映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「お母さんが一緒」

「お母さんが一緒」
2024年7月17日(水)新宿ピカデリーにて。午後1時35分より鑑賞(スクリーン3/D-11)

~温泉旅館で激しいバトルを展開する三姉妹。けらけら笑って、しんみりして、温かになれるホームドラマの秀作

 

や~れやれ。関東は梅雨も明けてまた暑くなってきましたなぁ。

政治の世界では、石丸伸二は政治タレントとしてはともかく政治家としては今のままでは中身が空っぽだということが明白になり、その一方で蓮舫バッシングの苛烈さには暗澹たる気分にさせられる日々。朝日新聞の記者までそれに乗っかるのだから、まったくどうなっているのやら。

エンタメの世界では、名バイプレーヤー中村靖日が51歳の若さで亡くなった。「運命じゃない人」の演技は素晴らしかった。その他の作品も印象深い。そういえばNHKのバラエティ番組「サラリーマンNEO」にも出演していたなぁ。合掌。

さて、ようやく腸のポリープ切除手術後の自粛期間が明けたので(ついでに胃の内視鏡の検査もした)、約2週間ぶりに映画館へ出かけてきた。

鑑賞したのは「お母さんが一緒」。杉並区長選を描いたドキュメンタリー「映画 ◯月◯日、区長になる女。」の監督としても知られる劇作家・演出家のペヤンヌマキ主宰の演劇ユニット「ブス会」が、2015年に上演した舞台劇をもとに「ハッシュ!」「ぐるりのこと。」「恋人たち」の橋口亮輔監督が映画化した。クレジットでは、ペヤンヌマキが原作・脚本、橋口監督が監督・脚色となっている。

本作は橋口監督にとって9年ぶりの監督作だ。といっても、もともとはCS放送ホームドラマチャンネル」が制作したドラマシリーズで、それを再編集して映画化したとのこと。

三姉妹のドラマだ。親孝行のつもりで母親の誕生祝いに母親を温泉旅行に連れてきた、弥生(江口のりこ)、愛美(内田慈)、清美(古川琴音)の三姉妹。しかし、この姉妹何だか最初から風向きが怪しい。

本当なら、楽しいはずの家族旅行。しかし、旅館に着いた早々、弥生は「部屋がかび臭い」「露天風呂が小さい」などと文句ばかり言う。旅館の手配をしたのは愛美。当然ながら気分を害す。その2人の間を清美が何とか取り持とうとする。

この3人、それぞれにくせ者だ。長女の弥生は母親似で、母親の期待に応えるべく努力してきた。しかし、1人だけ一重まぶたで、美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持っている。一方、次女の愛美も優等生の長女と比べられてきたことを根に持っていた。そして三女の清美は、そんな姉たちを冷めた目で観察していた。

実は本作に母親は登場しない。最初のほうでチラリと影が映るだけで、あとは別の部屋に泊まっているという設定で姿を見せない。この映画は旅館の中を舞台にした3人の姉妹による会話劇なのだ。

三姉妹の母親はかなりめんどくさい人らしい。そのため、3人は「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを持つ。それでも旅館の一室で母親への愚痴を爆発させるうちに、どんどん暴走していき、ついには罵り合いにまで発展するのだ。

この3人の言い争いを聞いているだけで大笑いする。そこでは3人が様々に立場を変える。弥生が愛美とバトルするだけでなく、清美も加わって、3者の関係が次々に変わっていく。あっちがああ言えばこっちがこう言い、そっちがそう言えばあっちがああ言う。対立と融和の繰り返し。前言を急に撤回して、コロッと違う立場になったりもする。そのシニカルかつユーモラスな会話が本作の大きな魅力だ。

そして、ただ笑えるだけではない。橋口監督は3人の姉妹の葛藤や苦悩も、さりげなく映画に挿入していく。弥生が自らの手を見て、思い悩む場面など印象深いシーンがいくつかある。会話の中にも、そうした苦悩や葛藤がにじみ出る。

途中からは、清美がサプライズで恋人のタカヒロ青山フォール勝ち)を呼び寄せたことから、事態は思わぬ方向へと進んでいく。

タカヒロを母親に紹介するという清美。最初はそれに反対するものの、弥生が急に味方するようになる。その一方で、男運が悪くて独身の愛美は妹が先に結婚するのが面白くない。三姉妹プラス飄々として何を考えているかわからない男1人。この4人の関係もまた次々に変化していき、そこから笑いが生まれるのである。

終盤には、清美とタカヒロの想像もしない秘密が明らかになり、さらに混乱が深まる。話は二転三転する。このまま破綻したまま結末を迎えるのか?

いやいや、そうではなかった。ホッコリと心を温めてくれる結末が待っていた。なんだかんだ言っても、この三姉妹、根底ではかろうじてつながっていたのである。

かくして、家族とはめんどくさいものなのだ。それでもお互いに言いたいことを言って、気持ちを吐き出したなら、その先には青空が待っているはず。だって、やっぱり家族はかけがえのないものだから。そんなことを考えさせられた。私に家族はいないけど(笑)。

橋口監督らしさを残しつつ、新たな世界に踏み出した映画。けらけらと笑って、ちょっぴりしんみりして、最後は温かくなれる。ちょっと風変わりではあるものの、これぞホームドラマの秀作である。

三姉妹を演じた江口のり子、内田慈、古川琴音がまさしく適役。江口、内田の演技力の高さはすでにおなじみだが、古川のコメディエンヌぶりもなかなかのもの。ついでに清美の恋人役を演じたお笑いトリオ「ネルソンズ」の青山フォール勝ち(なんだ?この名前は)もいい味を出していた。

◆「お母さんが一緒」
(2024年 日本)(上映時間1時間46分)
監督・脚色:橋口亮輔
出演: 江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ち
*新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://www.okaasan-movie.com/

 


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