映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「パンケーキを毒見する」

「パンケーキを毒見する」
2021年7月31日(土)シネマ・ロサにて。午後3時20分より鑑賞(シネマ・ロサ1/C-6)

菅首相とマスコミの真の姿に迫った政治バラエティー

最初にこの映画の話を聞いた時は冗談かと思った。何しろ今まで日本で、こうした政治ドキュメンタリーが作られることはほとんどなかったのだから。しかし、冗談などではなかった。本気だったのだ。

「パンケーキを毒見する」は、「新聞記者」「i 新聞記者ドキュメント」などの社会派作品を送り出してきた映画プロデューサーのスターサンズの河村光庸が企画・製作・エグゼクティブプロデューサーを務め、第99代内閣総理大臣菅義偉の素顔に迫った政治ドキュメンタリーだ。

中心的に描かれるのは菅首相の裏の顔だ。秋田県のイチゴ農家出身の彼は、集団就職で上京したことを売りにしてきたが、その実は地方の名家の出で、集団就職の話も今ではホームページの経歴から消されている。

一方、横浜で裏の市長と呼ばれるまでになった彼は、「値下げ」を最大の武器に庶民の指示を集め、何度もばくちを仕掛けた後に、ついに安倍政権の官房長官となり、総理大臣にまで上り詰める。

そんな菅首相の素顔を、石破茂江田憲司村上誠一郎らの政治家、ジャーナリストの森功元朝日新聞記者の鮫島浩らが解き明かしていく。

前半では学術会議の人事をめぐる国会答弁を、上西充子法政大教授が実況解説し、そのデタラメぶりを白日の下にさらす。さらに、省庁のナンバー2を集めて側近にする人心掌握術も解説する。とにかく狡猾で、権力維持のためには何でもするのだ。この男は。

中盤では、批判の刃はマスコミに向けられる。「週刊文春」とともにスクープを連発する赤旗編集部に潜入し、なぜ他のマスコミが沈黙するのかを追求する。タイトルの「パンケーキを毒見する」にあるように、菅首相が「パンケーキ懇談会」を開催して、マスコミを取り込んだ手法も披露する。

終盤では、若者が政治に関心を持たなかったり、政権を支持してしまう理由を明らかにして、「このままでいいのか」と観客に問いかけてくる。

前川喜平、古賀茂明らも登場。いわば反菅の論客のオールスターキャストが勢揃いしているわけだが、さすがにそれだけでは飽きると思ったらしく、シニカルなアニメなども使われる。特に従順な羊が冷酷な飼い主の下で、ばたばたと死んでいくアニメは印象深い。

また、菅首相が何度もばくちを仕掛けるところから、女博徒がつぼ振りをする姿を映し出すなど、寸劇(?)まがいの場面も登場する。

とはいえ、描かれている内容に新味はない。私のようにもともと政権に批判的な人にとっては、ほとんどが周知の事実だ。しかも、マイケル・ムーア監督の映画ほどの強烈なメッセ―ジ性もない。風刺はそれなりに聞いているが、あくまでも菅首相とマスコミに疑念を呈し、観客への問いかけを行っている程度だ。

それでも日本でこういう映画が作られたことは、素直に評価したい。河村プロデューサーをはじめ、作り手の心意気は高く買える。

映画の冒頭にあるように、取材拒否が相次ぐなど製作は容易ではなかったことがうかがえる。内山雄人監督は、テレビ畑の人で映画は初監督だが、何人もの候補が断った末に引き受けたという。数々の困難を乗り越えて、完成にこぎつけただけでも奇跡的と言えるだろう。

エンタメ色も加味した政治ドキュメンタリーだ。けっして小難しい話をしているわけではない。政治に無関心な人も気軽に見ることができるはず。そして考えて欲しい。こんな政権がいつまでも続くことの恐ろしさを。

 


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◆「パンケーキを毒見する」
(2021年 日本)(上映時間1時間44分)
監督:内山雄人
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://www.pancake-movie.com/

「アジアの天使」

「アジアの天使」
2021年7月26日(月)テアトル新宿にて。午前10時50分より鑑賞(A-11)

