映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

七夕忌 PANTA一周忌&頭脳警察55周年記念ライブ

またまた映画館に行けなくなってしまった。

今週水曜日(10日)。腸のポリープを切除する手術を受けたので、5日間ほどは遠出を禁じられてしまった。映画館に行くのが遠出かどうかは微妙なところだが、水道橋博士のように救急車で運ばれる事態になってはまずいので(彼は飲酒したらしいが)、しばらく自重することにした。それにしても、その間、消化の良いもの(お粥など)しか食べられないのはきつい。うーむ、何たることだ。
というわけで、映画レビューは書けないので、手術前の8日に参加した音楽イベントの感想などを・・・。

 

2023年7月7日の七夕に、私がずっと追いかけてきた大好きなロック・ミュージシャン、頭脳警察PANTAが亡くなった。73歳だった。
今年はその一周忌にあたる。翌8日には渋谷のduo MUSIC EXCHANGEで「七夕忌 PANTA一周忌&頭脳警察55周年記念ライブ」が開催された。
石塚俊明、おおくぼけい、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、竹内理恵という頭脳警察のメンバーの演奏で、鈴木慶一、大久保ノブオ、ミッキー吉野難波弘之、玲里、アキマツネオ、仲野茂、大槻ケンヂうじきつよし、下山淳、ROLLY渡辺えり、マリアンヌ東雲、夏川椎菜、髙嶋政宏という豪華出演者が2~3曲ずつPANTAの楽曲を歌うというイベントだ。これだけキャラの濃い人たちが集まったのだから、そのステージは破格のものだった。出演者は生前のPANTAとの思い出などを語りながら、それぞれに選曲した曲を歌う。

オープニングは難波弘之・玲里父娘による頭脳警察の初期曲、ポップなロック「イエス・マン」の演奏だ。楽しげに歌う玲里の姿に、この日のイベントの趣旨が象徴されていた。そう。みんなで楽しく命日を過ごすのだ。天国のPANTAが喜ぶように。

続いて登場したのは、うじきつよし。「悪たれ小僧」をシャウトした後、生前PANTAに「お前が歌え」といわれていたと「R★E★D」を熱唱。PANTA最後のステージでも一緒だっただけに、思いの籠った歌だった。

下山淳は、PANTAルースターズに提供した「鉄橋の下で」「曼陀羅」を歌い、さらに珠玉のバラード「裸にされた街」を彼なりのアレンジで演奏した。

本当は白井良明とともに「青空ボーイズ」として登場するはずだったポカスカジャンの大久保ノブオは、白井が体調不良で出演見合わせということで、一人で「いとこの結婚式」を、そしてPANTAの訳詞によるビートルでの名曲「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」を歌い、PANTAとの爆笑エピソードも披露した。

続いて声優の夏川椎菜が登場。石川セリPANTAが提供したヒット曲「ムーンライト・サーファー」を透明感ある歌声で歌いあげ、さらにPANTA橋本治との思い出を綴った「冬の七夕」を歌い涙ぐんだ。

仲野茂は、かつてPANTAからもらった思い出深い赤いバイクのヘルメットを持って登場。「屋根の上の猫」と「ふざけるんじゃねえよ」を絶唱した。パンク心あふれる歌だった。

マリアンヌ東雲は、頭脳警察最新アルバムに収録された「タンゴ・グチラア」を妖艶に歌い、頭脳警察の「あばよ東京」で観客の心を震わせた。

この日のイベントには、PANTAと親しかった俳優も出演。高嶋政宏が「戦士のバラード」を思い入れたっぷりに歌った。

ROLLYは、「PANTAとはシャンソンの話ばかりしていた」ことを明かし、「銃をとれ」と「コミック雑誌なんかいらない」という頭脳警察の代表曲を独自の世界観で演奏した。

 

アキマツネオはグラムロックイースターでのPANTAの思い出とともに、「PANTAの残した曲は懐メロみたいにしちゃいけない。定期的にこういうイベントをやるべき」と語った。そして、難曲の「極楽鳥」と90年再結成頭脳警察を象徴する曲「万物流転」の完全バージョンを歌った。

続いて筋肉少女帯の衣装で登場した大槻ケンヂは、共産主義者同盟赤軍派日本委員会 の上野勝輝のアジ演説を曲に乗せた「世界革命戦争宣言」を堂々披露。さらに、激しいロック「BLOOD BLOOD BLOOD」を目いっぱいシャウトした。

迫力で言えばこの日のナンバーワンだったのが女優の渡辺えりだ。高校生時代から頭脳警察のファンだったという彼女は、90年頭脳警察の「腐った卵」を披露。インプロビゼーションを交えてTOSHIのドラムとバトルした素晴らしい歌だった。そして、圧巻だったのがPANTA沢田研二に書いた「月の刃」の熱唱。私も大好きな曲だが、渡辺の抜群の表現力によって曲の美しさが際立った。

鈴木慶一ミッキー吉野とともに登場。自身がプロデュースしたPANTA&HALの曲「オートバイ」と「つれなのふりや」を歌い、「つれなのふりや」ではコール&レスポンスも会場に響き渡った。

最後はスクリーンに映されたPANTAの歌唱映像に合わせて頭脳警察のメンバーたちが「東京オオカミ」「絶景かな」「さようなら世界夫人よ」の3曲を演奏。まるでPANTA本人がステージにいるかのような演奏に思わず目頭が熱くなった。それにしても、これだけバラエティーに富んだゲストによる多種多様な歌を支える頭脳警察の演奏力には恐れ入った。

この日の開演は午後6時。終演が午後10時。間にセットチェンジが入ったとはいえ3時間以上のステージ。私は幸いにも最前列の中央近くで着席して見ることができたが、立ち見の観客も多かった。だが、まったく長さを感じさせない素晴らしいライブに、拍手が鳴りやまなかった。最後にみんなで記念撮影。きっとPANTAも天国で喜んでいることだろう。

この日感じたのは、ゲストたちのPANTAへの強い愛。言葉の端々から、歌声からそれが感じられた。こんなに幅広い人たちと交遊があったなんて、PANTAってすごいな。

そしてPANTAが作る楽曲の魅力も実感した。演奏されたのは初期頭脳警察の曲、頭脳警察解散後のソロ曲、PANTA&HALの曲、その後のソロ曲、再結成以降の頭脳警察の曲、他のアーティストに提供した曲など様々だったが、どの曲も素晴らしく心をつかまれた。同時にPANTAの音楽性の幅広さも再認識した。もうPANTAはいないけれど、これからも彼の描いた楽曲はますます輝いていくことだろう。

ステージの最後にTOSHIが観客への感謝の言葉を述べるとともに、「これからどんな時代になるかわかりませんが、表現者としてみんなここに立っているのですから、なんとかしましょう」と挨拶した。前日の東京都知事選挙の結果をふまえて、それでも前向きに進もうという意思の表れだと思った。音楽に世の中を変える力はない。だけど誰かの背中を押すことぐらいはできるかもしれない。確か、生前のPANTAがそんなことを言っていたはずだ。それを信じて、うつむかず、前を向いて歩いていこう。