映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

しばらくお休みします。

帯状疱疹になってしまいました。

以前から頭が痛く、脳神経外科で見てもらったら異状がないとのことでしたが、その後顔にぽつぽつと水泡ができはじめ、昨日皮膚科に行ったら帯状疱疹とのこと。

痛みがひどく(痛み止めはもらいましたが)、目もよく見えないため映画館にも行けないし、原稿も書けません。この原稿もやっと書いています。

1週間で治るとも、2週間ぐらいかかるとも、いろいろ言われていますが、とりあえずその間お休みしますので、よろしくお願いします。

「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」

「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」
2023年1月13日(金)池袋HUMAXシネマズにて。午後1時5分より鑑賞(シネマ4/H-9)

~著名プロデューサーの性犯罪とその裏にある人間ドラマ

ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性犯罪を暴いたニューヨーク・タイムズの調査報道は、ピュリッツァー賞に輝いただけでなく、その後の#MeToo運動にもつながった。その調査報道の内幕を描いたのが、「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」である。

ニューヨーク・タイムズの記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが、絶大な権力を利用して女優や自社の女性従業員に対して性的暴行を繰り返していたとの情報をつかみ、取材を開始する。その結果、数十年にわたり多くの女性たちが被害に遭っていたことを知るが、被害女性の口は重く、決定的な証言を得られずにいた。それでも2人は少しずつ事件の核心に迫っていく……。

大統領の陰謀」「スポットライト 世紀のスクープ」「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」など、ハリウッドのこの手の実録モノは面白い作品が多い。本作もそうした実録ドラマの魅力をそのまま引き継いでいる。特に不穏な空気の作り方が巧みだ。

冒頭は、映画の撮影に遭遇するある女性の姿。その顔は満面の笑顔だ。だが、次の場面で彼女が泣きながら、街を疾走するシーンが映る。いったい何が起きたのか。

続いて、ドラマはドナルド・トランプらのセックススキャンダルを、ニューヨーク・タイムズが追及する様子が描かれる。だが、トランプはその追及の手を逃れ、大統領に当選してしまう。

この件がワインスタイン追及の伏線になっている。ニューヨーク・タイムズにとっては、リベンジを果たす絶好のチャンスなのだ。

そこで取材に着手したのが、ジョディ・カンターという女性記者だ。彼女はワインスタインの性的虐待の被害のひどさを知る。だが、肝心の被害者たちは、守秘義務付きの示談や報復への恐怖、大きな力を持つ相手への無力感、メディア不信、そして何よりもトラウマから、なかなか核心を証言しようとしない。

そこに投入されたのが、もう一人の記者ミーガン・トゥーイーだ。2人はタッグを組み、あの手この手で関係者に接触する。時には2人揃って、またある時には単独で。はたして、どうやって証言を引き出すのか。サスペンス映画のようなスリルとミステリアスさが堪能できる。例えば、ワインスタインの弁護士との劇中での会話などは、まさにゲームのようなスリルが味わえるのだ。

とはいえ本作はまだ新しい出来事で、事態もまだ決着を見ていない。ワインスタインは、ニューヨークで禁錮23年の刑を受けているが、ロンドンやロサンゼルスでも訴追され、裁判は続いている。

そのためかどうかは知らないが、本作は実録物の要素は必要最低限にとどめ、その代わりに人間ドラマを前面に押し出している。

それは2人の記者の人間ドラマだ。2人とも家族を持ち、仕事と家庭の両立に奮闘している。特にミーガンに関しては、子供の誕生を前に仕事を離れ、その後は精神的に不安定な日々を送っていた。だから、仕事に戻ることに躊躇はなかった。仕事なしに彼女は輝けなかったのである。

そして、何よりも本作の特徴となっているのは、被害者たちの心の傷を丁寧に描いていることである。彼女たちは大きなトラウマを抱え、証言を求める記者たちの前で心が激しく乱れる。証言すべきか、口をつぐむべきか。激しい葛藤の中で身もだえする。

