「声/姿なき犯罪者」
2022年10月22日(土)新宿武蔵野館にて。午後3時15分より鑑賞(スクリーン2/C-4)
~大規模な振り込め詐欺集団に潜入する元刑事の奮闘
依然として多い振り込め詐欺。韓国でも被害が深刻化しているらしい。その振り込め詐欺を題材に描いた犯罪アクション映画が「声/姿なき犯罪者」だ。
元刑事のソジュン(ピョン・ヨハン)は釜山の建設現場で働いていた。現場監督への昇進と昇給を、建設会社の社長から告げられ喜ぶソジュン。ところが、その直後に現場で事故が起きる。その混乱の中、ソジュンの妻に振り込め詐欺の電話がかかり、彼女はすっかり騙されて7000万ウォンを振り込んでしまう。おまけに、妻はショックで呆然としているところを車にはねられてしまう。さらに、建設会社の社長も騙され、従業員たちの給料など30億ウォンを奪われてしまう……。
というわけで、元刑事のソジュンが妻と建設会社の社長が奪われた金を取り戻し、復讐を果たすために、詐欺犯を追い詰めるドラマである。
といっても、この振り込め詐欺はかなり手の込んだもの。ソジュンの妻は犯人から電話がかかってきた時に、「本人に確かめる」といって一度電話を切っている。だが、ソジュンに電話をしてもつながらない。なんと建設現場に、電波を妨害する装置が仕掛けられていたのである。
これほど手の込んだことをするのはどんな犯人かと思えば、これがまたとんでもなく巨大な犯罪組織なのだ。そのアジトは中国にある。刑事時代の顔見知りのハッカーの女に依頼し、アジトの存在をつかんだソジュンは、中国に渡って犯罪組織に潜入する。はたしてソジュンは金を取り戻し、復讐を果たすことができるのか……。
ソジュンが潜入するアジトの巨大なコールセンターでは、総責任者クァクの指揮下で詐欺が行われている。数多くのスタッフが電話をかけ、組織的に詐欺を行うのだ。それはまるで巨大企業のようだ。スタッフたちは売り上げの目標額を掲げて、それをクリアすべく努力する。役どころの分担など、細かなところまで手が行き届いている。台本を作成する専門のチームまで存在するのだ。
ただし、すべてが合理的に処理されるわけではない。そこはさすがに犯罪組織である。暴力で従業員を威嚇し、裏切り者は許さない。そして、水面下で内部対立があるのも、いかにも犯罪組織らしいところ。
そんな場所に潜入して無事で済むはずがない。潜入には危険が伴う。ソジュンは何度も命の危機を迎え、そのたびに何とか切り抜ける。あわやのスリリングな場面が次々に登場する。それが本作の見どころの一つだ。
当然ながらアクションが満載だ。殴り合いを基本に迫力満点のアクションが繰り出される。それもソジュンがスーパーヒーローのように圧倒的に強いわけではない。ソジュンは反撃虚しくボコボコにされ、何度も捕らわれの身になる。それでも命からがら脱出し、再び敵に向かう。それが余計にスリルと緊張感を煽っていく。
エンタメ的な魅力に満ちた映画である。ユーモラスな場面もある。1時間47分の中にぎちぎちにいろいろな要素が詰め込まれているが、窮屈な感じはしない。多少だれるところもないわけではないが、観ている間はそれほど気にならなかった。双子の兄弟キム・ソン&キム・ゴク監督の手際の良さが目立つ。
この手の話はあまりにもエンタメに寄って、現実とはかけ離れてしまいがちだが、本作は、相当なリサーチを行ったというだけに、犯罪の手口などは圧倒的にリアルだ。犯人が言う「相手の無知ではなく希望と恐怖に付け込む」というセリフなど、「なるほど」と思わされるところが多々ある。
終盤は、就活生を狙う大規模詐欺の決行を背景に、ソジュンとクァクとの最後のバトルが展開される。劇中何度か描かれる警察の動きもそれにリンクする。ソジュンのその後をそつなく描く後日談まで、きっちりと楽しませてくれる。
同時に、この映画の犯人を逮捕しても、振り込め詐欺が根絶できないことも示唆する。犯人たちの次なる拠点はフィリピンか!?まさか続編なんてないよねぇ?
ソジュンを演じたピョン・ヨハンは、ボコボコにされても立ち上がる壮絶なたたずまいがよく似合う。
いかにも韓国映画らしいお楽しみが満載の犯罪映画だ。誰にとっても身近な振り込め詐欺をテーマにしているだけに、なおさらスリリングに感じられた。
◆「声/姿なき犯罪者」(ON THE LINE)
(2021年 韓国)(上映時間1時間49分)
監督:キム・ソン、キム・ゴク
出演:ピョン・ヨハン、キム・ムヨル、キム・ヒウォン、パク・ミョンフン、イ・ジュヨン
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
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