映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「悪人伝」

「悪人伝」
2020年7月26日(日)グランドシネマサンシャインにて。午後1時40分より鑑賞(スクリーン8/D-6)。

~ヤクザと刑事と連続殺人犯が交錯するスリリングで熱いバイオレンス・アクション

一度見たら忘れないアクの強い風貌と頑強な肉体(なにせ元フィットネストレーナーだから)で、脇役として強烈な存在感を発揮。「新感染 ファイナル・エクスプレス」で一躍大ブレイクし、「犯罪都市」「ファイティン!」「守護教師」(19)などのアクション作品に出演。ついに、マーベル・シネマティック・ユニバースMCU)作品「エターナルズ(仮)」でハリウッド進出を果たすことになったマ・ドンソク。

そんな彼がヤクザの組長を演じたのが「悪人伝」(THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL)(2019年 韓国)である。いや、それハマり過ぎですから。違和感なさすぎのキャスティング。

いったいどんな映画かといえば、英語のタイトルを見てもらえば一目瞭然。THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL。つまり、ヤクザの親分と刑事と悪魔の映画なのだ。

ドラマは凶悪な殺人事件の発生から始まる。刑事チョン・テソク(キム・ムヨル)は、それ以前に起きた殺人事件と同一犯による連続殺人を疑うが、上司は相手にしない。そんな中、今度はヤクザの組長チャン・ドンス(マ・ドンソク)が何者かにメッタ刺しにされる。奇跡的に一命をとりとめたドンスは、復讐を果たすために犯人捜しに動き出す。

一方、ドンスが刺された事件も連続殺人犯によるものだと確信したチョン刑事は、ドンスにつきまとい始める。両者は激しく対立するものの、狡猾な殺人鬼を突き止めるには互いの情報が必要であると悟り、共闘して犯人を追い詰めることにする。

というわけで、ヤクザの親分と刑事の共闘がドラマの核である。とはいえ、両者の思惑は同床異夢。ドンスはあくまでも復讐が目的であり、チョン刑事は犯人逮捕の功績による昇進をもくろむ。だから、両者は共闘するのと同時に、どちらが先に犯人にたどり着くかで競争もしているのだ。この設定が何とも絶妙である。

おまけに、ドンスもチョン刑事もどちらもアクの強いキャラクターだ。ドンスは言うまでもなく凶暴極まりない男。自分に逆らうものは許さず、徹底的に痛めつけて命まで奪う。敵対勢力の男をサンドバックの中に詰めて、ボコボコに殴るなどというシーンまである。

一方のチョン刑事は一匹狼の暴力刑事。冒頭近くで殺人現場に向かう際に渋滞に巻き込まれた彼は、いきなり車を降りて違法賭博場に単身乗り込んで、店の男を捕まえる。そこはドンスが経営する店。しかも、ドンスはチョン刑事の上司に便宜を図って、違法営業を見逃してもらっていた。だが、チョン刑事にとって、そんなことは関係なかった。犯人逮捕と昇進のためなら、何でもやる男なのだ。これほどアクの強い2人が絡むのだから、面白くないはずがないではないか。

2人が共闘し始めてからも事件は続く。犯人はなかなか捕まらない。その犯人探しをスリリングかつテンポよく描く。ドンスは手下を使って犯人に迫る。チョン刑事は若手刑事や女性鑑識官などの協力を得て犯人を追う。そこにはドンスによるライバル殺害事件なども、微妙な影を落とす。

なにせマ・ドンソクが出ているだけにバイオレンスが全開だ。容赦なく相手を殴る、蹴る、ボコボコにする。それはチョン刑事も同様だ。迫力のバトルシーンが何度も登場する。バトルだけではない、カーチェイスをはじめアクション映画のお楽しみがぎっしりと詰まっている。

その一方で、あちらこちらにはユーモアも散りばめられる。ドンスもチョン刑事も、ワルといえばワルなのだが、それでも憎めないところをチラリと見せる。そこから笑いも生まれてくる。

それに対して、戦慄を覚えるしかないのが事件の犯人だ。冷酷かつ無慈悲なサイコパス。英語タイトルにある悪魔とは、この男のことである。早くから彼の素顔は明らかになるが、それでも恐ろしさが消えることはない。3人のワルの中でも、ドンスとチョン刑事には人間臭さが感じられるが、このサイコパス男にはそんなものは無縁である。

終盤になって、ついにドンスとチョン刑事は犯人に肉薄する。そこではヒリヒリするような緊迫感の後にド派手なカーチェイスが演じられる。これにて決着かと思ったら、その後は車を降りての追走劇も用意されている。

その結果、先に犯人を捕まえたのはドンスか、それともチョン刑事か。そこは伏せておくが、その後も法廷での見せ場が用意されるなど、過剰なほどのサービス精神が感じられる場面が続く。

さらに、最後の最後には思わぬどんでん返しが! なるほど、そう来ましたか。やっぱりドンスはただものではなかったのだなぁ。

最近は役柄に幅の出てきたマ・ドンソクではあるが、こういう役は似合い過ぎている。バイオレンスも本物だから、ウソ臭さがない。チョン刑事を演じたキム・ムヨルも、負けず劣らずアウトロー刑事を熱演している。そして、サイコパスを演じたキム・ソンギュの冷たい目も印象深い。

とにかくスリリングで熱いバイオレンス・アクション映画である。この手の映画が好きな人なら見逃す手はないだろう。

ところで、この映画は実話に基づいているというクレジットがあったのだが、それは連続殺人事件のことなのだろうか。実際にヤクザと警察が犯人逮捕に協力したのだろうか。何にしても壮絶なお話である。

f:id:cinemaking:20200727203521j:plain

◆「悪人伝」(THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL)
(2019年 韓国)(上映時間1時間50分)
監督・脚本:イ・ウォンテ
出演:マ・ドンソク、キム・ムヨル、キム・ソンギュ、キム・ユンソン、オ・ヒジュン、チェ・ミンチョル、アン・スンポン
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ http://klockworx-asia.com/akuninden/