ジョディとミーガンは、彼女たちの痛みに寄り添う。無理強いして証言させるようなことはしない。証言を拒否されても、それ以上深入りせずに連絡先を書いた名刺を置いてくる。もちろんその根底には、ワインスタインの蛮行に対する怒りがある。それだからこそ、被害者を追い詰めないのだ。

ニューヨーク・タイムズもそれをバックアップする。話してくれるかどうかわからない被害者に会うために、2人がカリフォルニアやイギリスまで飛ぶことを厭わない。まさに、これぞジャーナリズム。日本の新聞社も見習ったらどうかね、と思ってしまったのだ。

こうして2人は粘り強い取材を重ね、地道に証言や証拠を集めてゆく。そして、ついに核心に近づく。ワインスタイン側は抵抗を試みるが、それも決定的な証拠の前で虚しく終わる。

現在のニューヨーク・タイムズは電子版が中心だから、記事がアップされる瞬間は地味なのかと思ったら、そこでタメをつくってけっこう派手に盛り上げるあたり、なかなか心憎い演出だった。

ワインスタインの犯罪を暴いた本作だが、劇中ではそれだけでなく女性を守るための法の不備など社会システム自体の欠陥も、明確に指摘する。彼の犯罪を助長した社会もまた、厳しく断罪するのである。それもまた本作の特徴といえるだろう。

とはいえ、ワインスタインのやったことはかなりエグイ。かつて彼を捜査した際の録音テープが劇中で流されるのだが、言語道断というか、思わず息を飲んでしまう酷さだった。

2人の記者を演じたキャリー・マリガン(「プロミシング・ヤング・ウーマン」とは一変!)とゾーイ・カザンのコンビぶりが良い。「大統領の陰謀」のダスティン・ホフマンロバート・レッドフォードを彷彿させる名コンビぶりだった。

2人の上司や被害者たちもそれぞれに好演している。ちなみに、当事者のうちグウィネス・パルトロウは名前しか出てこないが、アシュレイ・ジャッドは本人役で出演している。これもドラマに説得力を与えている。

さまざまな要素をバランスよく詰め込んだ脚本。派手さを排してリアルさを追求した演出。そして何よりも誠実で真摯な姿勢に打たれる一作だ。観応えは十分!

◆「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」(SHE SAID)
(2022年 アメリカ)(上映時間2時間9分)
監督:マリア・シュラーダー
出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソンアンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリーサマンサ・モートンアシュレイ・ジャッド
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://shesaid-sononawoabake.jp/

 


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「ドリーム・ホース」

「ドリーム・ホース」
2023年1月10日(火)グランドシネマサンシャインにて。午後3時5分より鑑賞(シアター8/D-7)

~平凡な主婦が競走馬で村おこし!?心が湧きたち元気になれる映画

寂れて活気を失った地域が、あることをきっかけに輝き出すというのはよくあるドラマ。特に「フル・モンティ」「ブラス!」といった90年代のイギリス労働者階級を扱った映画が有名だ。「ドリーム・ホース」はその系譜に連なる映画である。

舞台となるのはイギリス・ウェールズにある谷あいの小さな村。夫と2人で暮らす主婦のジャン(トニ・コレット)は、仕事と親の介護だけの単調で満たされない毎日を送っていた。そんなある日、彼女はバイト先のバーで馬主経験のあるハワードの話を聞いて競走馬に興味を持つ。競走馬の育成を決意した彼女は、繁殖牝馬を貯金をはたいて購入。飼育の資金を集めるために、村の人々に馬主組合の結成を呼びかける。やがて産まれた仔馬に「ドリームアライアンス」と名付け、有名調教師に預けるのだが……。

映画の冒頭は、夫のいびきが聞こえる中、隣で目を開けたままの主人公ジャンが映し出される。目覚ましが鳴るとすぐさま起き出し、飼い犬や鳥に別れを告げて、仕事先のスーパーに早朝から出かける彼女。このシーンを見ただけで、ジャンが生活に疲れ、輝きを失っていることがわかる。

