映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ニューノーマル」

ニューノーマル
2024年8月17日(土)シネ・リーブル池袋にて。午後2時30分より鑑賞(スクリーン1/C-7)

現代社会の日常に潜む恐怖を6話のオムニバスで描いたホラー映画

 

夏だもの。1本ぐらいはホラー映画を観ておきたいわよねぇ~。

というので、観たのは韓国映画ニューノーマル」。ソウルを舞台に6つの話で構成されたオムニバス形式のホラー映画だ。監督・脚本は、韓国で大ヒットを記録したホラー映画「コンジアム」のチョン・ボムシク。

映画の冒頭、世間で続発する凶悪事件のニュースが流れる。その最後に、一人暮らしの女性ばかりが狙われる連続殺人事件がソウルで発生していることが告げられる。

そんな中、第1章が幕を開ける。マンションで一人暮らしをしているヒョンジョン(チェ・ジウ)は、火災報知器の点検だという中年男の訪問を受ける。「管理人から何も聞いていない」とヒョンジョンは警戒するが、男は「連絡ミスだ」と言ってとりあわない。仕方なくヒョンジョンがドアを開けると、男はずかずか部屋に上がり込んで、厚かましくも下品なふるまいをする。それが観ている者の神経を逆なでし、恐怖感を増幅させる。ひょっとしたら、コイツが連続殺人犯ではあるまいか。そんな思いが膨らんでハラハラドキドキが最高潮に達する。ところが……。

普通のホラー映画だったら、いくらオムニバス形式でも、連続殺人犯の正体を謎のままにして少しずつ恐怖を高めていくのではあるまいか。だが、この映画では1章で早くも犯人をばらしてしまう。しかし、それでも面白さが失われることはない。2章以降もいろいろとヒネリの利いた構成が組まれ、そこにブラックなユーモアがまぶされ、さらにセンスの良い映像と演出が用意されているからだ。

2章以降も簡単にストーリーを紹介しよう。第2章は中学生男子の青春ストーリー。スンジン(チョン・ドンウォン)が、行き掛かり上、街で困っている車いすの老女を助ける。ヒーローになった気分でいたスンジンだが、間もなくその善行が恐ろしい悪夢に変わってしまう……。

第3章は、スマホマッチングアプリを利用する女の子ヒョンス(イ・ユミ)が、カフェで殺人事件に遭遇。その後、さらに恐ろしい事態に直面する……。

第4章は、出会いを求める孤独な大学生フン(チェ・ミンホ)が、自動販売機に置かれた手紙に書かれた指示通りに行動すると、信じられないことが起きる……。

第5章は、マンションの隣の部屋の美女に恋したギジン(ピョ・ジフン)が、盗撮の果てに彼女の部屋にまで侵入。しかし、そこに待っていたのは……。

第6章は、ミュージシャン志望でコンビニの店員をしているヨンジン(ハ・ダイン)の物語。悪質な客たちに悩まされ、自殺願望を抱く彼女は、あるSNSの書き込みから殺人者に追われることになる……。

ちなみにこの6つの章名には、それぞれ名前が付けられている。それが過去の映画のタイトルなのだ。フリッツ・ラングの「M」、スパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」、ブライアン・デ・パルマの「殺しのドレス」。マイケル・パウエルの「血を吸うカメラ」、ラッセ・ハルストレムの「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」。どれも内容にぴったりの遊び心満点のタイトルだ。

また、各章は完全に独立しているわけではなく、3日間という時間を行き来しながら同じ人物が他のエピソードにも顔を出すなど、微妙にリンクしているのも面白い特徴だ。1章の火災報知機の男が、6章でタチの悪いコンビニ客として登場するところなど、思わずニンマリする仕掛けがあちこちにある。

もちろんホラー映画だから、それぞれのエピソードのクライマックスはホラー的な恐怖場面ということになる。ただし、その場面だけを見れば、ことさらに恐ろしいわけではない。そこに至るまでの描写が秀逸で、登場人物の心理状態や置かれた環境がそつなく描かれているおかげで、恐怖場面の怖さがより引き立つのだ。

6つの話はそれぞれ異なるタッチで描かれている。だが、そこには共通しているものがある。それは現代社会に潜む恐怖だ。マッチングアプリ、動画配信、SNS、貧富の格差などがドラマの背景に盛り込まれ、それがドラマにリアル感をもたらす。まさにタイトル通りに「ニューノーマル」=新常態。現代社会では日常のあらゆる場面に恐怖が存在している。それが新常態なのだと語りかける。

殺人鬼がたくさん登場する映画だが、怖いのは殺人鬼ばかりではない。第6章では孤独なコンビニ店員ヨンジンの姿を通して、生きることそのものが恐怖であることを印象付ける。しかも、自殺願望を抱く彼女が、最後には殺人鬼に追われるという皮肉! このあたりもよく考えられた映画だ。

まあ、オムニバスゆえ、それぞれのエピソードに突っ込み不足や飛躍も多々見られる。最後にカタルシスがあるような映画でもないから、そういうものは期待しないほうがいい。それでも水準以上のホラー映画で個人的には十分に楽しめた。

俳優では「冬のソナタ」「天国の階段」のチェ・ジウが、今までの役どころからは考えられないとんでもない役を好演。「皆さんの予想を裏切るような俳優さんに演じてほしかった」というチョン監督の期待に見事に応えている。

また、第6章でヨンジンを演じたハ・ダインの圧倒的な存在感も光った。孤独と絶望の中で、この世のすべてに対して「ファック!」と言い放つその目力が印象深い。彼女は新人だそうだが、今後大きく飛躍するかもしれない。その他のキャストもなかなかのものだった。

◆「ニューノーマル」(NEW NORMAL)
(2023年 韓国)(上映時間1時間53分)
監督:チョン・ボムシク
出演:チェ・ジウ、イ・ユミ、チェ・ミンホ、ピョ・ジフン、ハ・ダイン、チョン・ドンウォン
*新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://newnormal-movie.jp/

 


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