「震える舌」
2024年7月14日(日)YouTube(松竹シネマPLUS)にて鑑賞。
~ホラー映画のように恐ろしい。死に至る病にかかった娘
熱を出して寝込んだり(夏風邪?)、何やかやで10日以上も映画館に行けない日々。あんまり間が空くのも何なので、番外編として7月に配信で観た映画の感想をアップします。松竹シネマPLUSで2週間限定無料公開されていた松竹映画「震える舌」です。
原作は芥川賞作家、三木卓の小説。東京のベッド・タウンである千葉郊外の団地に三好昭(渡瀬恒彦)と妻の邦江(十朱幸代)、娘の昌子(若命真裕子)の三人家族は住んでいた。その付近には、まだ葦の繁みがあり、昌子は湿地の泥の中を蝶を追って捕虫網をふりまわしていた。数日後、昌子は食へ物をポロポロこぼし、鵞鳥のような歩き方をするようになる。そして、昌子は絶叫をあげて倒れた。歯の間には舌がはさまって口中血だらけだ。大学病院で検査した結果、「テタナス(破傷風)」であることがわかる。それは、古代から地球に存在した微生物だった。彼女は治療を受けるのだが……。
死に至る病と言われた破傷風にかかった娘が、どんどん症状が悪化していく様子を描いたドラマだ。父親の子供時代に関係する悪夢や、娘が元気だったころの思い出、破傷風を蝶(毒蛾?)に見立てた映像なども随所に織り込まれるが、なんといっても徹底的にリアルに描いた闘病の様子がすごい。
舞台は大学病院の小児科の病室。刺激を与えてはいけないということで、真っ暗にした部屋でドラマが進行する。
「震える舌」というタイトルからもわかるように、頻繁な痙攣によって舌を噛み口が真っ赤になる娘。それはもうホラー映画並みの恐ろしさだ。そして、病状の悪化に対応して医師たちがとる処置も、あますところなく現実に即して描かれる。
常に悲鳴を上げ続ける娘。必死の形相で医療措置をとる医師。野村芳太郎監督、川又昂撮影監督による容赦のない映像が次々に繰り出される。それを見ているうちに、両親は疲弊し錯乱するわけだが、見ているこちら側もあまりの恐ろしい場面の連続に、背筋が凍り付き気分が悪くなってくるのである。なんというリアリズム!
さらに両親には、「自分たちも破傷風に感染したのでは?」という恐怖があり、それがさらに彼らを追い詰めていく。それを演じる渡瀬恒彦、十朱幸代という名優の演技も壮絶。
しかし、まあ、それにもましてすごいのが破傷風にかかった娘を演じた若命真裕子の演技だ。野村監督の演技指導の賜物だろうが、「この子、本当に破傷風にかかったのでは?」と思わせるリアルな演技である。
中野良子が演じた主治医の存在感も光る。冷静にてきぱきと指示を出し、娘の命を救うため最善の方法を選択する。その一方で人間味あふれる姿も時折見せる。
危篤状態も経験し、見る者を恐怖のどん底身に叩き落とした娘。当然、このまま死に行くのだと思ったら、ラストは意外な結末。それまでの恐怖が大きかっただけに、その分大きなカタルシスを感じたのだった。
野村芳太郎がこんなホラー映画のような作品を撮っていたとは知らなかった(タイトルは前から知っていたけど)。40年以上も前の映画で、出演者は名優ぞろい。しかし、そのほとんどが鬼籍に入っているというところに、時代の流れを感じさせますなぁ。
◆「震える舌」
(1980年 日本)(上映時間1時間54分)
監督:野村芳太郎
出演:渡瀬恒彦、十朱幸代、若命真裕子、中野良子、越村公一、宇野重吉、北林谷栄、梅野泰靖、蟹江敬三、中原早苗、矢野宣
*はてなブログの映画グループに参加しています。よろしかったらクリックを。
*にほんブログ村に参加しています。こちらもよろしかったらクリックを。