映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「#スージー・サーチ」

「#スージー・サーチ
2024年8月19日(月)新宿シネマカリテにて。午後2時15分より鑑賞(スクリーン2/A-5)

SNS社会の恐ろしさをポップでシニカルなタッチで伝える

 

夏風邪を引いたらしく体調が最悪で、ここ数日何もできなかった。ようやく回復しつつある感じだが、まだ本調子ではない。このブログをアップしたら、また少し休もう。

SNS社会の恐ろしさを伝える映画は数あれど、とりわけユニークなのが現在公開中の「#スージー・サーチ」である。「なるほどこういうスタイルもあるのか」と唸らされたのだった。

ミステリー仕立てのドラマである。主人公は大学生のスージー(カーシー・クレモンズ)。幼いころから謎解きが得意だった彼女は、未解決事件を扱ったポッドキャスト「スージー・キュー」を配信していた。収益が上がるようになったら、病気の母のために引っ越したいと考えていたものの、フォロワーはなかなか増えなかった。そんなある日、人気インフルエンサーで同級生ジェシー(アレックス・ウルフ)が行方不明になる。スージーは調査に乗り出し、ポッドキャストの配信中にジェシーを発見することに成功するのだが……。

素人探偵がインフルエンサー失踪事件の謎を解くドラマかと思いきや、早いうちに意外な真相が明かされる。なぜスージーが早期にジェシーを救出できたのかが、観客の前に提示されてしまうのだ。

おいおい、この先の展開をどうするんだよ! と思ったら、あらまあそういうことなのね。ドラマはSNS時代の闇に迫る物語へと転化するのだった。

見事にジェシーを救出したスージーは、一躍話題の人になってしまう。ポッドキャストは大人気となり、人々は手のひらを返したように彼女に優しくなる。学長もスージーを大学のPRに利用しようとする。

それより何よりスージーにとってうれしい出来事があった。スージージェシーは一緒にインタビューを受ける。その中で、ジェシーはスージーを命の恩人として扱う。一方、スージージェシーに気がある。そのため、2人の仲は急接近するのだ。

だが、その反面、スージーはある秘密を抱えていた。それが露見しないかと気が気ではない。何とかそれがバレないようにと、様々な工作を仕掛ける。

というわけで、途中からは予測不能なドラマが展開する。面白いのは、それをポップでノリの良い映像、演出で見せていくことだ。コーエン兄弟の作品を連想させるようなシニカルな笑いもたっぷりまぶす。

そういえば、保安官とその部下、バイト先の店長、同級生の男子学生など怪しすぎる人物を登場させるのも、コーエン兄弟の作品と共通している。このあたりは、舞台を閉鎖的な田舎町に設定したこととも関係しているのだろう。そういう人々が絶妙の間で出入りし、ドラマに彩りを添える。

冷静に考えれば、起きていることはひどいことばかりだし、残虐に描いたら目をそむけたくなるほどなのに、それをちっとも感じさせないのが見事。

ソフィー・カーグマン監督はこれが長編デビューとのこと。2020年に手掛けた同名短編映画を長編にしたらしいが、いたるところで才気を感じさせる。今後が楽しみな監督だ。

主人公のスージーを、いつも明るい女の子に設定しているのも秀逸。キラキラした笑顔が素敵だ。歯列矯正していて、笑うとそれが丸見えなのも何となく愛らしい。彼女は冷静に考えれば、とんでもない人物なのだが、それも感じさせない。だからこそ、彼女が生きるSNS社会が怖くなってくるのである。

演じるカーシー・クレモンズは、「DOPE/ドープ!!」「ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた」などに出演していたそうだが、本作では製作総指揮も兼ねている。その思い入れがうかがえる存在感たっぷりの演技だった。

終盤も二転三転する展開。スージーが殺人鬼(予想外の人物)に追われて、あわやの場面に遭遇する。その果てに迎えるのは大団円(?)。うーむ、スージーにとっては幸せだろうが、我々観客からすると何となくもやもやが残るよなぁ~。

と思ったら、出ました。最後のひと言! このひと言で運命は大逆転し、観客をさりげなくカタルシスに導くのであった。最後の最後まで、良く作られているわ。この映画。

言わんとしていることは、「SNS時代に過剰な承認欲求を持つとロクなことになりませんよ~」という教訓なのだが、それをこういう脚本と演出のドラマで描くのだからユニーク。今の時代らしいミステリー&風刺劇だ。

◆「#スージー・サーチ」(SUSIE SEARCHES)
(2022年 アメリカ)(上映時間1時間45分)
監督:ソフィー・カーグマン
出演:カーシー・クレモンズ、アレックス・ウルフ、ジム・ガフィガン、ケン・マリーノ、デヴィッド・ウォルトンアイザック・パウエル、レイチェル・セノット、ジェフリー・オーウェンズ、アレックス・モファット
*新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://sundae-films.com/susie/

 


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