しかも、彼女には近所に住む高齢の両親がいて、その面倒を見なければいけない。おまけに、父親は何だかぶっきらぼうだ。

そんな中、バイト先のバーで出会ったのがハワードという男。彼は元馬主で一度は美味しい目を見たものの、結局は全財産を失う瀬戸際まで行ったという。ハワードの話を聞いてジャンは競走馬に興味を持つ。

さっそく彼女は、様々な資料を手に入れ競走馬の育成を決意する。手始めは繁殖牝馬の購入だ。勝ったことはないが血統の良い牝馬を貯金をはたいて購入する。

「何だ?この展開の早さは」と思う人もいるかもしれない。しかし、実はジャンは動物好きで幼い頃から犬やハトを飼い、賞を獲得するなどしてきたのだ。特に犬はかつて父と一緒にドッグショーに出かけ、入賞した経験を持つ。だから、馬に興味を持つのも無理からぬことなのだった。

しかし、相手は競走馬だ。その育成には多額の費用がかかる。そこで、彼女は村人たちに呼びかけて馬主組合を結成する。その最初の会合。時間になっても誰も来ない。しかし、そのうちに1人の村人がやってくる。続いてまた1人。もう1人。総勢20人近い村人が集まる。彼らは週10ポンドずつ出し合うことにする。

馬主組合をつくるときに、彼らが確認したのは「決して儲けようとしないこと」。儲けではなく、「胸の高鳴り」を求めることが目的だった。彼らも寂れたこの村に住み、活気を失い、ワクワクするようなことを待ちわびていたのである。

そして仔馬が誕生する。残念なことに母馬は死んでしまうのだが、仔馬はジャンの愛情をいっぱいに受けて育つ。村人たちもそれをサポートする。

ジャンは生き生きと輝きだす。テレビばかり見て無気力だった夫も、彼女をサポートするうちに元気になる。村人たちも同様である。その様子をテンポよく描き出す。

仔馬はやがて調教師に預けられる。その経緯もなかなか劇的なのだが、その先にはさらに劇的なことが待っている。「ドリームアライアンス」と名づけられたその馬は、無事に競走馬としてデビューし、それなりの成績を残す。

その活躍を一喜一憂しなら見守っているのが、ジャンと村人たちだ。レース前の胸の高鳴り、無事に走り終えて欲しいという願い、そして上位でゴールした時の喜び。それが手に取るように伝わってくる。観ているこちらも、まるで競馬場にいるような気分になってくるのだ。

レースシーンの迫力は格別のもの。犬や猫ならともかく、馬に演技させるのはなかなか難しいと推察するが、本作の馬たちは名演を披露している。間近で映されるレースシーンが、心を湧きたたせてくれる。ドリームアライアンスが出走するレースが、障害レースだというのもなおさらハラハラドキドキ感を高めてくれる。

ちなみに、劇中の競馬は日本の競馬とはだいぶ違う、例えばスタートはゲートを使うのではなく、ロープを使って行う。そのあたりの違いも面白い。

もちろんすべてが順調にいくわけではない。終盤はドリームアライアンスをめぐって、悲劇が起きる。その時に難しい決断を迫られるジャンたちの心情が、リアルに映し出される。

クライマックスは大レースの場面。そこでドリームアライアンスがどうなったかは、ぜひ自分の目で確かめて欲しいが、この映画最大の見せ場であることは言うまでもない。

メインとなるストーリーの他にも、ジャン夫婦の再生のドラマ、ジャンと父との絆のドラマ、元馬主ハワードの家族のドラマなど、いくつかのドラマをうまく混ぜ込んでいるのも、本作の素晴らしいところ。

ユーモアもタップリだ。ハイソな馬主たちのバーに、素朴な村人たちが乗り込むシーンは爆笑もの。「おい、ミック・ジャガーがいるぞ」なんてセリフも笑える。ウェールズ国家を高らかに歌うなど、ウェールズ愛が感じられるのも特徴だ。

