映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「少女は悪魔を待ちわびて」

「少女は悪魔を待ちわびて」
2020年8月1日(土)GYAO!にて鑑賞

~シム・ウンギョンの熱演が光る二転三転する復讐劇

この日(8月1日)は、前日からいよいよ公開になった大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」を観に行こうと思ったのだ。だが、調べてみたら何と満席。そうだよねぇ。感染対策で座席数を減らしてるしねぇ。仕方がない。家でGYAO!の配信映画でも観るか。

鑑賞したのは、「少女は悪魔を待ちわびて」(MISSING YOU)(2016年 韓国)。韓国では「サニー 永遠の仲間たち」や「怪しい彼女」など、日本では今年の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した「新聞記者」や「ブルーアワーにぶっ飛ばす」など、日韓両国の作品で活躍しているシム・ウンギョン。彼女がそれまでのイメージを覆すような役柄に挑んだ作品である。日本では、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2017」で上映された。

父親を殺害された少女による復讐劇だ。連続殺人犯ギボム(キム・ソンオ)が7人を殺害した容疑で逮捕される。だが、裁判では証拠不十分のため、ギボムはたった1人を殺した罪で15年の刑となる。刑事だった父親をギボムに殺された少女ヒジュ(シム・ウンギョン)は復讐を誓い、父親の同僚たちの好意で警察署でアルバイトをしながらその時を待つのだが……。

最初はシンプルな復讐劇かと思っていた。だが、観ているうちにそんな単純な構図ではないことがわかってきた。出所したギボムを警察は徹底マークする。今度こそ連続殺人を暴くためだ。同時に、ヒジュもギボムに復讐する機会を狙う。そんな中、ギボムの周囲では再び殺人事件が起こり始める。

密告者の存在も浮上する。15年前にギボムが逮捕された原因となった密告を行った第三者だ。さらにギボムの周囲には怪しい人物が出没し始める。同時に、ギボムはある人物の行方を捜そうとする。そうした様々な要素が絡み合い、はたしてギボムが一連の連続殺人事件の犯人なのかどうかさえ、深い闇に包まれてしまうのだ。

映画の序盤には早くも驚愕の展開が待ち受けている。ギボムのほかに、何ともう一人の殺人者が出現する。それが事態を思わぬ方向へと導く。いや、実は殺人者はさらにもう一人いたのだ。それによって、ドラマはさらに混沌とした展開を見せ始める。単純な勧善懲悪ではない、正義と悪がないまぜになって世界へと突入する。

基本は犯罪サスペンスだ。過去の殺人の謎と進行中の殺人をめぐるあれこれが、スリリングに描かれる。そこにはスリラー的な要素もある。おぞましい殺人の瞬間も容赦なく描かれる。そしてアクションも随所に織り込まれる。さらに、当然ながら復讐のために生きてきたヒジュの人間ドラマもある。というわけで、良くも悪くも韓国映画らしい旺盛なサービス精神が「これでもか!」と発揮された作品だ。

終盤、ギボムは姿を消す。そして、ヒジュは悲願を遂げるべくギボムを待ち受ける。はたしてその結末は……。

ヒジュが行うのは究極の復讐だ。その衝撃的なシーンでは思わず息を飲みこんでしまった。そうした行動を取らざるを得なかったヒジュの気持ちを考えると、切なさと哀しさがこみあげてくる。

よく考えれば、それなりに粗も目立つ映画だ。例えば、犯行の過程でどうやって死体を運んだのか疑問だったりもする。警察官たちがいかにもステレオタイプだったりするのも気になる。ギボムと幼なじみとの関係もツッコミ不足だ。

とはいえ、それを上回る魅力があるのは、やはり主演のシム・ウンギョンの演技ゆえだろう。もともとコメディエンヌ的な素質を持つ彼女だけに、明るく素直で健気な女性を自然に演じるとともに、それとは裏腹の復讐鬼としての深い闇を見せつける。ヒジュの過去が十分に描き切れていないにもかかわらず、彼女の人生が余すところなく伝わってくる演技だった。今後の演技にも大いに期待できそうだ。

また、連続殺人犯役のキム・ソンオの底知れぬ恐ろしさも印象深かった。恐らく相当に減量したのではないか。浮き上がった頬骨と対照的に、ギラギラ光る眼がただならぬ空気感を醸し出す演技だった。

◆「少女は悪魔を待ちわびて」(MISSING YOU)
(2016年 韓国)(上映時間1時間48分)
監督・脚本:モ・ホンジン
出演:シム・ウンギョン、キム・ソンオ、ユン・ジェムン
Amazonプライム・ビデオにて配信中


少女は悪魔を待ちわびて