「ブルックリンでオペラを」
2024年4月10日(水)シネ・リーブル池袋にて。午後3時20分より鑑賞(スクリーン2/D-3)
~常識外れの人間たちが笑いを巻き起こす上質の夫婦コメディ
「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズでブレイクし、「パーフェクト・ケア」「シラノ」などで個性的な演技を披露しているピーター・ディンクレイジ。彼がアン・ハサウェイ、マリサ・トメイと共演した映画が「ブルックリンでオペラを」だ。
ブルックリンに住むオペラの作曲家スティーブン(ピーター・ディンクレイジ)は、妻の精神科医パトリシア(アン・ハサウェイ)と幸せそうに暮らしていた。だが、スティーブンには悩みがあった。作曲ができずに人生最大のスランプに陥っていたのだ。
ある日、スティーブンはパトリシアのアドバイスで、愛犬を連れて散歩に出かける。その途中に寄ったバーで、一人の女性と出会う。引き船の船長をしているというカトリーヌ(マリサ・トメイ)だ。
彼女に誘われて彼女が船長をしている船を見に行くスティーブン。するとカトリーヌはスティーブンを誘惑する。
その後、スティーブンはこの一件をもとにオペラを書く。その公演は大成功に終わる。だが、公演後のロビーにはカトリーヌ本人が待ち受けていて……。
この映画の全体的なタッチはクスクス笑えるコメディだ。監督・脚本のレベッカ・ミラー(劇作家アーサー・ミラーの娘で、引退した名優ダニエル・デイ=ルイスの妻)は、「スクリューボール・コメディをやりたかった」と語っているという。
スクリューボール・コメディは「1930年代初頭から1940年代にかけてハリウッドでさかんに作られたコメディ映画のサブジャンル。常識にとらわれない登場人物、テンポのよい洒落た会話、つぎつぎに事件が起きる波乱にとんだ物語などを主な特徴とする」(Wikipediaより引用)。
その通り、このドラマに登場するのは、常識にとらわれない人物ばかり。スティーブンはスランプで年中しかめっ面をしているし、パトリシアは病的な潔癖症。カトリーヌは恋愛依存症だ。こういう人物が、あれやこれやと入り乱れ、笑いを巻き起こしていくのである。
中盤まではカトリーヌとの出会いによって、スティーブンとパトリシアの夫婦関係が大きく変化する様子に焦点があてられる。このまま常識的な線で物語が進むかと思いきや、その後は予想もしない意外な方向に物語が進みだす。
映画の序盤で、10代の若いカップルの熱愛場面が描かれる。これがパトリシアの連れ子のジュリアンと、彼女たちの家のハウスキーパーのマグダレナ(ヨアンナ・クーリク)の娘テレザ。2人はラブラブだ。
だが、その恋路を邪魔するものがいる。マグダレナの夫のトレイ(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)だ。テレザもマグダレナの連れ子なので、トレイはテレザの義父ということになる。彼が熱中しているのは、南北戦争再現ごっこ。仮装して本物の銃を持って参加するのだ。この強烈なキャラもスクリューボール・コメディにはピッタリ。
さりとて、この超保守親父が10代の娘の恋愛など許すはずがない。そこでトレイの魔手から逃れて、若い2人のロマンス成就に向けて登場人物が奔走するのが後半の展開というわけ。
とはいえ、ロマンスに突っ走る10代のカップルに、「たぷん高確率で別れる」などと言わせて甘いだけでない現実を突きつけたり、人種差別や移民の苦悩(マグダレナは不法移民)に言及したり、ダイバシティなどの現代社会に対する目配りもしっかり効かせている。もちろん、お説教臭さは微塵もない。
劇中に登場するオペラも秀逸だ。特に最後のSFロマンスもののオペラは、なかなか面白くて見入ってしまった。これも本作の大きな見どころ。
ラストはみんなが落ち着くところに落ち着くハッピーなエンディング。そこで最後に映るアン・ハサウェイの尼僧姿が傑作。
俳優陣の個性的な演技も目を引く。ちょっとやりすぎぐらいにやっていて、それで嫌味にならないのだからバランス感覚が絶妙だ。
ちょっとウディ・アレンの映画を思わせるこの作品。すべてにおいてバランスの良さが光る上質な映画だ。「ただのラブコメかな」とあまり期待していなかったのだが、期待以上の面白さで、観終わって後味さわやかに映画館を出ることができた。ブルース・スプリングスティーンの歌う主題歌もなかなか良い。
◆「ブルックリンでオペラを」(SHE CAME TO ME)
(2023年 アメリカ)(上映時間1時間42分)
監督・脚本・製作:レベッカ・ミラー
出演:ピーター・ディンクレイジ、マリサ・トメイ、ヨアンナ・クーリク、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、エヴァン・エリソン、ハーロウ・ジェーン、アン・ハサウェイ
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開中
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