってソラの交友関係を探り、真犯人を突き止めようとする。

というわけで、消えた死体を巡ってドラマは二転三転、予想外の展開が待っている。ソラを敵視する女やストーカーらしき男も現れて、どんどん謎は深まっていく。ジョンテはSNSだけでなく、手掛かりを求めて町にも飛び出す。何者かに襲われて反撃するアクションシーンなども盛り込まれる。

だが、もがけばもがくほど悪循環に陥る。そんなジョンテにオ刑事の追及の手が迫る。

ちなみにオ刑事は、刑事になったものの、裏方仕事ばかりさせられて現場に出ることを許されず、フラストレーションがたまっているという設定。だから、この事件に必死に食らいつくわけだ。そのあたりの人物造形もよく考えられている。

このあたりまでの展開は、ジョンテの視点で描かれる。その中で、ソラの別の顔が見えてくる。そこから先は、今度は視点を変えてドラマが綴られる。それによって、ある人物の壮絶な人生が明らかになるのだ。

同時にSNSの闇も浮かび上がる。憎み合う敵同士が実は裏で手を握っていたり、多額の金が一瞬で集まったり……。

緊張感は全く途切れない。終盤になって事件の構図が明らかになっても、ドラマが弛緩することはない。そこでは人間心理の裏表も余すところなく見せつけて、観客の目を引き付ける。

この映画の面白さの源泉は、主人公のキャラ設定にもある。この手のドラマでは、善人の主人公が犯人にされて苦闘するのが普通だ。だが、このドラマの主人公ジョンテは不法侵入と窃盗を繰り返す小悪党。それがドツボにはまるというのが、何とも皮肉で面白い。

ラストにオ刑事がジョンテに言う言葉が、すべてを物語っている。「あなたは被害者ではない。それをわかっているのか?」と。そうなのだ。ジョンテが良からぬ趣味を持ったことが、そもそもの発端なのだから。

SNSを素材にした映画の中でも面白さはかなりのもの。エンターティメントとして上々の出来になっている。

最後に俳優陣にも触れておこう。ジョンテ役のピョン・ヨハンは、序盤の飄々とした雰囲気とその後の切羽詰まった感じをうまく表現していた。一方、ソラ役のシン・ヘソンはドラマ「エンドレス 繰り返される悪夢」でもヨハンと共演したとのこと。こちらもインフルエンサーの明るくキラキラした表情とその裏の顔を迫力ある演技で表現していた。特に後半は彼女の独壇場だった。オ刑事役のイエルもいい味を出している。

◆「#彼女が死んだ」(FOLLOWING)
(2024年 韓国)(上映時間1時間43分)
監督・脚本:キム・セフィ
出演:ピョン・ヨハン、シン・ヘソン、イエル、ユン・ビョンヒ、パク・イェニ、シム・ダルギ、パク・ミョンフン
*シネマート新宿ほかにて公開中
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