主演のトニ・コレット(「リトル・ミス・サンシャイン」「ヘレディタリー/継承」)は、グダグダの毎日を送る主婦がキラキラ輝きだすところを巧みに表現。夫役のオーウェンティール、ハワード役のダミアン・ルイスも良い演技を見せている。

この話は実話であり、ドキュメンタリー映画も製作されている。エンドロールでは、キャストたちがトム・ジョーンズの「Delilah」を代わり代わりに歌う愉快なシーンが登場するが、そこで本物のジャン夫婦も登場して一緒に合唱する。底抜けに愉快なシーンだ。

観ているうちに、ジャンや村人たちと一緒にグタグダの毎日にサヨナラできそうな気になってくるではないか。お正月にふさわしく、痛快で元気と勇気をもらえる映画だ。

◆「ドリーム・ホース」(DREAM HORSE)
(2020年 イギリス)(上映時間1時間54分)
監督:ユーロス・リン
出演:トニ・コレットダミアン・ルイスジョアンナ・ペイジ、オーウェンティール、カール・ジョンソン、ステファン・ロードリ、アンソニー・オドネル、ニコラス・ファレル、シアン・フィリップス
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
ホームページ https://cinerack.jp/dream/

 


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「終末の探偵」

「終末の探偵」
2023年1月9日(月)シネマート新宿にて。午後4時10分より鑑賞(スクリーン1/D-15)

~昔ながらのハードボイルドものかと思いきや、今の時代を投影させた探偵映画。北村有起哉がハマリ役

何だかかぐわしい香りがしてきたゾ。これは昔懐かしハードボイルド映画の香りではないか!?

というので鑑賞してきたのが「終末の探偵」。文字通り探偵ものの映画である。

とある街でしがない探偵業を営む連城新次郎(北村有起哉)。ある日、闇の賭博場でトラブルを起こしたことから、笠原組の幹部をしている顔なじみのヤクザ阿見恭一(松角洋平)から事務所放火事件の犯人捜しを依頼される。

同じ頃、新次郎はフィリピン人の両親が強制送還させられた過去を持つミチコ(武イリヤ)から、行方不明になった親友のクルド人女性の捜索を依頼される。ミチコが金がないと知ると冷たく断る新次郎だが、結局は情にほだされて引き受ける。こうして2つの事件を追ううちに、新次郎は中国系マフィアとヤクザの争いに巻き込まれていく。

冒頭は闇のカジノで、新次郎がギャンブルをしているシーン。ここからもう完全なハードボイルド探偵もの。新次郎は酒浸りでギャンブル好き。だらしなくて、いい加減な奴だ。だが、その一方で、情に厚く、頼み事は断れない。そして、ここぞという時に正義感を発揮して敵を叩きのめす。典型的な一匹オオカミの探偵なのだ。

そう。新次郎には、松田優作萩原健一はじめ数々の俳優が演じてきたアウトロー探偵の香りがプンプンするのである。

新次郎が喫茶店を事務所代わりにしているあたりも、いかにも……という感じ。そういえばバーを事務所代わりにする探偵が活躍する「探偵はBARにいる」シリーズは3作まで作られたが、あれでもう終わったのだろうか。けっこうおもしろいシリーズだったのだが。

話を元に戻そう。そんな古風な香りのするこのドラマ。だが、観ていくうちに、これが懐かしいだけのドラマでないことがわかってくる。

舞台となるある繁華街は、暴力団対策法によって昔ながらのヤクザが衰退の一途をたどり、団地や商店街などの地域コミュニティーが高齢化で崩壊の瀬戸際にある。元々の住民が減少し、代わりに多くの外国人が流入して多民族化している。そこでは、当然様々なことが起きる。日本人と外国人の対立、ヘイトスピーチ、厳しい生活を送る外国人、行き場のない高齢者……。

それらを通して、排他的な日本社会や在日外国人へ向けられる偏見・憎悪を浮き彫りにしていくのだ。つまり、この映画は今の時代を確実にとらえた作品なのである。

しかも、外国人は多様だ。ヤクザと抗争を繰り広げる中国系ヤクザのリーダーは、日本人の母を持つ残留孤児二世。学校でいじめにあったのをきっかけに、この世界に足を踏み入れたという。

