「もっと超越した所へ。」
2022年10月20日(木)TOHOシネマズ池袋にて。午後1時25分の回(スクリーン9/D-8)
~ダメ男を引き寄せる女性たちもダメ女!?根本宗子の舞台劇を映画化
根本宗子という劇作家・演出家・女優がいる。彼女の舞台はとても人気があるらしい。そんな中、仕事絡みでその根本のインタビューに同席することになった。しかし、舞台の出演者であるアイドルとともに話をした彼女は、ごく普通のお嬢さんという感じで、その人気の秘密まではよくわからなかった。
そんな根本が脚本・演出を手がけた2015年上演の舞台「もっと超越した所へ。」が映画化された。プロデューサーの近藤多聞がこの舞台を見て映画化を熱望したらしい。監督は「傷だらけの悪魔」の山岸聖太だが、脚本は根本自身が書いている。
4人の女性の恋愛模様を描くドラマだ。2020年、衣装デザイナーの真知子(前田敦子)の家にバンドマン志望のユーチューバー怜人(菊池風磨)が転がり込んでくる。元子役でタレントの鈴(趣里)はあざとかわいい男子の富(千葉雄大)と一緒に暮らしている。金髪ギャルの美和(伊藤万理華)はフリーターの泰造(オカモトレイジ)と、風俗嬢の七瀬(黒川芽以)は売れない俳優の慎太郎(三浦貴大)とそれぞれ付き合っていた。
この4組のカップルは、そこそこ幸せに暮らしている。
だが、一皮むけば、女たちは彼氏に不満を抱き、男たちはそれに甘えて増長している。ドラマの進行とともに、それが徐々に露見してくる。
例えば、怜人は強引で、しかも何かと真知子を支配しようとしたがる。富は優しいが、同性愛者で鈴が好意を持っているのを知りながら、恋愛相談などをする。泰造はやたらにハイテンションで調子が良い。慎太郎はプライドばかり高く、七瀬を小バカにしている。
映画はこの4組の日常を交互に描く。舞台劇がもとになっているから当然といえば当然だが、会話劇が中心だ。ポンポンとテンポの良いセリフが飛び出し、ユニークなキャラを使った笑いが炸裂する。
舞台だったら、おそらく爆笑の渦が巻き起こっただろう。だが、映画となると微妙に空気が違うのだろうか。個人的にはそれなりに笑えたのだが、客席が笑いに包まれるところまではいかなかった。
それでもダメ男たちを引き付けてしまう女たちの嘆きや、現状に不満を持ちつつ幸せを装う気持ちはよく伝わってきた。
中盤になると舞台は2018年にさかのぼる。そこでも4組のカップルの日常が描かれる。ただし、この4組は2020年とは顔ぶれが違っている。それによって一見無関係に思えた4人の女たちに、ある関連性があることがわかってくる。この仕掛けが秀逸だ。
そこでも男たちはダメダメぶりを発揮する。彼らはどうしようもないほどにダメなのだ。だから、当然女たちは不満を持ち、各カップルに別れの危機がやって来る。
その後、舞台は再び2020年に戻る。4組のカップルはこちらでも危機的状況を迎える。怜人が元カノに今も仕送りしてもらっていることが発覚するなど、4組それぞれに決定的な場面が訪れる。こうして、ラストはきれいさっぱり男たちと別れた女たちが、生き生きと輝くのだ。
と思ったら、そうではなかった。お米で始まりお米で終わるかと思われたラストシーン。いったんエンドロールが始まりかけたところで、驚きの展開が待っている。何じゃこりゃ。演劇的な魅力が目立ち、映画的な魅力に欠けると思われた本作だが、ここは演劇的な面白さに映像的な工夫も加わって、なかなかユニークだ。
そういえば、男ほどではないけれど、女たちにも確かに欠点があったっけ。それを考えればこういう結末もありかもしれない。ダメ男なのを知りながら、それでも彼らを必要としてしまう女心よ。男もダメだけれど、女もダメ。ダメダメ尽くしで性懲りもなく、面倒くさい恋愛はまだ続くのである。
それを祝福するかのようなラストシーン。祭りだ、祭りだ、祭りだぜッ!
まるでダメ男とダメ女の未来を祝福するかのような祝祭のシーンである。こんな結末は予想外だった。いかにもエンタメ演劇らしいラスト。根本宗子の人気の秘密が何となく理解できた気がする。
とはいえ、総じてみれば女に比べて、男のダメさ、クズさがよく見えるドラマである。男性が観ると肩身が狭いかも!?
俳優陣では、「Sexy Zone」の菊池風磨、千葉雄大、ロックバンド「OKAMOTO’S」のオカモトレイジ、三浦貴大(ダメ男をやらせたら絶品)など個性の強い男性陣も頑張っているが、何といっても女性たちの熱演、好演が光る。前田敦子はこういう役が絶品だし、黒川芽以もハマリ役、伊藤万理華は「サマーフィルムにのって」とはひと味もふた味も違う魅力を発揮し、趣里は「生きてるだけで、愛。」を彷彿させる壮絶な演技。こちらも女性たちが大活躍なのだった。
◆「もっと超越した所へ。」
(2022年 日本)(上映時間1時間59分)
監督:山岸聖太
出演:前田敦子、菊池風磨、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以、三浦貴大、趣里、千葉雄大
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://happinet-phantom.com/mottochouetsu/
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