~問題を抱えた2組の家族の行き当たりばったりの旅

最近の石井裕也監督は、「生きちゃった」「茜色に焼かれる」と意欲作を立て続けに発表している。「アジアの天使」は、その石井監督がオール韓国ロケで撮り上げたロード・ムービーだ。

妻を病気で亡くした売れない小説家の剛(池松壮亮)は、幼い息子・学を連れて、韓国・ソウルに兄の透(オダギリジョー)を訪ねる。透は「韓国で良い仕事がある」と剛を誘っていたが、実は怪しげなビジネスに手を染めていた。しかも、現地の共同経営者が財産を持ち逃げしてしまう。透は再出発のため剛とともに海沿いの江陵を目指す。一方、落ち目の元アイドル歌手ソル(チェ・ヒソ)は、兄と妹とともに両親の墓参のため江原道に向かっていた。電車の中で出会った2組は一緒に旅をする。

問題だらけの2つの家族のドラマだ。兄の透は調子はいいものの、ちゃらんぽらんでだらしがない。弟の剛は妻を亡くした心の傷を抱え、日本を出たものの主体性がなく韓国語も話せない。兄弟の関係はギクシャクする。

一方のソルは、所属事務所の社長と関係を持ち、プライドを捨てられず歌にしがみついている。家族に対しては高飛車で、兄と妹との関係は険悪だ。

そんな2組の家族が偶然出会い、旅をともにする。それは行き当たりばったりの旅だ。江陵を目指していたはずの透は、気まぐれにソルたちの墓参に参加する。だが、順調には進まない。迷子になったり、ソルが急病になったりとトラブルが続く。その様子をユーモアを交えながら描き出す。

そうするうちに、最初はすれ違っていた2組の家族の心が通い始める。それぞれの家族同士の絆も結び直される。

そのハイライトはソルの両親の墓参だ。墓の前に集まった2組の家族は、そこですっかり打ち解ける。

とまあ、このあたりまではロード・ムービーによくあるパターンだ。だが、映画はまだまだ続く。墓参を終えたものの離れ難い一同は、墓の掃除をしてくれたソルの叔母の家になだれ込むのだ。

そこで彼らはさらに交流を深める。透は言う。韓国で必要な言葉は2つだけだ。「メクチュチュセヨ(ビールください)」「サランヘヨ(愛してます)」。ソルに気がある剛は「サランヘヨ(愛してます)」を言いに行くが、結局言い出せずに終わる。

まもなく、学が行方不明になる。2組の家族は必死に捜索する。その後、学は警察に保護され、彼らは海へ行く。そこで、剛と学は親子の絆を再確認する。

さらにソルは、そこで奇跡の体験をする。剛と透とソルは、路上で天使を目撃した共通の経験がある。その天使が再びソルの前に現れる。その容姿はさえないアジアの中年男。そう。「アジアの天使」というタイトルはここから来たものなのだ。

というわけで、終盤はかなり慌ただしい感じだ。おまけにファンタジー的な要素もある。あっけにとられる人もいそうだが、石井監督の思いがこもった展開なのは間違いがない。

石井監督は、言葉などなくても思いさえあれば心が通じることを明確にうたう。それは国境も民族も越える。

同時に、本作には人間に対する全肯定の姿勢が貫かれている。傷ついたり、もがき苦しんだりしながらも、それでも前を向こうとする人々に対して「それでいいのだ」と優しく見つめる視線がそこにはある。だから、この映画は心地よいのである。

「生きちゃった」「茜色に焼かれる」とはまったくタイプの違う作品(もちろん共通する要素もあるが)。石井監督の幅の広さを改めて思い知った。

ところで、ソル役の俳優をどこかで観たことがあると思ったら、「金子文子と朴烈(パクヨル)」のチェ・ヒソだったのね。

ちなみにテアトル新宿には、「odessa」という音響システムが導入されたとのこと。しかも「アジアの天使」は、石井監督が調整を実施して最適化した「creator's optimization」としての上映。なるほど、確かに良い音をしていたな。まあ、それ以上のことは音響の専門家じゃないからわからなかったが。

 

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◆「アジアの天使」
(2021年 日本)(上映時間2時間8分)
監督・脚本:石井裕也
出演:池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョーキム・ミンジェ、キム・イェウン、佐藤凌、芹澤興人
テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://asia-tenshi.jp/