新次郎に相談を持ちかけたミチコは、日本で育ったフィリピン人。だが、彼女が中学生の時に両親が強制退去処分になり、彼女は両親についてフィリピンに行くか日本に残るかの究極の選択を余儀なくされた。

そして、ミチコが捜索を依頼した友人の女の子は、クルド人である。彼女は2ヶ月に一度入管当局に出頭して、在留許可をもらわなければならない。

彼らは日本社会で過酷な運命にさらされ、何とか生き延びてきた。そういう現実をきちんと反映させた映画なのである。

そして、この映画のメッセージ性を決定づけるもう1人の登場人物がいる。あまり詳しく話すとネタバレになってしまうが、外国人を敵視するある青年だ。彼は「世の中に役に立たない人間」を完全否定する。それに対して新次郎は言う。「役に立つってなんだ?」。世の中の役に立つかどうかで人間を選別しようとする風潮に、彼は敢然と異議を唱えるのである。

といっても、別に小難しい話を展開するわけではない。ドラマの基調はあくまでもハードボイルド・エンタテインメント。それらしいお楽しみがそこかしこにある。

クライマックスは、ヤクザと中国系マフィアのボス同士の壮絶な殴り合い。そして、新次郎と地元有力者の手下との、こちらも壮絶過ぎる殴り合いだ。

派手なガンアクションなどは本作にはない。わずかに何者かがボウガンを使って恭一や新次郎が撃たれる程度である。基本は肉体と肉体のぶつかり合い。この潔さも本作の魅力だ。

最後はエンタテインメントらしく大団円を迎えつつ、日本の入管行政の無慈悲さを示して苦さも残す。

ラストシーンもいい。表でヤクザたちが殴り合いをしている中、新次郎がラーメン(たしか坦々刀削麺と言っていたな)を食す。殴られたヤクザが店に飛び込んでくる。新次郎はやおら表に出て彼らをボコボコにし、再び何事もなかったように坦々刀削麵を食べるのだ。この映画にふさわしい気の利いたエンディングだった。

主演の北村有起哉は、文学座の名優・北村和夫の息子。これまでに数々の映画、ドラマ、舞台に出演しているが、主演よりも脇役のイメージが強かった。今回の新次郎役は、まさにハマリ役だ。やさぐれてはいるものの人間味のある私立探偵を、見事に演じ切っていた。アクションシーンも板についている。

古風なスタイルのハードボイルド探偵ものと思いきや、今の時代を確実にとらえた映画。これ一作だけというのはもったいない。できればシリーズ化を期待したいところ。テレビの連続ドラマでもいいかも。

◆「終末の探偵」
(2022年 日本)(上映時間1時間20分)
監督:井川広太郎
出演:北村有起哉、松角洋平、武イリヤ、青木柚、髙石あかり、水石亜飛夢、古山憲太郎川瀬陽太高川裕也麿赤兒
*シネマート新宿ほかにて公開中。順次全国公開予定
ホームページ http://syumatsu-tantei.com/

 


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「ファミリア」

「ファミリア」
2023年1月8日(日)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後5時より鑑賞(スクリーン3/E-16)

~日本社会の縮図は地方都市にある。移民問題を背景に新たな家族の形を問う

日本にはたくさんの移民がいる。だが、その地位は十分に保証されているとは言えない。日本人に比べて、劣悪な環境に身を置かざるを得ない人々が多い。

「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」の成島出監督が、いながききよたか(「洋菓子店コアンドル」)のオリジナル脚本を映画化した「ファミリア」はブラジル人移民を取り上げた作品である。

妻を早くに亡くし、山里で一人で暮らす神谷誠治(役所広司)は、小さな窯を持ち陶芸職人として働いていた。ある日、仕事でアルジェリアに赴任中の一人息子の学(吉沢亮)が、難民出身の妻ナディアを連れて一時帰国する。学は結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぎたいと言うが、誠治は陶芸で食べていくのは大変だと反対する。

