映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「消えない罪」

「消えない罪」
2021年11月28日(日)シネ・リーブル池袋にて。午後12時30分より鑑賞(シアター1/G-6)

~妹を追い求める元受刑者を演じるサンドラ・ブロックの鬼気迫る演技

話題作を次々と送り出すNetflix。だが、加入していないから観られないのだ。だって映画館に行くので精いっぱいで、配信作品まで追いかける余裕なんてないんだもの。

サンドラ・ブロックが主演・製作を務める「消えない罪」は、Netflix作品。だから、当然観られない……と思ったら、あらラッキー! 配信に先立ち一部劇場で上映されたのだ。なかなかやるじゃないかNetflix。加入はしないけどね。

もともとは英国のTVドラマ「アンフォーギヴン 記憶の扉」を映画化したとのこと。監督は2019年の第69回ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した「システム・クラッシャー 家に帰りたい」のドイツの新鋭ノラ・フィングシャイト。

許されぬ罪を背負って生きる元受刑者を描いたサスペンス&ヒューマンドラマだ。過去に犯した殺人の罪で服役し、20年の刑期を終えて出所したルース・スレイター(サンドラ・ブロック)。しかし、彼女を待ち受けていたのは、世間の冷たい仕打ちだった。そんな彼女にとっての唯一の償いと希望は、事件後に養女に出された妹だった。離れ離れになってしまった妹を必死で捜すルースだったが……。

映画は刑務所からのルースの出所シーンで始まる。フラッシュバックを使いつつ、彼女がどうして刑務所に入ったのかを示唆する。それによって観客はルースが警官を殺したことを知る。この女、そんなに凶悪な女なのか? ちなみに本作では、随所で事件にまつわるフラッシュバックが効果的に登場する。

出所したルースに対して、世間は冷たい。そう簡単に過去の罪を許さない。特に殺されたのが尊敬されていた警官だということが、事態をよりいっそう厳しいものにしていた。それでもルースは掛け持ちで、大工と水産加工の仕事を得る。

彼女にとって気になることがあった。刑務所からたびたび妹に宛てた手紙を送っていたのだが、その返事は一切なかったのだ。妹は事件後に養女に出されていた。はたして妹は元気でいるのか。幸せに暮らしているのか。どうして手紙の返事が来ないのか。ルースはかつて自分たちの自宅だった家に住む弁護士の協力を得て、妹を必死で探そうとする。

一方、ルースをつけ狙う男たちがいた。殺された警官の遺族である兄弟だ。特に兄は復讐に積極的だ。「父さんは死んだのに、あいつは自由だ。そんなの不公正だ」。そう言って復讐の機会をうかがう。

主演のサンドラ・ブロックの鬼気迫る演技が見ものだ。ほとんど笑顔を見せずに、いつも硬い表情をしている。彼女がいかに過酷な刑務所生活を送っていたかがわかる。同時にそれは世間から自分の身を護るためでもある。化粧っ気もまったくなく、荒んだ心のまま妹だけを心のよりどころにする心情が、ひしひしと伝わってくる演技である。

それでもかすかな光がさす。養父母との面会がかなうのだ。しかし、彼女を警戒する養父母は妹に会わせまいとする。しかも、彼女の手紙は自分たちが保管して、妹には一切読ませていなかった。それを知って怒り狂うルース(その荒れようもまた凄まじいものがある)。

せっかく良い関係を築き始めていた水産加工場の同僚男性とも、自分が刑務所にいたことを告白したことから仲が壊れてしまい、ルースはどんどん追い詰められていく。

そんな中、妹の異母姉妹が事の真相を知り、ルースに接近してくる。もしかしたら妹と会えるかもしれない。そんな希望に胸を膨らませるルース。だが、それと同時進行で例の警官遺族の兄弟が復讐劇を実行しようとする。そして怒涛のクライマックスになだれ込む。

本作は全編に緊張感が途切れない。映像の組み立て方がうまい。その中でも後半は出色の緊張感だ。そこにはかつての事件の意外な真相も絡んでくる。さらに復讐を企てる兄弟の痴話げんかなども描かれる。そのあたりはちょっと詰め込み過ぎ、ひねり過ぎではと思ったのだが、盛り上がるのは確かである。

クライマックスは、妹がホールでのリハーサルでピアノを弾くシーンと、緊迫の誘拐現場とを巧みにリンクさせる心憎い演出。手に汗握る場面である。

そして、その後のラストに起きる出来事と、その後のサンドラの表情が印象深い。言葉はなくとも、万感の思いがこもった表場である。

元のTVドラマ自体も面白いのだろうが、脚本、演出ともになかなかの冴えで飽きさせない。何よりもサンドラ・ブロックの渾身の演技が光る作品である。それだけでも十分に観る価値がある。

◆「消えない罪」(THE UNFORGIVABLE)
(2021年 アメリカ)(上映時間1時間54分)
監督:ノラ・フィングシャイト
出演:サンドラ・ブロックジョン・バーンサルヴィンセント・ドノフリオヴィオラ・デイヴィス、リチャード・トーマス、リンダ・エモンド、アシュリン・フランチオージ、ロブ・モーガン、トム・グイリー、W・アール・ブラウン
シネ・リーブル池袋ほかにて公開中(Netflixで配信)
ホームページ https://www.netflix.com/title/81028975

 


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