 


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「17歳の瞳に映る世界」

「17歳の瞳に映る世界」
2021年7月25日(日)シネクイントにて。午後2時25分より鑑賞(スクリーン2/C-8)

~10代の予期せぬ妊娠を冷徹なリアリズムで描く

予期せぬ妊娠をした17歳の少女が、親の同意なしに中絶するため、いとこと共にニューヨークへと向かう。

ただそれだけのドラマなのに、「17歳の瞳に映る世界」が第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ)をはじめ数々の映画賞に輝いたのは、まるでドキュメンタリー映画のようにリアルに彼女たちの心情が描けているからに他ならない。

17歳の高校生オータム(シドニー・フラニガン)はある日、自分が妊娠したことを知る。彼女が住むペンシルベニア州では、未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。そんな中、同じスーパーでアルバイトをしている従妹のスカイラー(タリア・ライダー)は、オータムの異変に気付き、金を工面して、2人で中絶に両親の同意が要らないニューヨーク行きのバスに乗り込むのだが……。

ドラマは常にオータムの視点から描かれる。劇的な展開はまったくなく、冷徹なリアリズムに貫かれている。

オータムは地元の病院に行くが、中絶の再考を促すビデオを見せられる。しかも、ペンシルベニアでは、親に知られずに中絶手術を受けることができないことを知る。彼女はニューヨークに行くことを決意する。同じバイト先のスカイラーが売り上げの金をくすねて旅費にする。

バスでニューヨークに出た2人は、すぐにその足で中絶手術を受けようとするが、妊娠期間が思っていたよりも長いことがわかり、手術までに3日間を要することになる。その旅の一部始終を描き出す。

オータムは終始無愛想で無口だ。ほとんど感情を表情に出すことはない。

そして彼女の妊娠についての事情も示されない。複雑な家庭環境であることや、学校で彼女が孤独であることが示唆される程度で、それ以上は何があったのか明確にされない。それが観客の想像力と洞察力を刺激する。

ニューヨーク滞在中、彼女たちを取り巻く世界が浮き彫りになる。不慣れな都会に戸惑い、男たちの欲望におびえ、その一方でそれを利用し、それでも弱音を吐かずに自らの意思を通し、そしてただ寄り添う。セリフも最小限で過剰な演出もないが、逆にそれが多くのことを物語る。

ニューヨークでオータムに接する医療関係者はみんな親切だ。誰もがプロフェッショナルな対応に徹している。だから、オータムはなおさら感情を表に出すこともなく、淡々と事態に向き合う。

そんな中、劇中でオータムが唯一、感情を噴出させる場面がある。手術が決まってカウンセラーが義務的な質問をする。答えは4択。映画の原題でもある「Never(一度もない)」「Rarely(めったにない)」「Sometimes(時々)」「Always(いつも)」。

「パートナーに暴力をふるわれたことは?」「性行為を強要されたことは?」といった質問に、その4択で答えていく。答えるうちに冷静だったオータムが言葉に詰まり、ついには涙をあふれさせる。そこに中絶の背後にある事情が垣間見え、彼女の過酷な人生が顔をのぞかせる。

この場面だけでも、オータム役のシドニー・フラニガンのただものでなさが伺える。映画初出演ということだが、空恐ろしいものを持った俳優だと思う。

そして、常に彼女に寄り添いつつ、さりげない優しさを感じさせるスカイラー役のタリア・ライダーの演技も印象深い。何度か2人の間に微妙なヒビが入りかけるのだが、そのたびごとに元に戻る。そのさじ加減が素晴らしい。彼女も長編映画のキャリアは初めてだという。

ただものでないといえば、エリザ・ヒットマン監督も同様だろう。長編3作目にして、冷徹なリアリズムを通して、女性たちの生きる世界を鮮やかに描き出して見せた。ニューヨークの夜の街並みや人々を、巧みに取り込んだ映像も見応えがある。

ラストはさりげないが、2人の友情を確実に刻み付けてドラマは終わる。

地味といえばあまりにも地味だが、その真摯な語り口にたまらなく胸を打たれる映画である。

 