一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年のマルコス(サガエルカス)は日本人の半グレ集団とトラブルを起こし、ブラジル人を憎むリーダーの海斗(MIYAVI)に追われていた。マルコスは、助けてくれた誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物にも興味を持つようになる。だが、そんな中で悲劇が起きる……。

成島監督の映画らしく、奇をてらうこともなく正攻法から移民たちを描いている。こうした形で移民を取り上げたことは、過去にあまりなかったのではないか。それだけでも高く評価できる映画だと思う。

冒頭の長回しの映像が素晴らしい。ドローンを使い、朝の団地風景を映し出す。通勤する勤め人、工場や工事現場に向かう人、登校する子供たち、帰宅する水商売の女たち。一見、普通の団地だが、そこがブラジル人たちの生活の拠点となっていることを示す見事なショットだ。このドラマが彼らを中心人物に据えていることを端的に物語る。

ちなみに、本作の団地は、愛知県豊田市に実在する保見団地がモデルらしい。住民の6割がブラジルにルーツを持ち、住民は地元の工場などに勤務しているという。

だが、この映画の団地を取り巻く環境は厳しい。何かあればすぐに仕事を首になり、学校にもろくに行けない。金銭的にもギリギリの生活をしている。常に危険と隣り合わせの毎日だ。映画は、そのことを強烈に印象づける。

そして、彼らをさらに危険な目に遭わせるのが、いわゆる半グレ集団だ。彼らは、ブラジル人を目の敵にし、金を搾り取り、暴力で支配し、最後には命まで奪う。

映画は、その場面を執拗に描く。リーダーの海斗を演じるMIYAVIの冷酷な演技もあり、背筋ゾクゾクものの恐怖が感じられる。

そんな事情からブラジル人青年マルコスは、移民に冷たい日本社会に反発している。海斗をはじめ半グレ集団は彼らを容赦なく攻撃する。そんなマルコスを救うのが陶芸職人の誠治だ。

彼は自慢の息子が外国人の、しかも難民出身の妻を連れてきても、偏見の目で見たりはしない。大歓迎するのだ。ブラジル人たちと交流することにも、多少の戸惑いは感じながらも、特に抵抗はない。愚直で恥ずかしがり屋で優しい男なのである。

その誠治が、自らの生活に入り込んできたマルコスたちを戸惑いながらも受け入れる。マルコスも誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物にも興味を持つようになる。こうして彼らはある種の「家族」になるのだ(その背景には息子に関わる悲劇もあるのだが)。

誠治の人物像があまりにも理想的過ぎるという感想もあるだろう。だが、新しい時代の家族を形作るのはこういう人物なのだ、というある種の理想型を見せていると思えば納得がいく。しかも、あの人物像があるおかげで、ラストの強烈な修羅場が生きてくるのである。

以前取り上げた「やまぶき」でも思ったのだが、日本社会の縮図は地方都市にある。地方都市だからこそ、様々な社会問題が見えてくる。移民問題をクローズアップしたこの映画は、そのことを如実に示している。

役者では貫禄の役所広司をはじめ、吉沢亮中原丈雄室井滋、MIYAVI、佐藤浩市などが、それぞれの持ち味を発揮。松重豊のヤクザはいつ見ても怖いぞ~。オーディションで選ばれたマルコス役のサガエルカスなど、ほとんど映画初出演のブラジル人たちも頑張っている。

まあ、個人的には不満もないわけではないんですけどね。脚本にはやや難があるし、既視感ありありの「ありがち」なところが多いのも気になるところ。

特に半グレが暴れる場面は、どこかで見たギャング映画のような風景だ。モデルになった保見団地でも1999年に若い南米系の住民と右翼団体や暴走族が対立し、抗争事件が発生したというが、それにしてもねぇ。

とはいえ、総じてみれば力作と言える。新しい時代の家族を問い直し、移民問題など現在の日本の社会問題を鋭く突いた作品だ。今という時代だからこそのリアルさが感じられるだけに、観ておく価値はあるだろう。

