「ボストン1947」
2024年9月3日(火)池袋シネマ・ロサにて。午後2時より鑑賞(シネマ・ロサ2/C-8)
~祖国への思いを胸にボストンマラソンに挑む男たち。エンターティメントを通していろいろと考えさせられる
韓国の歴史映画には面白いものが多い。エンターティメントとしてきちんと成立していて、そのうえで歴史を伝える作品が多いからだ。
「ボストン1947」も歴史が素材。1947年のボストンマラソンに参加した韓国チームの奮闘ぶりを描いた実話ドラマである。
ただし、それには伏線がある。1936年のベルリンオリンピックのマラソンで韓国(当時は朝鮮)の選手ソン・ギジョンとナム・スンニョンが金メダルと銅メダルに輝いた。しかし、彼らは韓国人として大会に参加したのではなかった。当時の韓国は日本の統治時代。そのため日本名の孫基禎と南昇竜として参加していたのだった。
韓国にとって屈辱のこの事実を描くかと思えば、さにあらず。ベルリンオリンピックの一件は冒頭でコンパクトに触れられるだけ。その後に描かれるのは、ソン・ギジョンとナム・スンニョンが若い選手を育成して、ボストンマラソンに挑戦する話だ。
第2次世界大戦の終結とともに韓国は日本から解放された。だが、ソン(ハ・ジョンウ)たちの記録は日本のままだった。そんな中、ソンは不本意にも現役引退に追い込まれ荒んだ日々を送っていた。ある日、ソンの前にナム(ペ・ソンウ)が現れる。現役を続けながらコーチを務めていた彼は、「素晴らしい選手を見つけた。2人で鍛えてボストンマラソンに韓国代表として出場させよう」と持ち掛ける。
最初は拒否していたソンだが、仕方なくナムの話に乗ることになる。だが、そこには数々の困難が待ち受けていた。まず、ナムが見つけた若い選手ソ・ユンボク(イム・シワン)がマラソンをやる気がない。いや、貧しいうえに病弱な母を抱えていた彼は、金を稼ぐのに必死でそんな余裕がなかったのだ。
それでも、何とかしてソをマラソン選手として育て始めた2人だが、ボストンマラソン出場には高い壁があった。当時の韓国は日本から解放されたものの、今度はアメリカが駐留しており、韓国はアメリカの属国扱いだった。そのためアメリカ入国には、保証人と多額の保証金が必要なのだった。
本作は、こうやって数々の困難にも負けず、祖国への思いを胸に懸命に闘う3人を描いたドラマだ。ただし、政治的なメッセージは真正面から扱わない。あくまでもエンターティメントの枠の中でドラマを展開する。
テンポよく、メリハリの利いた演出が目に付く。ドラマチックに盛り上げるところは盛り上げるし、笑わせるところは笑わせる。感動を誘うところは思いっきり感動を誘う。とにかく巧みな演出だ。
それもそのはず、本作の監督は「シュリ」「ブラザーフッド」などでおなじみのカン・ジェギュ。ベテランの技が冴えわたる。欠点のないところが欠点だと言いたくなるような演出だ。そのおかげで観ているうちに次第に3人を応援したくなってくる。
前半のハイライトはソンとナムが企画した壮行会。そこで事態を打開しようとするのだが、ソンたちの計算通りに事は進まない。それでも……。
そして、後半はいよいよボストンマラソンに参加する3人を描く。米軍機で様々な場所を経由してアメリカに向かう機内の様子をユーモラスに描く。
ところが、ボストンについても彼らは困難に直面する。なんと彼らのユニフォームには太極旗ではなく、星条旗が描かれていた。アメリカの属国扱いだったのだ。はたして、ソ選手は韓国代表として出場できるのか?
というわけで、後半も大いに盛り上がる。そのハイライトはもちろんボストンマラソン。当時の運動着や運動靴を再現し、ボストンの街並みをCGで再現するなど舞台装置も万全。迫力満点で熱いマラソンシーンが展開する。
エンドロールでは、この手の映画の定番だが、実際の彼らがどんな人生を送ったかが語られる。
というわけで、エンターティメントとして十二分に堪能したのだが、それだけで終わらないのが韓国映画の特徴。観終わって、過去の暗い歴史やそれに翻弄された人々に思いを馳せることとなった。さらにはその悲劇のもととなった「国家」というものについても、いろいろと考えさせられるところがあった。今でもオリンピックは国威発揚に利用されるし、選手はそれに従わされるわけだから。
主演のソン役は「チェイサー」「ベルリンファイル」「お嬢さん」「1987、ある闘いの真実」などで日本でもおなじみのハ・ジョンウ。押し引きの利いた演技はさすがだった。相棒ナム役のペ・ソンウのコミカルな味わいも素晴らしく、2人の友情物語を盛り立てていた。若手選手ソ役のイム・シワンの若々しさも印象に残る。
◆「ボストン1947」(ROAD TO BOSTON)
(2023年 韓国)(上映時間1時間48分)
監督:カン・ジェギュ
出演:ハ・ジョンウ、イム・シワン、ペ・ソンウ、パク・ウンビン、キム・サンホ
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://1947boston.jp/
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