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◆「17歳の瞳に映る世界」(NEVER RARELY SOMETIMES ALWAYS)
(2020年 アメリカ・イギリス)(上映時間1時間41分)
監督・脚本:イライザ・ヒットマン
出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー、テオドール・ペルラン、ライアン・エッゴールド、シャロン・ヴァン・エッテン
*TOHOシネマズシャンテ、シネクイントほかにて公開中
ホームページ https://17hitomi-movie.jp/

 


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「少年の君」

「少年の君」
2021年7月23日(金・祝)Bunkamuraル・シネマ1にて。午後2時30分より鑑賞(B―6)

~痛切で過酷な優等生の少女と不良少年の魂のふれあい

長尺の映画を観るには体力的にまだ不安なのだが、2時間15分程度なら何とかなるだろう。

というわけで、この日は渋谷のBunkamuraル・シネマにて、中国・香港映画「少年の君」を鑑賞。

映画の冒頭に「この映画がいじめ問題の抑止になることを願う……」というメッセージが流れる。また、映画の最後には「この出来事がきっかけで様々ないじめ対策が進んだ……」という説明もなされる。これを見て、何だかお説教臭いと思うかもしれないが、とんでもない。いわゆる教科書的な映画とは無縁な作品である。

進学校に通う成績優秀な高校3年生のチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)。全国統一大学入試(高考)を控え殺伐とした校内で、ひたすら参考書に向かい息を潜めて日々をやり過ごしていた。そんな中、同級生がいじめを苦に自殺する事件が起こる。ニェンは無遠慮に向けられるスマホのカメラと、生徒たちの視線に耐えられず、思わず遺体に自分の上着をかける。

すると、そのことをきっかけに今度はニェンがいじめの標的になる。そんなある日、下校途中の彼女は集団リンチを受けている少年を目撃し、その少年シャオベイ(イー・ヤンチェンシー)をとっさに救う。やがてニェンはシャオベイにボディガードをしてもらうようになるのだが……。

優等生と不良という対極的な存在のニェンとシャオベイ。だが、孤独なのは共通している。ニェンの母親や彼女の学費のため犯罪まがいの商売をしている。家には不在がちで借金取りに追われている。一方のシャオベイは親に捨てられ、学校にも行っていなかった。そんな2つの孤独な魂が交錯する。

映画はニェンとシャオベイの心のふれあいを繊細に描き出す。お互いのすれ違いや共鳴をみずみずしく見せていく。それはこれ以上ないほどピュアな純愛だ。シャオベイの家で2人がともに過ごす時間がキラキラと輝いている。

などというと、初々しいロマンス物語を想像するかもしれない。だが、ここで描かれるのはもっと痛切で過酷な現実だ。

ニェンは、自殺した女子生徒がいじめられていたことを警察に告げる。そのことで、いじめていた生徒たちは停学になるものの、高考を受けることは許される。そして、このことがさらにニェンを追い詰めていく。

ニェンに対する執拗で陰湿ないじめの防波堤になっていたのがシャオベイだ。彼はニェンに影のように寄り添い、いじめていた生徒たちに警告していた。だが、あることからシャオベイ不在の一夜が生じる。そして、その一夜にニェンは壮絶なリンチを受ける。

その出来事の後で、2人がともに髪を切り坊主頭になるシーンが印象的だ。ニェンはリンチで髪を切られていたのだが、それを丸坊主にし、さらにシャオベイも同じ髪型にする。そこには2人の様々な感情が渦巻いている。この映画には、こうした鮮烈で衝撃的な名シーンがいくつもある。

学園ドラマの趣でスタートした映画は、壮絶なイジメや過酷な受験戦争、社会から落ちこぼれた人々など中国が抱える社会問題をあぶり出しつつ、純愛映画からサスペンス、そしてフィルムノワールと多様な表情を見せていく。

終盤はいよいよ高考の日。雨の中、多くの受験生が集まり、試験に臨む。その中にはニェンもいる。そして、まさにその時、殺人事件がドラマに絡みつく。発見された生徒の遺体。犯人は誰なのか。ニェンとシャオベイの胸にある思い。真実とウソ。