◆「ファミリア」
(2022年 日本)(上映時間2時間1分)
監督:成島出
出演:役所広司吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、高橋里恩、高橋侃、管勇毅、井並テン、大空ゆうひ、安藤彰則、沖原一生、松重豊、MIYAVI、佐藤浩市
*丸の内TOEIほかにて全国公開中
ホームページ https://familiar-movie.jp/

 


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「非常宣言」

「非常宣言」
2023年1月6日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時35分より鑑賞(スクリーン6/D-10)

~異様な緊迫感の波状攻撃。旅客機内でのバイオテロの恐怖

相変わらずコロナが収まらない。何でも日本は、昨年12月26日から今月1日までの週間感染者数が世界最多だったらしい。

だからこそ、なおさら怖い映画が公開になった。韓国映画「非常宣言」である。よくある飛行機パニックものの映画だが、そこにバイオテロという要素を盛り込んで、異様な緊迫感を生み出すことに成功している。

まず映画の冒頭では、タイトルの「非常宣言」について、それがどのように意味を持つのかを簡潔に説明する。

そしてドラマが始まる。そこで気になるのは、早いうちから怪しい男が登場すること。航空会社のカウンターで、ある男が係員に対して奇妙な態度を取る。最後は悪態をついてその場を離れる。こいつ、きっと何かやらかすな。

と思ったら、何のことはない。こいつがバイオテロの犯人なのだ。普通この手の映画では、少なくともドラマの中盤まで犯人をバラさないのが鉄則。だが、この映画は飛行機が離陸する前から犯人がわかっているのだ。

しかしまあ、皆さん、ガッカリする必要はありません。犯人はわかっていても、面白さが消えることはありません。いや、むしろ犯人探しの要素を排除したことで、とびっきり緊迫感のある展開に持ち込んでいるのである。

というわけで、まもなくKI501便が離陸する。そこには、乗組員として副操縦士のヒョンス(キム・ナムギル)がいた。そして乗客には、娘とともにハワイへ向かうべくジェヒョク(イ・ビョンホン)の姿が。彼は飛行機恐怖症だという。

一方、その頃地上ではベテラン刑事のク・イノ(ソン・ガンホ)が緊急招集をかけられていた。そのため彼は妻とのハワイ旅行をキャンセルせざるを得なかった。妻はKI501便に搭乗する。

イノ刑事は、飛行機へのバイオテロを予告するネット動画の捜査を開始。まもなくリュ・ジンソク(イム・シワン)という男が容疑者に浮上する。彼はKI501便に搭乗していた。

だが、その時すでにKI501便では1人の乗客が死亡。その後も、次々と乗客や乗員に異変が起こる。それはジンソクがばら撒いた致死性のウイルスによるものだった。ジンソクはまもなく機内で拘束される。

イノ刑事は何か要求があるに違いないと、電話でジンソクを問いただす。だが、彼はそんなものはないと言い、自らもウイルスに感染して死んでしまう。

さぁ、そこからはすさまじいハラハラドキドキ感の波状攻撃が開始される。まずはKI501便の機長が感染し、操縦不能になってしまうのだ。迷走し、急降下する飛行機。乗客は天井に叩きつけられ、悲鳴を上げる。これはもう墜落するしかないのか。破格の緊迫感がスクリーンを支配する。

また、機内では分断も起きる。感染した乗客は後部座席に集められ、それ以外は前方に集められる。ジェヒョクの娘も手に感染を示す発疹が現れてくる。ジェヒョクは「アトピーだ」と否定するが、疑心暗鬼に駆られた他の乗客たちは信じない。こうした分断は、現在のコロナ禍を踏まえれば絵空事とは思えない。圧倒的にリアルなのだ。

映像は地上の各所と機内を短いカットでつなぎ、おまけに全編で揺れる不安定な映像を駆使する。それもまた異様な緊張感を生み出すことに貢献している。

地上ではイノ刑事が、ある大手製薬会社が事件に関係していることを突き止める。そして、やがてウイルス治療薬の存在が明らかになる。その過程ではカーチェイスも登場するが、これまた車内にカメラを持ち込んで撮影するという迫力満点のシーンだ。

