映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「パーフェクト・ケア」

「パーフェクト・ケア」
2021年12月3日(金)新宿ピカデリーにて。午後1時55分より鑑賞(スクリーン8/E-12)

ロザムンド・パイクの怪演が光る痛快な悪党どもの大激突!

認知症、知的障害、精神障害などの判断能力が十分でない人が、不利益を被らないように裁判所に申立てをして、その人を援助してくれる後見人を付けてもらう制度がある。これを成年後見制度という。

日本にもある制度だが、アメリカの場合は裁判所と後見人に絶大な決定権が与えられているようだ。それゆえ、制度を悪用する後見人も多いらしい。それをネタにしたドラマが「パーフェクト・ケア」である。脚本・監督は「アリス・クリードの失踪」のJ・ブレイクソン。コメディー色も散りばめた犯罪サスペンスである。

主人公のマーラ・グレイソン(ロザムンド・パイク)は、判断力の衰えた高齢者を様々な災難から守り、ケアをする法定後見人。多くの顧客を抱え、裁判所の信頼も厚い彼女だったが、その正体は裏で医師や介護施設と結託して、高齢者の資産をむしり取る悪徳後見人だった。パートナーのフラン(エイサ・ゴンサレス)とともに順調にビジネスを進めるマーラ。

映画の冒頭で、「あなたは自分を善人だと思っている? 善人なんて存在しないのよ」という主旨のマーラのセリフが入る。そうなのだ。これは悪人総登場のドラマなのだ。善人はほとんど登場しない。悪の魅力が全開の世界なのである。

中でも魅力的なのが主人公のマーラだ。いかにも知的な風情で裁判所を信用させたかと思うと、その裏で狡猾なふるまいをする。欲望を全開にし、まるで獲物を狙うように敵に迫っていく。命が奪われそうになっても絶対に屈服しない。ひたすらたくましいダーク・ヒロインである。そのモラル無視の暴走がブラックな笑いを巻き起こしていく。

マーラ役のロサムンド・パイク(「ゴーン・ガール」「プライベート・ウォー」)の怪演が光る。マーラの多彩な表情を見事に演じ分けている。彼女はこの演技で第78回ゴールデングローブ賞の主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞している。

とはいえ、初めのうちはマーラは小悪人といった風情である。医師や介護施設と結託し、裁判所をすっかり信用させ、お金持ちの老人の財産をかすめ取る。どちらかというと詐欺師の類で、大悪党という感じではない。

そんな彼女の次なるターゲットは、孤独な資産家の老女ジェニファー(ダイアン・ウィースト)だ。身寄りもなくマーラにとっては格好の獲物である。病死した老人の後釜にと医師から推薦されたジェニファーを、マーラは本人の承諾もなしに施設に送り込み、勝手に財産を処分する。

ここまではいつも通りのマーラの手口。ところが、ジェニファーはただの憐れな被害者ではなかった。彼女の言動の端々からクセモノ感が漂ってくる。マーラもワルならジェニファーもワル。ただし、すでにマーラによって施設送りにされているだけに、ジェニファーにとっては分が悪い。

そこで登場するのがギャングのボスのローマン(ピーター・ディンクレイジ)だ。ジェニファーは、何とロシアン・マフィアとつながりがあったのである。ローマンは、ジェニファーを奪回すべくあの手この手で迫ってくる。

ローマン役のピーター・ディンクレイジも魅力的な悪役だ。その小さな体とは裏腹に、徹底して冷酷無比かつ暴力的な態度が、こちらもブラックな笑いにつながっていく。マーラとローマンの競演は、まるでワルの二重唱だ。どちらも高らかに悪行の歌を歌い上げる。

ブレイクソン監督は、そんな悪人大行進をスローモーションなども使いながら、ケレンたっぷりに、ポップに、テンポよく映し出していく。

ドラマは予測不能な展開をたどる。人の命など何とも思わないローマン。なまじのワルならビビッて逃げ出すだろうが、マーラはひるまない。ローマンは何度かジェニファーの奪還を企て、あと一歩のところで失敗する。そこで彼はマーラを捕まえて脅す。初めての両者の直接対決だ。

この場面は背筋ゾクゾクものの恐ろしさ。両者のキャラクターが真正面から激突して、凄まじい迫力を生み出している。ここに至って、マーラは小悪党から押しも押されもしない本物の大悪党になったのである。

その後も予想のつかない展開が続く。正直、それはないだろうと思う都合の良い展開もあるが、観ているうちはそんなに気にならない。何しろ無条件に面白いのだ。

あまり詳しく話すと興ざめになるので言わないが、終盤には両者が図らずも共闘する展開に至る。なるほど、悪は永遠に不滅なのか。と思ったら、最後にまだドンデン返しが!

本作の背景には、冒頭にも記したようにアメリカの成年後見制度の問題点がある。それゆえ社会派的な側面もあるにはあるのだが、それは前面には出てこない。

それよりも、悪と悪のぶつかり合いが面白過ぎるドラマだ。突き抜けている。ひたすら痛快! エンディングまで悪党どもの悪行バトルを存分に楽しむべし。

なお、本作は3週間限定公開なので(配信もあるようだが)、観るなら急いで劇場へ!

 

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◆「パーフェクト・ケア」(I CARE A LOT)
(2020年 アメリカ)(上映時間1時間58分)
監督・脚本:J・ブレイクソン
出演:ロザムンド・パイクピーター・ディンクレイジ、エイサ・ゴンサレスクリス・メッシーナ、イザイア・ウィットロック・Jr、ダイアン・ウィースト
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://movies.kadokawa.co.jp/perfect-care/

 


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