事件の真相を知った刑事がニェンにある罠を仕掛ける。そこからドラマは急展開を見せる。ニェンが警察でシャオベイと対峙する場面は、この映画で最大の名シーンだろう。言葉はないものの、2人の視線が、そして表情が多くのことを物語っている。

ほろ苦く痛切な後味を残して、ドラマはいったん終幕を迎える。だが、その後に描かれる後日談を見逃してはならない。冒頭のシーンとひと続きになるその場面では、微かな希望の火が確実に灯るのである。

様々な要素を変幻自在に行き来し、独特の映像美にあふれた作品に仕上げたデレク・ツァン監督が素晴らしい。もともと俳優で、「インファナル・アフェア」シリーズでおなじみのエリック・ツァンの息子だという。

そして主演のチョウ・ドンユイは、ほとんど無表情を通しながら、その下から繊細な感情の揺れ動きを表現する演技が見事だった。チャン・イーモウ監督の「サンザシの樹の下で」(2010)のヒロイン役に抜擢されてデビューし、中国では「13億人の妹」と呼ばれているというが、ただ可愛いだけではないのだ。

一方、相手役のイー・ヤンチェンシーも堂々たる演技。ピュアさを持った不良少年を好演している。ちなみに彼はアイドルグループ「TFBOYS」のメンバーだそうだ。

第39回香港電影金像奨で作品賞、監督賞、主演女優賞など8部門を受賞。第93回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされたというが、それに恥じない作品だ。単にいじめ問題を扱った映画というだけでなく、様々な側面を持った見事な青春ストーリーである。

 

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◆「少年の君」(BETTER DAYS)
(2019年 中国・香港)(上映時間2時間15分)
監督:デレク・ツァン
出演:チョウ・ドンユイ、イー・ヤンチェンシー、イン・ファン、ホアン・ジュエ、ウー・ユエ、チョウ・イェ、チャン・ヤオ、チャン・イーファン
新宿武蔵野館Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
ホームページ https://klockworx-asia.com/betterdays/


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「サムジンカンパニー1995」

「サムジンカンパニー1995」
2021年7月22日(木・祝)シネマート新宿にて。午後2時50分より鑑賞(C-15)

~不正に立ち向かった女性たちの痛快エンターティメント

完全に快復したわけではないものの、おかげさまでだいぶ良くなりました。

というわけで、約1か月ぶりの映画館。鑑賞したのは韓国映画「サムジンカンパニー1995」。3人のOLが会社の不正に気づき、社会正義のために立ち上がるドラマである。

1995年。グローバル化が意識され始めた韓国・ソウル。大企業のサムジン電子で働く3人の女性社員、生産管理部のジャヨン(コ・アソン)、マーケティング部のユナ(イ・ソム)、会計部のボラム(パク・ヘス)、は、それぞれに優秀な能力を持ちながらも、高卒というだけでお茶くみや書類整理ばかりさせられていた。

そんな中、会社がTOEIC600点以上で「代理」に昇進させる方針を打ち出し、ジャヨンたちはステップアップを夢見て英語を懸命に学んでいた。ところがある日、自社工場から汚染水が川に流出している事実を知り、会社の不正を見過ごすことはできないと、3人は力を合わせて真相究明に乗り出すのだが……。

シリアスな話かと思えばさにあらず。社会問題を抱腹絶倒のエンタメ映画で描くのは、韓国映画お得意のパターン。この作品も、ひたすら明るく、コミカルな王道のエンターティメント映画に仕上がっている。

オープニングで軽く当時の社会状況を説明した後、英語教室で3人が自己紹介するシーンが登場。ジャヨン、ユナ、ボラムそれぞれのキャラの個性が際立ち、その後のドラマに起伏を与える。

3人に共通しているのは一流企業に勤務し、一見キャリアウーマン風なこと。ところが、実際は高卒でお茶くみと書類整理しかさせてもらえず、大卒の女子社員からもバカにされている。大卒女子社員が私服なのに、彼女たちは制服を着させられているのだ。

そんな彼女たちに転機が訪れる。ジャヨンがたまたま出かけた自社工場で、近くの川で大量の魚が死んでいるのを発見する。自社工場から汚染水が流出していたのだ。3人は正義感からその真相を究明し始める。