さらに終盤がすごい。KI501便は副操縦士のヒョンスが操縦し、まずはアメリカに着陸しようとする。国土交通大臣のスッキ(チョン・ドヨン)が対応に乗り出し、韓国政府がアメリカ政府に要請するが、未知のウイルスへの脅威からアメリカはこれを拒否。

続いて成田に着陸しようと、日本に要請をするがこれも却下。ちなみに、その際には自衛隊が、KI501便を撃墜しようとする場面まである。ひでぇな、自衛隊

いや、自衛隊だけではない。最後に韓国に着陸しようとしたKI501便だが、なんと世論が真っ二つに割れて行き場がなくなってしまうのだ。

うーむ、このあたりも現下のコロナ禍を考えると絵空事とは思えない。現実感たっぷりの出来事なのだった。

その後も異様な緊迫感が加速度的に増幅。ジェヒョクの過去も明らかになり、予想もしない終幕に向かってスリルが高まる。だ、誰か、止めてくれ!と叫びたくなるほどのスリリングなシーンの連続である。

まあ、とにかくこちらの予想を裏切り続け、結末も予想を超える展開。多少は首をひねるところもあるものの、それを意識させない緊迫感の波状攻撃だった。

ソン・ガンホイ・ビョンホン、キム・ナムギル、チョン・ドヨンら豪華キャストの共演も見もの。犯人役のイム・シワンのサイコっぷりも出色だ。

定番の飛行機パニックものに、ウイルスという要素を持ち込んで、ポリティカル・サスペンスなどの要素も加味。最初から最後まで緊張感が途切れない映画だった。おまけにコロナ禍という事情もあって、リアルさも半端ない。お正月からハラハラドキドキしたい人には、お勧めしたい映画である。

◆「非常宣言」(EMERGENCY DECLARATION)
 (2022年 韓国)(上映時間2時間21分)
監督・脚本:ハン・ジェリム
出演:ソン・ガンホイ・ビョンホンチョン・ドヨン、キム・ナムギル、イム・シワン、キム・ソジン、パク・ヘジュン
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ https://klockworx-asia.com/hijyosengen/

 


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2022年鑑賞映画ベスト10

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

振り返ってみれば昨年は、
2月には心臓の手術、6月には父が亡くなるという出来事もあり、
あまり映画館に行けませんでした。

観た映画(劇場鑑賞のみ)の総本数は87本。
例年の3分の2ぐらいでした。

この本数で順位を決めるのは気が引けるのですが、
(そもそも順位など決めるのは製作者に失礼だろう!という声もありますが)
まあ、座興ということでやってみたいと思います。

別に作品の優劣ということではなく、あくまでも個人的な趣味なので、
そのへんのところは誤解なきように。

 

<日本映画>
1位 「ケイコ 目を澄ませて」

2位 「マイ・ブロークン・マリコ
3位 「マイスモールランド」
4位 「夜明けまでバス停で」
5位 「PLAN75」
6位 「こちらあみ子」
7位 「LOVE LIFE」
8位 「ある男」
9位 「窓辺にて」
10位 「やまぶき」
次点 「川っペリムコリッタ」

 

<外国映画>
1位 「ベイビー・ブローカー」

2位 「コーダ あいのうた」
3位 「シスター 夏のわかれ道」
4位 「アメリカから来た少女」
5位 「セイント・フランシス」
6位 「ユンヒへ」
7位 「パラレル・マザーズ
8位 「きっと地上には満天の星」
9位 「ハウス・オブ・グッチ」
10位 「秘密の森の、その向こう」
次点 「フラッグ・デイ 父を想う日」

うーん、悩ましい。
ていうか、まだまだ良い映画がたくさんあるんですけど。
観てない作品もたくさんあるし……。

とにかく、今年もできるだけ映画を観たいと思います。
よろしかったらおつきあいください。
よろしくお願いいたします。

 

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