その真相究明劇が傑作だ。検査書類が偽造されていたことを突き止めた彼女たちは、探偵かスパイのような行動までとりながら、事件の黒幕を探す。その様子をテンポよく、そしてコミカルに描き出す。

3人以外も個性的なキャラが続々登場。英語を巧みに操るエリート社長、会長の息子のボンクラ常務、末期がんで会社を去った部長など、個性的&訳ありのキャラが脇を固める。しかも、どれひとつを取っても無駄なキャラがないのである。敵か味方かわからないままにうごめく彼らが、真相追跡劇の興趣を盛り上げ、サスペンス的な魅力を高めている。

数々の伏線が張られているのもこのドラマの特徴。しかも、そのどれもが後に見事に回収される。「なるほどそうだったのか!」と思わされることも、たびたびだった。

数々の困難にあいつつも、隠蔽を図る会社側に立ち向かい、じりじりと真実に迫る3人。そして、ついに真相を解明する。しかし……。

ここに至って、「ああ、やっぱり世の中はそんなに甘くないのだな」と思ったものの、このドラマに似合わない暗い結末だとも感じたのだが、何のことはない。まだまだドラマは終わらないのである。

単純な公害問題かと思いきや、社内の権力争いの様相を呈し、さらに外資による会社乗っ取り劇に突入。二転三転するドラマはまったく先が読めない展開だ。その中で、3人のヒロインたちは何度挫折してもくじけず、力強く立ち上がるのである。

主演は「グエムル -漢江の怪物-」のコ・アソン、「愛のタリオ」のイ・ソム、「スウィング・キッズ」のパク・ヘス。それぞれの魅力がいかんなく発揮されている。

最後は3人が、他のOLや男性社員も巻き込んで繰り広げる最後の戦い。その果てには想像を超えた逆転劇が……。胸のすくラストに思わず大拍手! これぞ痛快エンターティメント!!

理不尽な権力に対して、正義を貫こうとした女性たちの連帯のドラマだ。今よりも男女格差がひどかった時代のドラマとはいえ、今に通じる要素も多々あるだろう。そういう意味でも面白い映画だった。

いかにも当時のゲームを再現したようなエンドロールまで含めて、ひたすら楽しく痛快なドラマなのであった。

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◆「サムジンカンパニー1995」(SAMJIN COMPANY ENGLISH CLASS)
(2020年 韓国)(上映時間1時間50分)
監督:イ・ジョンピル
出演:コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス、チョ・ヒョンチョル、キム・ジョンス、キム・ウォネ、ペ・ヘソン、デヴィッド・マクイニス、ペク・ヒョンジン、パク・クニョン、イ・ソンウク、チェ・スイム、イ・ボンリョン、イ・ジュヨン
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ https://samjincompany1995.com/


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近況報告

ご心配をおかけしております。
投薬治療で体調はだいぶ回復したものの、まだ完全とは言えず、映画館にもまだ行けない状況です。

いや、今日こそは「1秒先の彼女」を新宿ピカデリーに観に行こうと思ったのですが、その前に駅前のマクドナルドで涼んでいたら、外世界のあまりの暑さに出るに出られなくなってしまったもので・・・。

そんな中、明日、明後日は1泊2日で入院治療をすることになりました。はたして、どうなりますやら。これで良くなればいいのですが。

ちなみに、映画館には行っていないものの、GYAO!で映画を何本か無料鑑賞。ちゃんとしたレビューは書けませんが、以下、簡単なメモまで。

「真木栗ノ穴」
(2007年 日本)(上映時間1時間50分)
監督:深川栄洋
出演:西島秀俊粟田麗木下あゆ美キムラ緑子北村有起哉、尾上寛之、大橋てつじ、永田耕一小林且弥田中哲司松金よね子、谷津勲、利重剛

築40年の安アパートに暮らす作家の真木栗勉(西島秀俊)は、売れない作家。ふとしたことから、彼に官能小説の依頼がもたらされる。そんな中、彼は部屋の壁に小さな「穴」を見つける。そして穴の発見にあわせるように、白い日傘をさした女(粟田麗)が引っ越して来る。真木栗は、その穴を覗いて妄想を膨らませ小説を書くのだが……。

ちょっとエッチなホラー映画。真木栗が穴を覗いたことをもとに小説を書くと、小説に書いたことが現実となり、不可思議なことが起きる。真木栗は女の怪しい魅力に取りつかれ、夢とも現実ともつかない幻想の中で、どんどん憔悴していく。

よくある幽霊話で、とりたてて目新しいところはないのだが、注目すべきは豪華俳優陣。何しろ14年前の映画だから、みんな若い。西島秀俊キムラ緑子北村有起哉田中哲司など、今では押しも押されもしない有名俳優の若き日の姿が見られる。キムラ緑子に至っては、裸になって西島秀俊と一緒に風呂に入るシーンまである。そういう点で、興味深い作品であった。


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ほえる犬は噛まない(BARKING DOGS NEVER BITE)
(2000年 韓国)(上映時間1時間50分)
監督:ポン・ジュノ
出演:ペ・ドゥナ、イ・ソンジェ、コ・スヒ、キム・ホジョン

マンションに暮らすユンジュ(イ・ソンジェ)は、出産間近の妻ウンシルに養われながら教授を目指している。だが、マンションで飼うことが禁止されている犬の鳴き声が響き渡りイラつく。一方、マンションの管理事務所で働くヒョンナム(ペ・ドゥナ)は、屋上から男が犬を投げ捨てるのを目撃し、あと一歩まで追い詰めるが取り逃がす。そんな中、ユンジュの妻も犬を飼い始めるが、ユンジュが散歩中に行方不明になる。ヒョンナムはユンジェに協力して、迷い犬のビラ貼りを手伝うのだが……。

ご存知、「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督の長編デビュー作。今回久々に観たがやっぱり面白い!

軽快なジャズに乗って描かれるヒョンナムの追跡劇は、緊迫感タップリでスリリング。その一方で、ユーモアもある。ダメダメ人間の乾坤一擲の大勝負を描くという点では、「グエムル-漢江の怪物-」「バラサイト」などの後年の作品と共通する要素がある。

ドラマの背景として社会性も散りばめられているし、ちょっとしたボタンの掛け違いがとんでもないことになる、という人間の悲哀も描き込まれている。

要するに、今に続くポン・ジュノの様々なエッセンスが早くも、この映画に現出しているのである。ペ・ドゥナ出世作としても見逃す手はない作品だ。


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「飛べない鳥と優しいキツネ」STUDENT A
(2018年 韓国)(上映時間1時間54分)
監督:イ・ギョンソプ
出演:キム・ファンヒ、スホ、チョン・ダビン、イ・ジョンヒョク

文章を書くことが得意な女子中学生ミレ(キム・ファンヒ)は家では父に虐待され、学校では友だちもいなかった。ゲームが趣味の彼女は「ワンダーリング・ワールド」というゲームを知り、魅了されていく。そんな中、現実の世界で友だちを作ろうとしたミレは、逆に心に深い傷を負ってしまう。ミレはゲーム仲間の少女に会いに行くのだが……。

韓国のウェブ漫画「女子中学生A」の実写映画化とのこと。話はよくある孤独な女子中学生の恋と友情物語なのだが、死にたい少女が、同じく死にたい年上男性と出会い、交流する中で変化していくところが特徴。お互いに心に傷を負っているからこそ、2人の言動に説得力がある。映像的にもゲームの世界を、そのまま実写化するなど斬新さが目立つ。

まあ演じているのが、「哭声 コクソン」で新人賞を受賞したキム・ファンヒと、K-POPグループ「EXO」のリーダー、スホなので、そりゃあ絵になりますよね。

特に若い人には心に響くのでは?

 


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ただいま闘病中・・・

しばらくブログを更新していなかったが、別にサボッていたわけではなく、病気なのでした。

息苦しさを感じて、前から通院している病院で診てもらったら、肺に水がたまっていてこのままいくと心不全になるとのこと。そうならないように、とりあえず薬を飲んで治療しましょうということで、現在、自宅で療養中です。

というわけで映画館にも行けず、かといって動画配信を観る気力もなく、ブログも更新できず。

いつになったら治るのがまだめどは立ちませんが、いずれまた映画の感想を書くつもりなので、どうか一つ長い目で見てもらえればありがたいなと……。よろしくお願いします。